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開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー

チームで共通認識を持つためのカイゼン~「ファイブフィンガー」と「ワーキングアグリーメント」

開発現場のストーリーから学んで実践! 最初で最後のカイゼン・ジャーニー 第5回


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 この連載では、開発現場で実践できるカイゼンのやり方と考え方について、お伝えしていきます。下敷きになっているのは、「カイゼン・ジャーニー」という書籍です。「カイゼン・ジャーニー」も、現場のカイゼンがテーマになっています。この新たに始める連載は、内容としては書籍を補完するもので、チームが現場でこのWebページを開きながら、実際にふりかえりをしたり、カンバン作りをしたりできるように作っています。本を開きながらより、Webページをモニタに映す方が、ワークショップもやりやすいですよね :) また、読者の皆さんが実際の状況を重ね合わせられるよう最初にストーリーがあり、その後解説が続く、といった構成にしています。ストーリーでは、カイゼンを実施するにあたってどんな背景や課題を想定しているかを描いています。よく知らない手法については、ストーリーに目を通すようにしてください。

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 このお話の舞台は、飲食店の予約サービスを提供するIT企業のプロジェクトチーム。ツワモノぞろいのチームに参加した新人デザイナーのちひろは、変わり者のメンバーたちに圧倒されながらも日々奮闘しています。第5回となる今回のテーマは「共通認識を持つ」です。

登場人物

和田塚ちひろ(25)この物語の主人公。新卒入社3年目のデザイナー。わけあって変わり者だらけのプロジェクトチームに参加することに。自分に自信がなく、人に振り回されがち。

和田塚(わだづか)ちひろ

この物語の主人公。新卒入社3年目のデザイナー。わけあって変わり者だらけの開発チームに参加することに。自分に自信がなく、周りに振り回されがち。

御涼()プログラマー。物静かだが、今後もちひろをよく見て助けてくれるお姉さん。

御涼(ごりょう)

物静かなプログラマー。チームではいろんなことに気を回すお母さんのような存在。今後もちひろをよく見て助けてくれる。

鎌倉()社内でも有名な凄腕のプレイングマネージャー。冷静で、リアリストの独立志向。ちひろにも冷たく当たるが…

鎌倉

業界でも有名な凄腕のプレイングマネージャー。冷静で、リアリストの独立志向。ちひろにも冷たく当たるが…

藤沢()頭の回転が早い、このチームのリードプログラマー。鎌倉の意向をうまく汲み取る。

藤沢

チームのリードプログラマー。頭の回転が速く、リーダーの意向を上手くくみ取って、チームのファシリテートにもつとめる。

境川(?)ほぼしゃべらない。実はチーム随一の天才プログラマー。自分の中で妄想を育てていて、ときおり滲み出させては周りを慌てさせる。

境川(さかいがわ)

彼の声を聞いた人は数少ない。実は社内随一の凄腕プログラマー。自分の中で妄想を育てていて、ときおりにじみ出させては周りをあわてさせる。

片瀬()インフラエンジニア。ちひろのOJTを担当していた。

片瀬

インフラエンジニア(元々はサーバーサイドのプログラマー)。他人への関心が薄いケセラセラ。ちひろのOJTを担当していた。

書き換えられたコード

「あれ? オレが書いたコードが跡形もなくなっている」

 片瀬さんが唐突に間の抜けた声をあげたのに反応し、私と、藤沢さん、御涼さんはぞろぞろと片瀬さんの席に集まった。

「片瀬さんは“書いた気になっていた” が本当に起こるからな」

「そうね。それか、コミット漏れじゃないの」

 2人の物言いに、片瀬さんはやれやれと首を横に振ってみせた。

「何言ってるんすかー。ちゃんと前のスプリントでコードレビューしてたでしょうが」

「ああ、その機能。そういえばそうね、やったわ」

「おや、片瀬さんのコミットの後で、大量の変更が発生していますよ」

 3人で片瀬さんのモニタをのぞき込んでいるので、背の低い私は全く状況が分からない。隙間からのぞき見しようとウロウロしていると、しばらくあってから、3人が一斉に振り返った。

 「チョロチョロするな」と怒られる! と思って、瞬間、身を引いたが、3人が見ているのは私ではなく別の方向だった。

「………」

 3人の視線の先には境川さんがいた。御涼さんがおもむろに声をかける。

「境川さん、片瀬くんのコード全部書き換えていますね」

「………」

「片瀬さんのダメコードを全取っ換えするのは良いのですが、チームのコードレビュー、また通してませんよね」

「………」

(…ダメコード…)

 境川さんが一向にキーボードをたたく手を止めないので、私は聞こえていないのかなと思って、彼にソロソロと近づこうとした。その時。境川さんの小さな小さな声が漏れ出た。

「………何がダメなの」

「ダメですよ。他のメンバーの理解できないコードが増えます」

 境川さんの言葉の最後にかぶせるように、間髪入れず反論の声をあげる御涼さん。さすが、チームのお母さん。厳しいときは厳しい。たとえ相手があの境川さんであっても。境川さんはこの会社きっての凄腕プログラマーなのだ。鎌倉さんでさえ、プログラミングに関しては一目置いているように感じる。

「………オレが書いたところで、何かあればオレが直す」

「そういう問題ではないでしょ」

「………何の問題」

 すごい。こんなに話している境川さんを見たのは初めてだ! ……そんなことより、ちょっと雰囲気が険悪になってきている気がする。前回のダブルポーカーの導入で、(境川さんを除く)メンバー同士の会話が増えて、前よりもグッとチームになってきている。だからこそ、境川さんの単独行動がとっても目立つようになっているのだ。

「まあ、オレのコード、ダメだったし、仕方ないかな。はははは」

 全く悲壮感を抱かせないのが片瀬さんの良いところだった。

「いや、コードはダメだけど、そういう問題じゃない。オレたちはチームで仕事をしているんだ。チームでの約束は守ってもらわないと困る」

(やっぱり、ダメコードなのか……)

 境川さんが、長い前髪の切れ目から鋭い視線を藤沢さんに送りつけた。

「……チーム? ……約束? いつからここはそんなチームワークを口にする場所になったんだい」

 あまりにも冷たい言葉に、私と片瀬さんは引きつった顔を見合わせて、止めないとやばいと、ジェスチャーだけ交わした。

「今からですよ」

 さすがの御涼さんも不安になってきたらしい。藤沢さんを止めようと腕に手をのばした。その手が届く前に、藤沢さんは、私たちの方に振り返って、自信満々の表情を見せた。

「ファイブフィンガーでこのチームの意思を見えるようにし、チームに必要なルールを決めましょう」

 ファイブフィンガー? 私は自分の手を広げて見つめながら、その言葉の意味を考えた。人さし指と中指の間の向こう側に藤沢さんの顔がのぞけた。その様子が面白かったのか、藤沢さんはめずらしくにっこり笑って続けた。

「ファイブフィンガーと、ワーキングアグリーメント。どちらも、昔、鎌倉さんに教えてもらったことなんだ」

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この記事の著者

市谷 聡啓(イチタニ トシヒロ)

 ギルドワークス株式会社 代表取締役/株式会社エナジャイル 代表取締役/DevLOVEコミュニティ ファウンダー サービスや事業についてのアイデア段階の構想から、コンセプトを練り上げていく仮説検証とアジャイル開発の運営について経験が厚い。プログラマーからキャリアをスタートし、SIerでのプロジェクト...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

新井 剛(アライ タケシ)

 株式会社ヴァル研究所 SoR Dept部長/株式会社エナジャイル 取締役COO/Codezine Academy Scrum Boot Camp Premiumチューター CSP(認定スクラムプロフェッショナル)/CSM(認定スクラムマスター)/CSPO(認定プロダクトオーナー) Javaコンポー...

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https://codezine.jp/article/detail/11550 2019/06/17 11:30

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