SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

【デブサミ2014】セッションレポート (AD)

【デブサミ2014】14-C-4 レポート
これは知りたい! 複数の新サービスを短期間で並行開発するDeNAのノウハウ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 ソーシャルゲーム事業で大成功を収めている株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)。同社では次の成長領域として、非ゲームの新規事業開発に取り組んでいる。そのために2013年4月に発足したエンターテインメント事業本部では、大小さまざまなサービスやプロダクトを開発し、すでに9本をリリースしたという。このようなスピード開発を実現する体制や技術のほか、プロダクトを検証する手法、KPIの考え方などについて、DeNA エンターテインメント事業本部 システム部の沖津貴智氏が解説した。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
DeNA エンターテインメント事業本部 システム部 沖津貴智氏
DeNA エンターテインメント事業本部 システム部 沖津貴智氏

効率を極めた組織編成と大胆な開発プロセスの改革

 沖津氏が所属するエンターテインメント事業本部は、「DeNAの次の成長領域を発掘すること」をミッションとして、非ゲームの新規事業開発を行っている。昨年4月の発足以来、「マンガボックス」(アプリで読める週刊誌)、「Showroom」(アイドルやタレントなどのパフォーマンスをライブ配信するサービス)、「チラシル」(電子チラシ配信)、「アプリゼミ」(教育)など、すでに9本の新サービス、新プロダクトをリリースした。さらには、これらのサービス、プロダクトの運用まで、エンターテインメント事業本部で行っているという。

 このように、複数のサービスやプロダクトを短期間でリリースできるポイントの一つは「少人数体制を維持すること」だと沖津氏は述べる。エンターテインメント事業本部の人員は、一般的なサービス開発部門と同様に、プロデューサー、ディレクター・プランナー、エンジニア、UI/UXデザイナー、マークアップエンジニアで構成されているが、サービス立ち上げ時は、プロデューサー1名、エンジニア1~2名、UX/UIデザイナー1名と、3~4名程度の少人数によるチーム構成を意識した。

 もちろん、開発チームだけでサービスやプロダクトを作ることはできない。マーケターやQA、CS、インフラ・分析などのエキスパートが開発チームに入り込み、適宜バックアップする体制が、並行開発と短期間でのリリースを実現するもう一つのポイントとなっている。開発チーム単位で席を固めた上で、マーケターやQAの席も開発チームの近くに配置した。

さまざまな組織のエキスパートが中に入り込みバックアップ
さまざまな組織のエキスパートが中に入り込みバックアップ

 また、動きを素早くするために、ものづくりの進め方も改めたという。DeNAでは「スクラム」を基本に忠実に回してきたが、エンターテインメント事業本部ではそれをがらりと変えた。

 まず、専任のスクラムマスターを置かないことにした。スクラムマスター役は、エンジニアの持ち回りだ。同時に、「タスクの粒度を荒くし、ストーリーポイントは振らない」「バーンダウンチャートを排除し、進捗は担当の裁量に任せる」「タスク管理はアナログだけではなく、各チームでやりやすい方法を採用する」といった工夫も加えた。沖津氏は、このように少人数で各人の裁量を増やしたことにより、各人が考えて行動する意識が強くなり、チームに対するコミット意識も自然と高まって良い方向に進むようになったと語る。

 しかし、このように開発・運用体制を整えても、開発したサービスやプロダクトがヒットしなければ意味がない。そこで、エンターテインメント事業本部は「ユーザーが何を欲しがっているかを適切に検証すること」にも注力した。

 例えば、主婦をターゲットとした「チラシル」では、地区(この例では練馬区)を限定して主婦を集め、チラシルのアプリを2~3週間使ってもらい、リモートからデイリーで感想をヒアリングした。また、小学1年生がターゲットの「アプリゼミ」では、「仮説を元に最小限のモックを作り、小学生とその親を同社のオフィスに招いて評価してもらう」というサイクルを何度も繰り返したという。

 これらの検証では、事前に分析ログをアプリ側やサーバー側に仕込んでおき、ユーザーの行動パターンを細かく分析し、ユーザーニーズを検証した。DeNAでは、このように定量的なデータを取り、判断することを重視しているという。

新規サービスにスケーラビリティは必要?

 興味深いことに、エンターテインメント事業本部では特に決まったサーバーアプリケーション構成はなく、リードエンジニアが使いたいフレームワークやミドルウェアを好きに決定しているという。また、通信プロトコルに関しては、JSON-RPCの採用が多いというが、このあたりもリードエンジニアの好みに任されているのだそう。インフラは基本的には自社のデータセンターを使用。ただし、コスト優位な部分ではAWSを積極的に活用している。

 当たるかどうかわからない新規サービス。そのスケーラビリティについてどこまで考慮すべきか、迷う人も多いだろう。しかし、沖津氏は「スモールスタートであろうとも、スケーラビリティの確保は必須だ」と力強く語る。

 それを裏付けるかのように、エンターテインメント事業本部のサービスやプロダクトが使用するインフラでは、あらゆるコンポーネントが疎結合化、多重化されている。インフラの基本構成は、データベースがマスター/スレーブ/バックアップ構成。キューイングによる非同期化を行い、MyDNSによるDNSラウンドロビンであらゆる向きを分散している。

 そのほか、データベースの垂直分割や水平分割(シャーディング)に、ローンチ前から対応するかどうかについては、サービスの性質や規模を鑑み、インフラチームと相談して決定。また、DeNA独自のインフラ特化型共通モジュール(通称Baranモジュール)により、スケーラビリティ確保の効率化を実現している。このモジュールには、DeNAが蓄積してきた大規模運用ノウハウが詰め込まれているという。

 「これらのノウハウを有効活用するからこそ、スピード重視のスモールスタートでありながら、スケーラブルなサービス開発が実現できている」(沖津氏)

分析とプロモーション、そしてひたすら前に進む

 沖津氏の話はサービス、プロダクトのKPI(重要業績評価指標)に及んだ。DeNAでは、分析をかなり重要視しており、優先度も高いという。分析は、自社製の分析プラットフォームを利用して行われる。「DeNAに入ってびっくりしたのが、エンジニア以外のプロデューサーやプランナーがHue(Hadoop用GUIツール)を使い、HiveQLを駆使してサービスなどの分析を行っていること。その結果をデイリースタンドアップ(朝礼)でエンジニアに見せ、よく議論している。とにかく、数字に強いプロデューサーやプランナーが多い。そこが当社の強みでもある」(沖津氏)

DeNAの自社製 分析プラットフォーム
DeNAの自社製 分析プラットフォーム

 DeNAでは、全APIのアクセスログをHDFS(Hadoopの分散ファイルシステム)に格納している。アプリの起動ログ(アクティブユーザーやリターンレートの計測に必要)や画面ごとの表示ログ(画面遷移や離脱ポイントの確認)を基本として、その他のログはサービスごとに必要な場所で取るようにしているという。特に、アプリの入会に関しては初めから細かくログを埋め込んで、離脱ポイントを分析。「ローンチ前にここまで最低限準備しておき、あとは数字を見ながら、みんなでひたすらフィードバックを繰り返していく」(沖津氏)。

 加えて、沖津氏はプロモーションの重要性も強調した。「基本的にリリースして何もしなければ、何も起こらない」(沖津氏)。ストアからのオーガニックの流入は、良くてデイリー30~40ダウンロード。ダウンロード数が1桁ということも珍しくないという。

 ユーザーがいないと検証ができないため、そういった場合には広告経由で意図的に一定量のユーザーを流入させて効果測定を実施する。最近、比較的よく使っているのはFacebookAdやTwitterAdで、双方とも「ユーザー属性を絞り込める上に低コストで流入させやすい」(沖津氏)というのが理由とのこと。また、一部のアプリでは、オンラインだけでなくオフラインプロモーションも実験的に実施し、効果測定を行っている。どのような方法を使うかは、サービスに応じてチョイスしていると沖津氏は説明する。

 このようにエンターテインメント事業本部では、開発から運用、プロモーションまで、新規事業開発に必要な業務に何でも取り組んできた。「1年経って言えるのは、とにかく余計なことを考えずにチームや自分の目標に集中し、コトに向かうのが最も重要だということ。ひたすらフィードバックループを回して、こつこつと前に進むしかない」(沖津氏)。

 最後に沖津氏は会場に次のように訴えかけ、セッションを締めた。「我々の目標は一つ。みんなで世界で勝つこと。面白そうだなと思った人がいたら、ぜひ一緒に頑張りましょう」

お問い合わせ

株式会社ディー・エヌ・エー

〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ

フォーム: http://dena.com/contact/

URL: http://dena.com/

この記事は参考になりましたか?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/7678 2014/03/24 14:00

イベント

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング