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【デブサミ2021】セッションレポート

エンジニアが激推しする技術書とビジネス書は?「ITエンジニア本大賞」で大賞が決定!【デブサミ2021】


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 翔泳社が毎年主催している「ITエンジニア本大賞」の大賞が、2月18日(木)に開催されたプレゼン大会で決定。視聴者による投票の結果、技術書部門は『Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち』、ビジネス書部門は『なんでも図解――絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』となりました。

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 ITエンジニアがこの1年で感銘を受けた書籍の大賞を決めるイベント「ITエンジニア本大賞」。CodeZineを運営する翔泳社では、その最終プレゼン大会を2月18日(木)の「Developers Summit 2021(デブサミ)」内にて開催しました。

 技術書部門とビジネス書部門から一般投票によって3点ずつが選出され、著者や担当編集者が本の魅力を紹介。デブサミと合わせて初のオンライン開催となり、視聴者による決選投票が行われました。

ITエンジニア本大賞

 大賞を受賞したのは、技術書部門はVOYAGE GROUPによる『Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち』(ラムダノート)、ビジネス書部門は日高由美子さんの『なんでも図解――絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』(ダイヤモンド社)となりました。

 今回はプレゼン大会に臨んだ本、下記6点のプレゼンの模様を紹介します。惜しくも大賞を逃した本についても、エンジニアの心を動かした本であるのは間違いありません。ぜひ実際に本を読んでみてください。

ITエンジニア本大賞ベスト3

技術書部門

ビジネス書部門

大賞とベスト10を特設サイトで見る

Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち

 技術書部門で最初に登場したのは、VOYAGE GROUPに所属するエンジニアへのインタビューで構成された『Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち』(ラムダノート)。本書の編者である和田卓人さんがプレゼンを行ってくださいました。

Engineers in VOYAGE

 和田さんはまず読者の声を取り上げ、本書が非常に稀有な本であることを強調。企業の名前がしっかりと載りながら、その企業が一般的には表に出したくない、技術的負債として抱え込んでいたレガシーシステムにどう立ち向かったのかが克明に描かれていることが大きな理由です。実際に問題を解決したエンジニアの生々しい声を届けられたことが評価された、と和田さん。

 レガシーシステムは時間が経つとどんどんメンテナンスが難しくなっていきます。VOYAGE GROUPでは2015年からその解消に取り組み、2019年にひとまずシステムの再構築を完了。本書ではその4年間がエンジニアの視点で語られており、随所にレガシーシステムに対する様々な戦略が散りばめられています。

 多くの技術に精通して1人で何でもできるエンジニアをフルスタックエンジニアと呼びますが、和田さんは本書に登場するエンジニアをフルサイクル開発者と呼びます。フルサイクルとはシステムやソフトウェアの開発技術だけでなく、自社のビジネスや事業をも視野に捉え、開発の中に取り組むこと。ビジネスにも責任を持つエンジニアは、これからの時代にますます求められていくかもしれません。

Engineers in VOYAGE

 また、IT業界では「2025年の壁」という問題が表面化しつつあります。これは2000年頃に取り入れられた多くのシステムが25年の耐用年数を超えて老朽化・レガシー化し、社会にまで大きな影響を与えかねないという警鐘です。2025年は、今年2021年からすれば4年後。まさにVOYAGE GROUPのエンジニアの姿は2025年の私たち自身でないといけない、とプレゼンが締めくくられました。

ドメイン駆動設計入門 ボトムアップでわかる!ドメイン駆動設計の基本

 技術書部門の2番目は事業領域の理解を重視して開発を行うドメイン駆動設計について解説した『ドメイン駆動設計入門 ボトムアップでわかる!ドメイン駆動設計の基本』(翔泳社)。著者の成瀬允宣さんが「なぜいまドメイン駆動設計の入門書が必要なのか」をテーマにプレゼンしました。

ドメイン駆動設計入門

 ドメイン駆動設計入門に関する本といえば、同じく翔泳社から2011年に発売した翻訳書『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』が有名です。成瀬さんはかつてプログラマーとしてのキャリアを始めた頃、様々な事業のシステム開発を行っていたそうです。試行錯誤してベストプラクティスを見つけたつもりだったのですが、本書に出会って読み進めたところ、自分が苦労して得た経験のすべてがすでに言語化されていたことに衝撃を受けたと言います。

 改めて「ドメイン」とは、ソフトウェアが対象とする領域のこと。成瀬さんが携わっていたガス会社のソフトウェアなら、ガスボンベや運搬、車両など事業全体にまつわる専門知識のことを指します。このドメインからモデリング、すなわちソフトウェアに必要な情報を抽出してコーディングするのがドメイン駆動設計であり、エンジニアの仕事です。

 成瀬さんは『エリック・エヴァンスのドメイン駆動設計』があればいいと考えたものの、一方で同書は難解な点もあり、もっと噛み砕いた入門書が必要だと感じていました。そこで書かれたのが『ドメイン駆動設計入門』です。本書では特にパターンの部分に注力し、エンジニアがドメインから得た知識をどうコードに落とし込んでいくかが解説されています。

ドメイン駆動設計入門

 本書は好評を得ましたが、成瀬さんはその理由として時代がドメイン駆動設計を求め、エンジニアが事業知識を重視するようになっているからだと分析。エンジニアは経営者や業務に詳しい人などステークホルダーとの対話を積極的に行うことで、価値あるソフトウェアを作ることが重要だと話してくださいました。

問題解決力を鍛える!アルゴリズムとデータ構造

 技術書部門、最後は『問題解決力を鍛える!アルゴリズムとデータ構造』(講談社)。こちらも著者の大槻兼資さんがプレゼンを行ないました。趣味は虫食い算を作ることだそうです。

問題解決力を鍛える!アルゴリズムとデータ構造

 アルゴリズムとは、ある問題を説くための方法や手順のこと。これを実装したのがプログラムで、本書はアルゴリズムを実装して問題を解くための方法を解説した本です。特徴として、アルゴリズムがツールであることから、設計技法の説明を終えたあとはとにかく問題を解くことを重視したとのこと。

 では、なぜいまアルゴリズムの知識を学ぶのか。それは、時代や流行の変化に囚われないスキルが身につくからです。アルゴリズムを知っていれば、言語や技術を問わず、様々な問題を解決できるようになります。もちろん機械学習などAIに関する技術を学ぶうえでの基礎にもなり、ライブラリの改良や応用に活かすこともできます。

問題解決力を鍛える!アルゴリズムとデータ構造

 エンジニアはもちろん、あらゆる人にアルゴリズムを使って問題を解く楽しさを知ってほしいと言う大槻さん。その先に、1人1人が自分の居場所を見つけられる力を持ってもらいたいとプレゼンを結びました。

アフターデジタル2 UXと自由

 続いてビジネス書部門のプレゼンが始まります。最初は『アフターデジタル2 UXと自由』(日経BP)、日経FinTech編集長の岡部一詩さんが登壇しました。

アフターデジタル2 UXと自由

 本書は2019年に発売された『アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る』の続編。著者の1人である藤井保文さんが、2020年初頭に同書の誤解を解消し、内容をアップデートしたいということで続編が誕生したそうです。ちなみに、執筆中の原稿はすべてオンラインで公開されていました。これは本書がオンラインに存在しないのは矛盾しているという藤井さんの考えからです。

 そもそもアフターデジタルとは、リアルとデジタルが融合するだけでなく、リアルがデジタルに包含される世界観のこと。すでに訪れているアフターデジタルにおいて台頭するビジネスについて書かれたのが前作で、今作ではUXに焦点が当てられています。

 というのも、昨今話題に上がることの多いDXは、その目的がUXの改善にあるからです。データ分析にしても目的は売上増になりがちですが、ユーザビリティの改善こそが本懐です。藤井さんはこのことを何よりも伝えたかった、と岡部さんは強調します。

アフターデジタル2 UXと自由

 一方で、「UXと自由」の自由とはどういう意味なのでしょうか。岡部さんはUXには人の行動を変える大きな力があり、方向を間違えればディストピアに至ってしまうと指摘。本書のタイトルには、エンジニアや企業だけでなく、社会がテクノロジーとUXの持つ力に責任を持たなければならないという精神が込められています。

なんでも図解 絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術

 ビジネス書部門、2番目は『なんでも図解 絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』(ダイヤモンド社)です。著者の日高由美子さんが登壇し、まさに「図解」しながらプレゼンを行ってくれました。

なんでも図解 絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術

 本書はすばやく情報を伝え、共有するための方法としての図解について解説した本。ビジネスパーソンとして自信を喪失している田中くんとえんま先生の対話で話が進んでいきます。

 日高さんは作中の田中君こそかつての自分だったと言います。無茶振りの仕事で心が折れていたとき、なんとか意思疎通を図るために図を描いて説明したところ、仕事の方向性をすんなり決めることができたことが原体験だそう。意思決定がクリアになり、突然のちゃぶ台返しも減ったことから、このやり方を広めたくてダイヤモンド社に本の企画を持ち込んだとか。

 図解することの大きなメリットの1つに、打ち合わせの際の誤解や理解のズレがなくなることが挙げられます。勘違いしていたポイントが形で見えるからです。また、聞くだけでなく見ることで記憶にも残りやすいのです。さらに、考えが整理できると次に何をしたらいいのかもわかってきます。

なんでも図解 絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術

 普段なら悩んでいる時間を前向きな時間に変えるための方法が図解なのだと日高さんは言います。いきなり図解を描くのは難しい、と思ってしまいがちですが、本書では丸と線が描ければ大丈夫だとハードルを下げてくれるのもありがたいポイントです。

みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」

 ビジネス書部門、最後のプレゼンは『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」』(日経BP)。著者の1人で日経コンピュータ/日経クロステック副編集長の中田敦さんが登壇しました。

みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」

 IT業界を驚かせた本書は、みずほフィナンシャルグループが2000年の発足以来課題としていたみずほ銀行勘定系システムの統合・刷新プロジェクトの歴史書です。2000年からの19年間を辿り、何が行われてきたのかが詳らかにされています。

 先ほども取り上げた「2025年の壁」は、みずほFGにとっては2011年にやってきました。前身の第一勧業銀行時代で利用されていたSTEPSというシステムを1988年から利用し続けてきたところ、23年後の2011年に大規模システム障害が発生。東日本大震災に伴う義援金の呼びかけ時にシステムがダウンしたのです。復旧に10日間を要し、当時の頭取が辞職する騒ぎとなりました。

 崖から落ちたみずほFGはそこからシステムを刷新しようとしたというわけではなく、実は2004年から取り組んでおり、2011年には勘定系システム刷新の第3ステップを完了するはずだったそうです。しかし、プロジェクトは当初から延び延びになっており、事務員は2010年代になっても1980年代のシステムを使用していたとか。この旧弊なシステムのせいで経費率が他行に比べて数段高くなっているのも問題でした。

みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史 史上最大のITプロジェクト「3度目の正直」

 5000億円を投じたプロジェクトはどうなったのか、その顛末はぜひ本書で。中田さんは教訓として、基幹系システムを刷新できない企業にDXやデジタル変革は難しいと述べます。本書はぜひ若い人に読んでもらいたいとのことでした。

時代を象徴する受賞作

 以上のプレゼンを終え、視聴者投票によって大賞が決定。お伝えしたように、技術書部門は『Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち』、ビジネス書部門は『なんでも図解――絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』が受賞となりました。

 また、ゲストによる特別賞も公式サイトで発表されました。

相場正継さん 書泉ブックタワー、コンピュータ書担当

『Engineers in VOYAGE ― 事業をエンジニアリングする技術者たち』

こんなに具体的に多くの実例が書かれている本は珍しいと感じました。 本当に技術者だけでなくビジネスを営んでいる方にも読んでもらいたいと思います。 個人的にも読み物としてとても面白かったので選ばせていただきました。

堀口友恵さん  株式会社固 スライドデザイナー

『なんでも図解 絵心ゼロでもできる! 爆速アウトプット術』

本の中身を体現するような図解プレゼンで、聞いていてワクワクしました。 オンラインが主流になった今、こういったツールを活用して会話が活性化する、 まさに「New Normal」なコミュニケーションと感じました。

矢野耕次さん オライリー・ジャパン 営業担当

『問題解決力を鍛える!アルゴリズムとデータ構造』

初級者から読めて、かつアルゴリズムの「名著」へと挑戦するための道筋もつけてくれる、非凡な入門書。 アルゴリズム全体を俯瞰して体系的に解説するだけに留まらず、図解・コード・練習問題で、同時に読者のアルゴリズム実践力、問題解決力も高めようとする、野心的な設計の技術書です。

 プレゼンターのCodeZine編集長・近藤佑子は、エンジニアもビジネスにコミットしなければならない時代になったことが受賞作に象徴されているとコメント。いずれの本も、エンジニアがどのように事業に関わっていいけばいいのか、事業がどんな仕組みになっているのかを知るきっかけになるのではないでしょうか。

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この記事の著者

渡部 拓也(ワタナベ タクヤ)

 翔泳社マーケティング課。MarkeZine、CodeZine、EnterpriseZine、Biz/Zine、ほかにて翔泳社の本の紹介記事や著者インタビュー、たまにそれ以外も執筆しています。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/13662 2021/03/03 08:29

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