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キーパーソンインタビュー

OSSが持続可能であるために――疲弊する「ボランティアエンジニア」を支援する新たな仕組みとは?

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 開発者が何気なく使っているOSS。長らくボランタリーな活動によって支えられてきたが、それ故の課題や障壁も顕在化しつつある。そうした中、ブロックチェーンを活用したコミュニティによってサステナブルな開発環境を実現しようという動きがある。その目的や背景、そしてOSSが持続的に発展するための方法について、サイオステクノロジーの上席執行役員として各種OSSのプロジェクトに関わりつつ、経産省より発足した日本OSS推進フォーラムの理事長を務める黒坂 肇氏、そしてオープンな資産(アセット)を収益化し、サステナビリティを実現するテクノロジー「Dev Protocol」を開発・提供するFRAME00のCTOであるAggre(アグリ)氏、同社Developer Relationsの川上氏にお話をうかがった。

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OSSと開発者の関係性はどのように変化してきたのか

黒坂 肇氏
サイオステクノロジー株式会社 上席執行役員 黒坂 肇氏

半導体設計・テストエンジニアを経て、Linuxとの出会いを機にサイオステクノロジー前身企業に参画。技術部門やビジネス部門の責任者を歴任し現職へ。社外活動では、経済産業省がオブザーバで参加する日本OSS推進フォーラムの代表をはじめ、さまざまなコミュニティに参画。スタートアップ支援や講師活動なども多数。

Aggre氏
FRAME00.inc CTO Aggre氏

中学生の頃からWeb開発に取り組み、OSSと親しむ。複数のOSSコミュニティに参画・主催し、「OSSの開発者であり利用者」として関わり続けてきた。ARのスタートアップなどを経て、社会に役立つ文化と技術が正しく評価される世界を目指し、2017年にFRAME00に参画。

川上氏
FRAME00.inc Developer Relations 川上 和義氏

約15年にわたりプログラマとして活躍する中で、JavaScriptフレームワークであるAngularやVue.jsなどの勉強会にスタッフとして参画。JavaScriptライブラリPolymerの勉強会でAggre氏と出会い、コミュニティを設立。OSSプログラマの現状に課題を感じ、FRAME00にDeveloper Relationsとして参加している。

――皆さんはそれぞれ長らくOSSに関わられて来られたわけですが、その中でOSSを取り巻く環境の変化についてどのように感じていらっしゃいますか。

黒坂:OSSは、目的や意義が3世代にわたって大きく変わってきたように感じています。Linuxなど中心となるプロジェクトがあり、その開発に貢献したいという開発者が大勢を占めていたのが第1世代。その後の2004〜5年くらいから、そうした文化を引き継ぎながらも、「コスト削減」を目的に企業が使うようになり、オープンな環境での開発による進化速度や品質向上に価値を見出した開発者が増加しました。「OSSに貢献したい」というより、「新しい何かを生み出すためにOSSやOSSという開発手法を利用する」という価値観の変化が見られたのが第2世代です。

 そして第3世代においてはAIやIoTなどイノベーションを起こすハイエンドな技術として認識されるようになり、OSSを使うことそのものより、社会的課題を解決するためのツールとしての価値が高まっています。OSSの開発モデルが拡大する一方で、OSSはあらゆるシステムのベース技術となってきたわけです。となると、開発者の評価は「AIやIoTに詳しい」「Hadoopで大規模なシステムを組める」……という部分に移行し、もともとOSSを支えてきた「クリエイティブでイノベーターとしての素質」が評価されにくくなり、結果としてコミュニティに参加するモチベーションが低下している感があります。

オープンソースソフトウェアの役割の変化

OSSの役割の変化

Aggre:もちろん自己実現の場として、「純粋にOSSコミュニティに貢献したい」「そこに自分の名前を刻みたい」という開発者も未だ多くいます。仲間たちとソフトウェアを開発するということへのやりがいを持つ開発者も多く、趣味での充実感を得るということに近いかもしれません。ただ、OSSが次第に影響力を増し、社会的にクリティカルな存在になってしまったために、もともとハッカー同士で楽しんでいたのが、社会的責任を負うようになってきた。その中でOSS開発者のモチベーションや考え方が大きく変化してきたように感じています。

黒坂:OSSは新しいものを生み出すためのツールであり、そのツールに貢献することより、新しいものを生み出すほうにモチベーションが移ったということなのでしょう。となると、コミュニティに参加するより、資格を取ったり、できることを増やしたりして給料を上げようという発想は自然なことかもしれません。

 さらに世界に目を向ければ、中国のファーウェイやテンセントは、自前でのOSS開発をやめてグローバルなコミュニティに参加し、彼らが望む機能を優先するよう働きかける活動をしています。Androidのように、競争領域だったモバイルのOSをOSSで標準領域にすることで市場を席巻するケースも出てきました。そうした領域で活躍するOSS開発者が主流になりつつあるのです。

技術的影響力とは裏腹に、疲弊していくOSSの現状

――OSSが商業化され、ツールとしての価値が高まり、それ故に開発者もその価値を活用することにフォーカスするようになってきたというわけですね。そうした変化に伴う課題については、どのように感じていらっしゃいますか。

黒坂:もちろんOSSの最たるメリットである、ゼロからでなくても流用によって迅速かつ自由に開発できるプラットフォームとしての価値は今も十分に機能しており、世界の開発者が協力し合う文化は一分も損ねられていません。その素晴らしい価値は引き継がれており、だからこそ意識せずともさまざまな作成物を生み出して公開し、OSSに貢献する人も増えています。AWSがその最たるものですよね。中国でもGitHubに締め出されることを危惧して「Gitee」のようなプラットフォームも登場しており、大量のソースコードがやり取りされています。

川上:そもそもOSSが商業的に活用されるようになれば、世の中もどんどん便利になるわけで、決して悪いことではないんです。OSSプロジェクトが活性化すれば、イノベーションはさらに加速するのですから。ただ、その中で非エンタープライズのプロジェクトがなかなか収益化できず、継続が難しいというのが現実的な問題となりつつあります。

Aggre:寄付の文化がある欧米では、大きくて見た目が良くて、アプリケーションに近く、わかりやすくて……という人気のあるOSSコミュニティにはお金も人も集まります。でも、日本ではそれがなかなか難しい。企業発ならば開発者には給与が支払われますが、個人発ではそうもいきません。多く使われている(依存されている)OSSのコミュニティであるにもかかわらず、一人のコアコントリビューターのボランタリーな活動に委ねられ、その人の経済的余力がなくなって、コミュニティが崩壊する可能性もあるわけです。そうなれば本当に大きな社会的損失だと思います。私自身も「OSSを作り、使う」立場にありますが、面白くて有望なOSSプロジェクトに携わっていた人が、仕事が忙しくなったり、その他の事情で時間が取られたりして、更新が停滞してしまうのを度々目にしてきました。

黒坂:個人のボランタリーな思いだけで継続されているのは本当に問題ですよね。なぜ、多くのシステムに使われているOSSの開発者なのに、経済的な支援が受けられないのか不思議な話です。

Aggre:そこはOSSはオープンであるがゆえに無料で使えることが前提で、収益基盤は寄付に頼らざるを得ないからですよね。それでもデュアルライセンスや、近年ではオープンコアという考え方もあり、SaaS化して事業として成り立たせる人もいます。しかし、時刻計算をするためのライブラリのような、もっとシンプルで汎用的なOSSの場合は課金も難しい。また一方で、寄付もマネタイズの方法ではないんですよ。つまり、OSSの収益基盤は未だ存在していないんです。

 オープンソースがなかった時代と比べ、イノベーションの数も速さも段違いになっており、もはや私たちはOSSのなかった頃には戻れません。そこまでインパクトのある技術を提供していながら、未だ収益の基盤を得られていない。これが定期的に「OSSやるのって損ではない?」という議論につながります。この歪みを解決しないまま次の50年を迎えられるのか、個人的には疑問です。

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OSSと伝統建築の意外な共通点とは? 新たなエコシステムヘの取り組み

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

小林 真一朗(編集部)(コバヤシシンイチロウ)

 2019年6月よりCodeZine編集部所属。カリフォルニア大学バークレー校人文科学部哲学科卒。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/15093 2021/12/13 11:00

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