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中小企業を26年間支えてきた生産管理システムがクラウドサービス化した理由とは? ポイントをエクスの事例に学ぶ

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2021/10/28 12:00

 大企業を中心に活用が加速しているクラウドサービス。経済産業省が2018年9月に公表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」により、中堅・中小企業においても、クラウド活用への関心は高まってはいる。一方で、データを外部に持ち出すことへの不安から、クラウド化に消極的な企業もまだまだ多い。そんな中堅・中小の製造業向けに生産管理システム「Factory-ONE 電脳工場シリーズ」を提供してきた株式会社エクス(以下、エクス)では、中堅・中小企業のクラウド対応を支援すべく、主力製品「Factory-ONE 電脳工場」のクラウドサービス化に踏み切った。その背景とクラウド対応の際に苦労したポイントなどについて、話を聞いた。

変わり始めた、中堅・中小企業を取り巻くクラウド対応への意識

 エクスは1994年創業の製造業向けにさまざまなソリューションを提供しているITベンダーである。創業者であり代表取締役社長を務める抱 厚志氏は、元SIerで大手向けの生産管理システムの開発、販売に従事していた。「これからの時代、中堅・中小製造業にも生産管理システムが必要になる。中堅・中小企業向けに廉価で高機能な生産管理システムを提供することで、3Kと呼ばれる製造業の現場を是正し、魅力あるものづくり経営を実現したいとの思いで、起業しました。そして生まれたのが生産管理システム『Factory-ONE 電脳工場』です。同製品は中堅・中小製造業向け生産管理システムとして、出荷ベースで国内第2位のシェアをいただいています」(抱氏)

 エクスではFactory-ONE 電脳工場以外にも、クラウド型EDIサービス「EXtelligence EDIFAS」、中堅・中小企業に最適なRPAサービス「Owlgarden RPA」、DXを実現するためのソリューションライブラリー「EXfeel」など、さまざまなサービスやソリューションを提供している。「EXfeelは昨年12月から提供開始したサービスですが、すでに120以上のソリューションが登録されています」(抱氏)

牧野和夫氏
代表取締役社長 抱 厚志氏

1960年大阪府生まれ。同志社大学卒。1994年、株式会社エクスを設立。同社の代表取締役社長に就任。「これからの時代は企業間のつながり方が企業価値を決める」をモットーとし、DX、生産管理システム、EDIの構築支援や講演、執筆などで活動中。大学などで教壇に立つことも多い。

 このようにさまざまなソリューションを提供しているエクスだが、同社のビジネスの核を握っているのが主力製品「Factory-ONE 電脳工場シリーズ」である。1995年2月に「電脳工場 for Windows Ver1.0」としてリリースされて以来、8度のメジャーバージョンアップを繰り返してきた。現在は中堅・中小規模製造業向け生産管理システム「Factory-ONE 電脳工場MF」に加え、サブスクリプション型生産戦略サービス「Factory-ONE 電脳工場SC」、小規模のクラウドサービス「Factory-ONE 電脳工場STクラウド」、さらに海外向け生産管理システム「Factory-ONE GL」と、顧客のニーズに対応してラインナップを展開してきた。

 そして今年、新たなFactory-ONE 電脳工場がラインナップに加わる。それがサブスクリプション型で提供してきた「Factory-ONE 電脳工場SC」を富士通が提供するクラウド「FUJITSU Hybrid IT Service FJcloud-O(以下、FJcloud-O)」にインテグレーションして提供するクラウドサービス「Factory-ONE 電脳工場 on FJcloud-O[FJO](※2021年11月リリース予定)」だ。

 なぜ、Factory-ONE 電脳工場をクラウドサービスとして提供することになったのか。

 「クラウド型のFactory-ONE 電脳工場STクラウドは小規模製造業向けにすでに100社以上のお客さまに利用いただいていますが、カスタマイズができない、2025年にサポートを終了する予定があるなどの理由で、これ以上広げられないという課題がありました。またサブスクリプション型のFactory-ONE 電脳工場SCは、既存の販売パートナーがクラウド基盤には消極的であること、ユーザー企業もクラウドにデータを上げることに抵抗を感じているなど、販売が伸びないという背景がありました」と常務取締役 稲葉秀嗣氏は語る。

 だが、そのような中堅・中小企業を取り巻く環境は、昨年春からの新型コロナウイルス感染症の影響で大きく変わる。元々経産省のDXレポート「2025年の崖」により、既存のレガシーシステムの刷新を考えていた企業は、コロナ禍を機に「クラウドを使った提案をしてほしい」という声が大きくなってきたという。「そこで私たちもクラウド化に踏み切ることにしました」(稲葉氏)

 Factory-ONE 電脳工場SCをクラウドサービス化することでユーザーにもメリットを複数提供できる。第一に安定した動作環境を早期に提供できることだ。第二にセキュリティ面でも安心して利用できること。第三にオンプレミス版に比べて、同等の安全性・性能を担保しつつ、イニシャルおよび運用コストが抑えられること。

 得られるメリットはユーザーだけではない。販売パートナーにとっても柔軟なカスタマイズにも対応でき、クラウドに精通していないユーザーにも安心して提案できるなど、メリットが得られるようになっている。クラウドサービス化するとはいえ、従来製品もそのまま維持していくという。

稲葉 秀嗣氏
常務取締役 稲葉 秀嗣氏

1961年三重県生まれ、大阪で育つ。大学卒業後1984年に中堅SIerに入社し、主に製造業の営業に従事。1996年、「電脳工場 for Windows」の専任部隊を立ち上げサポートパートナーとして活動。2003年エクス入社。現在、常務取締役としてクラウドを主としたサービス事業を推進。

クラウド対応にはビジネス的な抵抗も

 とはいえ、主力製品のクラウドサービス化は、これまで同社が培ってきたオンプレミス主体のフロービジネスから大きく変化する。社内での抵抗はなかったのか。「私たち開発者はクラウド化の必要性を感じていたので、たとえ知見がなく、一から始めることになっても抵抗はありませんでした。とにかくやるんだという意識で進めていきました」と開発に携わった鈴木氏は語る。

 一方で、「営業担当者や販売パートナーからの抵抗が大きかったですね」と抱氏は語る。

 クラウドサービス化するということは、サブスクリプションモデルになるということ。パッケージ販売と比べると年間売上高も少なくなるからだ。そこで抱氏は、「常に指数関数的に発達するテクノロジーに追従していく姿勢を持っていなければ、技術が陳腐化してしまうこと。そしてこれからのトレンドとして全てのソリューションがクラウドを前提としたものに変わっていくということを強いメッセージで伝え、徐々にオンプレミスのフロー型ビジネスからサブスクリプション型のクラウドビジネスへとウェイトを変えていくという経営方針を立てて社内でのコンセンサスを得ました」と語る。このような強い意思のもと、ビジネス側に技術的な必要性を説明したことで、主力製品のクラウドサービス化が進んだというわけだ。

鈴木氏
開発統括本部 Factory-ONE推進部 部長 鈴木 彰吾氏

2003年エクス入社。製品開発エンジニア・製品導入SEを経て、現在はFactory-ONEシリーズ製品開発責任者として開発プロジェクトマネジメントを担当。

クラウド基盤を選ぶ際に意識した5つのポイントとは?

 Factory-ONE 電脳工場をクラウドサービス化するにあたり、最も大きな課題となったのはクラウド基盤の選定である。「ライセンスの買取型を含めて、これまでの当社製品をパブリッククラウドで動かしていたお客さまが複数いらっしゃいました」と稲葉氏が語るように、Factory-ONE 電脳工場MF/SCはマルチクラウドに対応している。そのため、複数のクラウド基盤を検討することになった。そこで選定されたのが、FJcloud-Oである。

 Factory-ONE 電脳工場MF/SCは中堅・中小企業向けの生産管理システムの分野で富士通製品に次いで2位のシェアを獲得している。そんな同社がなぜ、富士通と出会うことになったのか。始まりはFactory-ONE 電脳工場MF/SCをマルチクラウドに対応させるため、既存のデータベースに加えてPostgreSQLにも対応する必要があったことだ。「PostgreSQL対応について、しっかりサポートしてくれるパートナーを探したところ、行き着いたのが富士通ミドルウェア社(今年10月1日、富士通株式会社に統合)でした」(稲葉氏)

 富士通ミドルウェア社のサポートを受け、PostgreSQL対応は完了。その際、同社の担当者から紹介されたのが富士通の運営する「技術と未来をつなげるコミュニティFUJITSU TECH TALK(以下、FUJITSU TECH TALK)」であった。その縁もありFJcloud-Oもクラウド基盤の候補に挙がった。

 各ベンダーから提供されるクラウドサービスについて「サーバのスペック、ネットワーク、運用管理、操作性、コストという5つのポイントで選定しました」と高橋氏は語る。

高橋氏
開発統括本部 本部長 高橋 俊臣氏

2003年エクス入社。製品導入SEとして従事、東日本システム部門でSIの部門長を経験した後、現在は製品開発部門、ソリューション開発部門、情報システム部門を束ねる。

 点数の付け方は今までのものと比較して、レスポンスタイムなど数値的なものだけではなく、今まで使っていたモノと比較して、「使いやすい」「使いにくい」「速い」「遅い」という感覚的なものも含めて行ったという。

 対象となったのは富士通をはじめとする国内ベンダーに加え、外資ベンダーから提供されるクラウドサービス。そして、5つのポイントで最もポイントが高かったのがFJcloud-Oだったというわけだ。

 「クラウドサービスは、可用性、完全性、機密性を担保することが不可欠です。この点においても、他のクラウドサービスと比較して、稼働の安定性、可用性、完全性に優れていました。また、国内で万全なセキュリティ対策の下で稼働しており、機密性に関しても安心感がありました。そして価格面にも優位性がありました。例えばFJcloud-Oは、ネットワークのデータ転送(イン&アウト)に一切の料金が発生しないため、ネットワーク料金の変動に対する不安定要素も排除されていました」と情報システムチームリーダーとして、今回のサービス構築に関わった福島氏は語る。また、高橋氏も「ネットワークのレスポンスについてもFJcloud-Oは特に抜きん出て優れていた」と続く。

福島氏
開発統括本部 情報システムチーム リーダー 福島 裕氏

2010年エクス入社。Factory-ONE 電脳工場のサポート業務、製品開発に従事。情報システムチームへ異動後、リーダーとして社内インフラやネットワークの運用管理を担当。

クラウドの知見を補うコミュニティの力

 この5つのポイントに加え、もう一つ、FJcloud-Oを採用する決め手になったのが、技術的なサポートをしてくれるパートナー、スリーハンズ社と出会ったこと。先述したとおり、これまでオンプレミスのビジネスを主力としてきた同社には、クラウドの知見のある開発者は少なかった。「他のベンダーも、IaaS基盤は提供してくれますが、それに必要となる技術については教育カリキュラムを提供するのみで、自社で育成してくださいというスタンスでした」(稲葉氏)。中でも外資系ベンダーの場合は、マニュアルが全て日本語化されていなかったり、問い合わせが海外拠点になったりするなど、レスポンスも悪く、英語が不得手な人間からはハードルが高かったという。FJcloud-Oについても知見はなかったが、「FUJITSU TECH TALKで、クラウド構築の知見に長けたスリーハンズ社 取締役 最高ネットワーク責任者の奥山氏と出会えたことが非常に大きかった」と稲葉氏は振り返る。「当社は中堅・中小企業向けに業務システムを提供してきたが、スリーハンズ社はそのような規模感も考慮し、提案やサポートをしていただけた」(稲葉氏)

 富士通が運営するFUJITSU TECH TALKはさまざまなシステム・サービス提供を行う開発者を中心に、最新テクノロジーやビジネス活用について語り合い、新たな事業の創出を目指して活動するコミュニティ。「最大の特長は、参加しているのが富士通関連のビジネスを展開している企業だけではなく、スタートアップや実績豊富な企業などさまざまな企業が参加していること。しかも、参加費用もなく活動は頻繁。メーカー主導のコミュニティの中では、最も活性化しているコミュニティで参加メリットはあったと実感する」と稲葉氏は語る。

クラウドに対応したことで見えてきた新たな展望

 Factory-ONE 電脳工場のFJcloud-Oクラウドサービス版のリリースはこれから(2021年10月現在)。現在、エクス社内で動作検証を行っているが、「フィールドサポートを担当するエンジニアからはオンプレミス版とほぼ遜色がないレベルのレスポンスだと高評価を得ている」と鈴木氏は笑みを浮かべる。また福島氏は「FJcloud-Oの画面にAPIを実行する機能が備わっており、その操作性に長けています。インターネットがつながる環境があれば、各拠点に検証環境を用意する必要がないので、インフラ準備の負担が減ったのも、FJcloud-Oを活用するメリットですね」と新ソリューションへの期待を語る。

 この新しいソリューションのリリースをきっかけに、「クラウドのメリットを最大限に引き出し、ユーザーに最大の価値を提供できるクラウドネイティブな開発およびサポート体制を確立して、クラウドを起点にしたビジネスモデルや収益構造に転換したい」と抱氏は意気込む。すでに次世代のFactory-ONE 電脳工場の開発が進められており、「次世代のFactory-ONE 電脳工場は1社に閉じた生産管理システムではなく、バリューチェーン全体を最適化する『生産管理戦略プラットフォーム』という新しいカテゴリーの製品となる予定です」と抱氏。

 クラウドに加え、抱氏がキーワードとして挙げるのがデータドリブンだ。中堅・中小企業の経営陣はまだまだ勘と経験と度胸が中心で、データ中心にものづくり経営を進めているところは少ないという。「そこをデータドリブンにすることに使命を感じている」と語る。

 次世代のFactory-ONE 電脳工場はどんなソリューションになるのか。SIer、プラットフォーマー、データサプライヤという3つの事業領域を推進していくというエクス。これからの活躍を注目したい。

1800本出荷!「Factory-ONE 電脳工場」シリーズ

 販売開始から約26年。さまざまな業種に出荷実績のある株式会社エクスが開発した生産管理システムです。個別受注生産(製番管理)、繰返生産(MRP)、個別受注と繰返の混在生産(ハイブリッド)といった形態に適合し、販売管理機能を装備しているので、生産・販売が一体となって管理可能です。

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著者プロフィール

  • 中村 仁美(ナカムラ ヒトミ)

     大阪府出身。教育大学卒。大学時代は臨床心理学を専攻。大手化学メーカー、日経BP社、ITに特化したコンテンツサービス&プロモーション会社を経て、2002年、フリーランス編集&ライターとして独立。現在はIT、キャリアというテーマを中心に活動中。IT記者会所属。趣味は読書、ドライブ、城探訪(日本の城)。...

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