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【デブサミ2021】セッションレポート

世界と繋がるモノ作りを――技術の”民主化”に取り組むLaunchableを紹介【デブサミ2021】

【18-B-1】世界と繋がるモノ作り:Launchableの取り組み

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 2020年に太平洋をまたいで設立した、”グローバルなソフトウェア・スタートアップ”であるLaunchable。Co-CEOを務める川口 耕介氏は、「日本のソフトウェア企業・技術者が世界のマーケットとつながっていないなんてもったいない!」と語る。日米で半々にメンバーを擁する同社がなぜそのような形態を取るに至ったのか、またどのような働き方をしているのか。2020年5月に入社したばかりの庄司嘉織氏とともに、その思いやノウハウについて紹介した。

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Launchable, Inc Co-CEO 川口耕介氏
Launchable, Inc Co-CEO 川口耕介氏
Launchable, Inc 庄司嘉織氏
Launchable, Inc 庄司嘉織氏

ソフトウェア開発で「小さなグローバル会社」が最強なワケ

 Sun MicrosystemsでJavaEEやJenkinsに携わり、CloudBeesを設立するなど、エンジニアや起業家として活躍してきた川口耕介氏。カリフォルニアで20年以上生活し、現在Co-CEOを務めるLaunchableを2020年に立ち上げた。「小さいこと」と「グローバルであること」が、会社の特徴である。

 川口氏はSun Microsystemsを除き、常に「小さな会社」を好んで働いてきた。その理由について川口氏は、「小さい組織では、ソフトウェアを開発し販売するまでには、エンジニアだけでなく営業やプロダクトマネージャー、デザイナーなどさまざまなプロフェッショナルの手を借りる必要がある。そのため、エンジニアである自分も営業やマーケティングなど他部署の仕事を手伝う機会があり、その面白さや難しさを理解することができた。その経験がエンジニアとしての仕事に大きく役に立ってきた。経験を重ねることで、日々成長を実感できるのは何事にも代えがたい」と説明する。

 そして、もう1つ川口氏が好むのが「グローバルな会社」であることだ。さまざまな人々や文化が混在し、それが共存している。それが許されるだけでなく、その状態であるからこそ「いいもの」が創り出され、企業の原動力になるポジティブな状態となる。それが何よりうれしく感じるそうだ。

 「世界中に知り合いはもとより、自分たちが開発したプロダクトを使っている人たちが存在するということも、大きな喜びにつながっている。他の文化に触れることで、自分が持つ文化に対して誇りを感じることも発見だった。当然ながら、グローバルで仕事をしようとすると、国境や言葉、時差など乗り越えるべき課題が出てくる。しかし、小さなグローバル企業であれば、そうしたことを壁や制約と感じずに自由でいられる」

 そんな川口氏がLaunchableによる次の挑戦として捉えているのが、「日米のソフトウェアの間に橋を架けること」だ。すでに欧米からインドまでは広く開発ネットワークとしてエンジニアがつながっており、それが競争力を高める原動力となってきた。ソフトウェアにおいて、市場の大きさは大きなアドバンテージとなる。日本はかつて世界第2位の市場規模を誇る国内を対象にするだけで良かったが、今後はそれが難しくなってくる。ポジティブな言い方をすれば、世界を相手にしたほうが、開発したソフトウェアの利用者が5倍、10倍にもなって価値が上がる。そのためにも、世界のエンジニアネットワークにつながることが不可欠なわけだ。

 「世界と組めば、より良いものを多くの人たちで作ることができる。また、日本人が大リーグで野球をするのと同じように、日本のエンジニアもまた海外で働く経験をすることで、世界のネットワークにつながり、相手側にも『こちらのコミュニティにも優れた技術者がいるんだ』と知ってもらえる。現在分断されている日本のエンジニアコミュニティが世界により密接につながっていくためには実践あるのみと考えた」

 そうした目的のもと、川口氏は日本にLaunchableのオフィスを2020年3月から創設。その求人に応じて採用されたのが、庄司嘉織氏だった。

グローバル企業で実感した、テクノロジーの「民主化」とは

 庄司氏は、東京生まれの横浜育ち。日本が好きで、エンジニアとして「日本で成功したら次は世界」と考えながらも、その一方で英語の勉強は「捨てていた」と言う。しかし、さまざまな技術を学び経験を積む中で、徐々に「自分がエンジニアとして一皮むけるためには、英語を学ばなければならない」と考えるようになり、川口氏のブログを見て応募したそうだ。

 2020年5月に入社した庄司氏は、混乱の中での日本企業とLaunchableの違いを実感している。その中でのキーワードが「民主化」だ。企業で言う「民主化」は、一部の限られた人だけに与えられていたものをあらゆる人たちが享受できるようになったことを表す。リモート環境や「Big Tech」と呼ばれる最先端技術も、今や誰もが活用できるようになった。例えば、かつて大規模開発でのみ使われていたCIサーバーのような環境も、Jenkinsの前身であるHudsonの登場で一般的に使えるようになっている。

 Launchableもまた、そうした技術の民主化に取り組んでいる。その1つが「スローテスト問題の解決」だ。Jenkinsなどでテストした後にたまるデータを活用して機械学習を行い、その結果をもとに「テストで失敗しそうなもの」を抽出し先行して行うものだ。機械学習による「テストのスマート化」はGAFAなど一部では行われていたが、それを誰もが使えるようにしようとしているわけだ。

 「CIのように大企業しか使わないと思われたテクノロジーも、ハイエンドで高機能なスマートフォンも、一般に普及してみれば、それがないことが考えられないほど当たり前になっていく。そして意識が変わり、生活も変わる。それこそが本当の意味での民主化だと思う。そして、Launchableはそれを目指している」と庄司氏は語った。

 そうした民主化は、「働き方」においても言えることだろう。Launchableでの自由でグローバルな働き方とはどのようなものか。その1つのキーワードが「フルリモート」だ。そもそもJenkinsもオープンソースコミュニティもフルリモートで行われていたこともあり、Launchableはフルリモートを前提にするつもりだった。

 しかし、多くの企業ではコロナの影響を受けてリモートワークをはじめており、「もともとあった仕事を置き換える」つもりでいることが多い。そうした日本企業の「置き換え型リモートワーク」とLaunchableの「はじめからリモートワーク」では、会社の仕組みやルールも全く異なる。その両方を体験した庄司氏は「あまりに新鮮だった」と振り返る。実際、庄司氏は川口氏やUS側のチームとリアルで会ったことがほとんどなく、全く会ったことがない人と仕事することについても最初は驚いたという。

 そして、最も庄司氏を戸惑わせたのは、やはり英語のコミュニケーションだった。何か問題が生じた時、それを理解して解決策を考えて示す、その前後に「英語で理解する」「英語で伝える」という新たな工程が加わることになる。

 川口氏も「英語でのコミュニケーションは日本人エンジニアにとっては一番の障壁かもしれない。実際に自分もその経験をしたが、当時よりもエンジニアリングの仕事が協調的になっており、コミュニケーション能力の高さは重視される傾向にある。『コードが書ければ変人でもいい』という風潮は、すでに欧米でも過去のものとなっている」と語る。

 英語についてはリモートとなると、ヒアリングやスピーキングのリアルタイムコミュニケーションよりも、むしろ読み書きが重要となる。とはいえ、当面は「橋を架ける人が頑張る」というのが現実解であり、「ゆくゆくは別の方法も模索していきたい」と話した。

Launchableははじめからリモートワーク
Launchableははじめからリモートワーク

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/14225 2021/06/03 11:00

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