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【デブサミ2016】18-A-7レポート
大企業からエンジニア主導で起業してみた ~ 「スマホ広告をポジティブに変えたい」リッチラボの挑戦

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2016/04/06 14:00

 スマートフォン向けのブランディング広告を開発しているリッチラボは、ヤフーの社内ベンチャー制度によってできた。エンジニアが主導となり、多くの人が経験している“ユーザーの行動を妨げるネット広告”に工夫を加え、ユーザー、広告主の双方に喜ばれる世界を創っていくのが目標だ。大企業にエンジニア、デザイナーとして10年間所属し、子会社の社長という立場に変わると、自分の仕事の価値や、大企業ならではの課題などが改めて見えてくる。本セッションでは、リッチラボ 代表取締役社長 鈴木辰顕氏が、起業にいたった経緯や現在の取り組み、子会社経営に寄せる思いなどを語った。

リッチラボ 代表取締役社長 鈴木辰顕氏
リッチラボ 代表取締役社長 鈴木辰顕氏

スマホ広告を、ユーザーと広告主の双方に喜ばれるものにしたい

 インターネット広告への出稿額は、媒体別ではテレビに次ぐ2位の規模だ。デフレの時代に唯一、成長を続けてきた分野ともいえる。しかし、ヤフーの社内ベンチャー制度で起業し、スマートフォン向けのブランディング広告を開発しているリッチラボの鈴木氏は「広告を邪魔だと思っている人が多いのでは」と語る。

 確かにキーワードを検索して検索結果に飛ぶと、一番目立つ場所に広告が表示されることが多い。スマートフォンの場合、画面の半分以上が広告ということもある。広告をスキップする操作をしないと、目的のページが表示されないこともある。「その背景には、ネット広告ならではの“特性”がある」と鈴木氏は言う。

 一昔前のインターネット広告の料金設定は、テレビなどと同じで「1回表示されたらいくら」というものだった。ただWebはテレビや紙媒体とは違い、広告を見たユーザーの行動を細かく把握することができる。たとえばバナー広告をクリックした回数や、そこからアプリが何回インストールされたかが分かる。そこでクリックやインストールの回数に応じて広告料を支払う方式が主流になってきた。特にスマートフォンの世界では、そうした広告が増えている。

 広告を提供している側は、ユーザーに察知されないと意味が無い。そのため、ユーザーの行動を妨げる、クリックのみを目的とした広告も増えているのである。この状況を受けて鈴木氏は「私たちは、エンジニアの力、デザイナーの力を使い、少しでもネガティブなものをポジティブに変えたい。広告主、ユーザー、どちらからもいい評価を得られる市場を作っていきたいと考えている」と自らの目標を語る。

 とはいえ、スマートフォンの広告には、様々な課題点があるのは確かだ。たとえばネットワークスピードの考慮がある。またJavaScriptの解釈もデバイスによって異なり、同じ広告体験を提供するのが難しい。さらに、画面が小さいため、認知度が高い目立つ広告にするのも困難だ。

 ここで鈴木氏は、その課題を解決しているリッチラボの事例を紹介した。

 2014年度グッドデザイン賞を受賞している「プライムウィンドウ」という広告だ。同賞をWeb広告が受賞することはまだ珍しい。プライムウィンドウは、通常のバナーと同じような領域で、多くの表現ができるよう工夫した広告だ。ブラウザのページ背景に広告画像を掲載し、コンテンツのバナー程度のすき間スペースから背面の広告を覗かせる。ユーザーが画面をスクロールする際、背景の広告は固定されているので、その内容を経過にしたがって見ることができる。ユーザーは「下に何かある」と気になって広告を見てしまう、という仕掛けだ。ユーザーの行動を妨げずに商品をアピールするような広告になっている。

リッチラボの広告例
リッチラボの広告例

 鈴木氏が、こうした事業をやりたいと思った理由は「楽しいところだけ作る」というものだ。新しい技術で何かを作り始めると楽しい。しかし製品化を考えると、様々な課題を想像してテンションが下がる。その後、「何とかできそうだ」「これは大変だ」などによってテンションが上下する。ゴール直前、達成感からぐっと上がり、リリース直前になるとやることの多さに大きく下がる。最終的に「リリースできて良かった」と思って上がる。

 鈴木氏は、最初の“楽しい”だけをできるような仕事をたくさん作っていきたいと考えている。脳が楽しい状態で、アイデアや提案を広告主や導入してくれるネットワークに持っていく。楽しければ、あとは結果が出るところはがんばることができる。

 鈴木氏は、大好きだというスポーツを引き合いにし、スポーツ選手とITエンジニアの働き方を比較してみせた。「スポーツ選手を見てうらやましいと思うのが、肉体的な疲労と精神的な疲労のピークから同時に解放されることだ」と鈴木氏は言う。サッカーであれば、終了間際にゴールを決めれば、最大の喜びと様々なプレッシャーからの解放が同時に得られる。

 一方、Webサービスを開発しているエンジニアは、開発終了のゴールが新たなスタートになる。その結果、成功しなかったら価値がないと見なされる。「ITエンジニアでも、肉体的・精神的な疲れのピークと解放が同時の仕事を作りたい」と鈴木氏は語る。

社内ベンチャー制度でリッチラボを設立し、見えてきたものとは

 鈴木氏は2005年に新卒でヤフーに入社。当時、IT企業への就職はメジャーな選択肢ではなかった。

 リッチラボは、ヤフーの社内ベンチャー制度からエンジニアとデザイナーが中心となって発足した。米国ヤフーが2006年から開催した「Hack Day」を、日本でも2007年から開催するようになった。24時間で開発を行い、90秒で発表するというイベントだが、エンジニアやデザイナーにはすごく人気がある。2013年より、ヤフー社員以外も参加可能な「Open Hack Day」も開催されている。

Open Hack Dayの様子
Open Hack Dayの様子

 Hack Dayイベントは、エンジニア・デザイナーの得意分野を可視化することに大きく貢献している。得意分野が分かることで横の繋がりの役に立つし、社員同士のコミュニケーションが活発化している。ただし、事業化という点では、大きな成果は出ていなかった。

 2012年に社長が宮坂学氏に替わり、「才能と情熱を解き放つ」ために挑戦する機会の提供を目的に、2013年から「スター育成プログラム」という社内ベンチャー制度がスタートした。選ばれると、通常の業務から離れて、スタートアップ企業への投資・育成を手がける「MOVIDA JAPAN」の支援のもと、半年後に事業化か子会社化を狙う。そこからリッチラボが生まれることができた。プログラム参加メンバーは、鈴木氏とエンジニア(現CTO 小林大介氏)+デザイナー(高田健介氏)の3名だ。現在(2016年4月)では、当時スター育成プログラムに別チームで参加していたメンバーも合流し、17名で運営している。

当日スター育成プログラムに別チームで参加していた加藤真也氏(左)と穴井宏幸氏(iPadの画面)
当日スター育成プログラムに別チームで参加していた加藤真也氏(左)と穴井宏幸氏(iPadの画面)

 鈴木氏たちは、とても多くの人に応援してもらえたという。ヤフーに限らず大企業には「このままだといけない」という雰囲気があるものだ。鈴木氏自身も入社した2005年当時から、ずっと言われ続けてきた。だからスター育成プログラムのような、会社を変える可能性を秘めたプロジェクトができたのは、非常に良かったと考えている。

 鈴木氏はインターネットが好きで、学生時代から色々な勉強会、懇親会などに参加していたのだが、それらの経験は、正直なところ事業化に関わるまでは役に立ったと思ったことがなかったという。「しかし事業を立ち上げることになって初めて、それまでに会った方々に支援してもらい、あの時の経験が役に立った」と鈴木氏は振り返る。

 鈴木氏は現在リッチラボの社長をしている。大企業に在籍していて感じた課題や、それらを子会社の経営によってどのように解決していきたいかについて、いくつか展望が述べられた。

 鈴木氏は、10年間エンジニアをしていて、「会社の掲げる営業目標に大きく貢献した」という実感が少ないときがあったという。頑張ってプロダクトを作り、それが多少売れたとしても、それは本当に自分のおかげなのかと疑問を持ってしまう。それが子会社を経営することにより、自分の作った広告が社会で喜んでもらえ、明確な成果を出すことができた。こうした経験を「大企業にいて、貢献できている実感のない人にも伝えていきたい」と考えているとのことだ。

 さらに大企業ではお金を稼ぐ部門と使う部門が分かれてしまう。マーケティングで外に出す部分とモノを作る部分、どちらも同じぐらい大切で、お金を有効に使わないと会社は成長していかない。しかし大きなお金を使うというのは、本当に勇気が要る。新しいことへの投資や、人を雇うこともそうだ。それを一般社員が大企業で経験するのは難しい。そこで子会社で、どんどん経験させたい。

 起業時も現在も、鈴木氏が一番聞かれる質問は「エンジニアが子会社作って、その後、何するの?」というものだ。その明確な答えはまだ見つかっていないが、自分たちが失敗すると、続く人は色々な経験ができない。リッチラボをしっかりと軌道に乗せて、エンジニア・デザイナー主導でやることに価値があるのだということを証明したいと思っている。

 鈴木氏は最後に「スマホを使っていて拍手したくなるような広告に出会ったら『リッチラボが作ったのかな?』と思い出してほしい」と述べ、セッションを終了した。

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