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Salesforceでは誰もが主人公に――Dreamforce 2018レポート(AD)

シリコンバレーを一変させるDreamforce――Salesforce急成長の原動力を探る

Salesforceでは誰もが主人公に――Dreamforce 2018レポート

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 シリコンバレーには、いくつかのセクター(集積地)がある。南に位置するサンノゼは半導体やメカトロなどハードウエア・セクター。一方、パロアルトやサンマテオなどはモバイル・クラウド・セクターであり、サンフランシスコ空港からデーリー・シティーあたりは、医療・バイオ系セクターとして有名だ。セールスフォース・ドットコムの本社は、サンフランシスコ市街。シリコンバレー最大のウェブ・デザイナー/プログラマー集積地と言われる。そこでは、毎月のように技術カンファレンスが催され、毎日のように開発者向けミートアップが開催される。最近では機械学習やAIのミートアップが花盛りで、仕事帰りのプログラマーは最新技術の習得に余念がない。そんな先端テクノロジーの激戦地サンフランシスコで異彩を放っているのが、Salesforceの年次カンファレンス「Dreamforce」だ。

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サンフランシスコが普通の街に変わる

 Dreamforceは、シリコンバレーで開催される世界最大級のソフトウェアカンファレンスだが、注目されるのはその大きさだけではない。その庶民的な風情というか、まるでカウンティー・フェアー(地域のお祭り)のような風景がコンベンション会場を包むことでも有名だ。

 クルマを締め出した会場前の道路にはミニコンサートの舞台ができ、クラシックロックバンドが演奏する一方、その周りにはフードコート(飲食店)やボランティア活動のブースがところ狭しと並ぶ。Dreamforceを知らない人は、これがソフトウェアカンファレンスとはとても想像できないだろう。

 また、マーク・ベニオフ会長の開会スピーチにも特徴がある。多くのソフトウェアベンダーの開発者会議では、キーノートで自社のテクノロジーやプロダクトの魅力を解説している。集まったデベロッパーに「これは面白い機能なので使ってみよう」と開発意欲を掻き立てることを狙ったものだ。

 一方Salesforceは、音声AIの「Einstein Voice」や先端オムニ・マーケットツール「Customer 360」、今年買収した先端統合プラットフォーム「MuleSoft」など、新サービス発表が目白押しにもかかわらず、ベニオフ会長のスピーチは、製品やサービスを前面に押し出すことはない。

客席を回って語りかけるマーク・ベニオフ会長
客席を回って語りかけるマーク・ベニオフ会長

 スピーチのメイントピックはSalesforce社員のボランティア活動報告や、ロックバンド「メタリカ」のドラマーが登場し、ファンとのエンゲージメントにSalesforceを利用している話など。演壇から降りて、来場者の回りを歩きまわりながら語りかける。今年開催されたDreamforce 2018のスピーチでは、危機に瀕する米国の公立中高教育の問題を取り上げ、募金活動を奨励した。

 また、製品別のキーノートでは具体的なユーザー事例をSalesforceの担当者が解説し、開発した企業の担当者を褒め称える。スピーチの視点は「利用者側」に徹底しており、会場に広がった共感に、来場者は熱狂的な拍手と声援で応える。

 なぜ、Salesforceは、そうした姿勢を貫くのだろうか。それは、同社の競争力が先端アプリケーションを「一般市民に普及させる」点にあるからだ。

新市場創造ではなく、大衆化を目指す

 アップルやグーグルの開発者会議は、全米から指折りのプログラマーが集まってくる。会場のデザインや展示も、若いギーク受けするものが多い。一般とはかけ離れた雰囲気が漂う。

 一方、Dreamforceの主役は、日々、企業内でSalesforceのアプリを管理するアドミニストレーター(管理人)たち。中高齢者も多い。その多くはコードを書くための専門教育を受けてはいない。

 実際、Trailhead(英語で登山口の意味、同社の無料eラーニングサービス)キーノートの取材中、隣に座ったアドミニストレーターは「僕はコンピュータの原理はわからない。でも、Salesforceなら僕でも扱える」と自作のポーカーゲームのアプリを見せてくれた。そんな体験を彼はセッションで発表したと誇らしげだ。Salesforceに出会うまで、プログラム開発とは無縁だったと薄くなった頭を掻きながらはにかむ姿が印象的だ。

Trailhead基調講演で優秀なアドミンを表彰する
Trailhead基調講演で優秀なアドミンを表彰する

 こんなアメリカの中小都市で見かける普通の人々が、10万人という規模でサンフランシスコに押し寄せる。だからこそ、日頃は先端プログラマーが闊歩するダウンタウンが、Dreamforceの時期だけは庶民的な街に様変わりする。

 しかし、この庶民的なアドミニストレーターの原動力こそ、Salesforceがグーグルやアップルに負けずにシリコンバレーで急成長を遂げてきた理由にほかならない。

 プログラミングは、コーディング型とノン・コーディング型に分かれる。前者はJavaやPythonなどのプログラミング言語の構文や意味、システム、ライブラリーなどを理解して、コードを書いていく。もちろん、プログラミングの専門教育を受ける必要があり、長年の経験が必要だ。

 ノン・コーディング型は、プログラミング言語を知らなくても、パーツやリストから必要な機能を選択してつなぎ合わせることでアプリケーションを構築できる。

 クルマに例えれば「コーディング型」は製造メーカーでエンジンやトランスミッションなどを設計製造する設計者に当たる。一方、ノン・コーディング型は、街のショップや自宅で好きなデザインに車を変身させる技能者やノン・プロフェッショナルにあたる。

 コーディング型の開発者は、新市場を実現することに集中する。シリコンバレーのベンチャー・キャピタル回りをすると「あなたのサービスはどんな新市場を切り開くのですか」と聞かれるはずだ。従来の機能を「10倍に高めました」では、ベンチャー・キャピタルは納得しない。もちろん、シリコンバレー・ベンチャーは新市場創造へのこだわりが強い。

 一方、Salesforceのクラウド型CRM(Customer Relationship Management)を筆頭とするアプリ群は、日々営業や業務担当者が使う基幹ソフトウエアだ。現場の要望に即した機能開発が企業の生産性を左右する。そうした現場レベルでの開発にはノン・コーディングが威力を発揮する。

 SaaS(Software as a Services)を基盤に先端技術の大衆化を目指すSalesforceは、そのポジション故にシリコンバレーの異色企業と言われる。もちろん、その武器はノン・コーディング型アプリ開発であり、相手は一般の人々だ。同社は、先端技術の恩恵を広く市場に浸透させて、底辺を広げていくからこそ、ビジネスが大きく広がる。

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独走に広がる危機感

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この記事の著者

伊藤 一徳(イトウ カズノリ)

 早稲田大学卒業。日経BP社にてITpro編集、クロスメディア本部企画編成部、日経BP企画に従事。2007年12月、日経BP社長賞受賞。2011年2月に株式会社コミュニケーション・コンパスを設立。同社代表取締役に就任。現在、データ分析に基づいたメディアサイトや企業サイトのコンテンツ制作・運営を支援。...

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