急激に拡大する組織で一人ひとり開発生産性を担保するには?
さらに、KDDIのアジャイル開発部門は急激な組織の拡大も経験した。組織のメンバーが増えていく中で、1人当たりの開発生産性はどのように担保したのか。
岡澤氏は「生産性の向上には、まずは『見える化』が不可欠。それによって組織自らの改善を推進できる。『ベロシティを生産性と見てはいけない』といわれるが、数値が見えることで改善が図られた結果、生産性が上がる」と語る。
この結論に至るまで岡澤氏は、数々のトライアルを実施してきた。失敗例では、チケット数で生産性を測定し、開発効率の低いオフショアメンバーのチケットを細かく区切ったところ、逆に生産性を下げる状況になってしまった。
佐藤氏はこの失敗を受けて「ダイエットのようなものではないか」と語る。現状を知って記録をつけるために毎日体重を計ることは大切だが、数字の増減よりも健康になるための指針や気づきの方が重要なわけだ。
実際、同社では40から50のスクラムチームが常に異なるプロジェクトを進行する。目標が異なるグループの生産性を比べても仕方がない。視座のレイヤーを上げるとチームの生産性に差が生じていることがわかるが、自分たちでその問題点に気づくことが重要だ。気づかせるためのツールとして可視化が有効なのである。
そして、開発生産性を向上するためのアクションの1つとして、アジャイル開発部門はFour Keysや開発リードタイム、レビュー状況を可視化する「Findy Team+」を導入した。岡澤氏は「さまざま様々な数値がよく見えるようになり、透明性が増した」と評し、「ただし、その数値はチームに合わせて見る必要がある。エンジンかからないメンバーやフォローが必要なメンバーがいるときには、特に注意して見ている」とスクラムマスターとしての数値の見方について語った。
「Findy Team+」では、一人ひとりのエンジニアの目線からも、コミット数やレビュー数で自分がどれだけ成長したかが可視化される。また、特定の誰かに負荷がかかっている場合は数値で状況を認識できるので、チーム内や他チームとの自律的な調整にも役立っているという。
また生産性向上のために、「Copilot」をはじめとする生成AIの活用も加速させているそうだ。「以前から、重複の排除や自動化は推進している。AIの有効性は、メンバー間でも共通認識を持ちながら、いっそう注目していきたい」と岡澤氏は語った。
エンジニア「楽しく働ける」環境づくりをするために
今後について、岡澤氏は「さまざまな課題があるが、組織が大きくなる中でチーム間の生産性の偏りが気になっている。チームで働くことは大切なだけに、体制を維持しながらベストサイクルを作っていくことが求められている」と語る。
かつての1on1を軸とした定性的な把握から、「Findy Team+」の導入により生産性の数値化・可視化が可能になった。現在では、チームごとに「幸福度」の測定や振り返りの実施など、さまざまな現状測定がなされている。こうした複合的な指標から、今後のチーミングの方向性も固めたいという。
佐藤氏は「サーバーの感覚に近い」と評し、「オートスケール設定でそれを超えたらケアというより、さまざまな方法で状況を把握し対応していく。それによって楽しく働く環境が作れればいい」と語った。
エンジニアにとって「楽しく働ける」環境とは、成長を実感できたり、時間を忘れて集中できたりする場所だ。それがチームのどこにあるのかを見ながら、一人ひとりが働きやすいチームになっているかを考えていく。ある人にとっては働きやすくパフォーマンスを出しやすいチームが、他者にとってはそうでないこともある。そのマッチングやバランスこそ肝要といえるだろう。
リーダーである岡澤氏は、エンジニアに楽しく働いてもらうため、心理的安全性を前提として「もやもや」をお互いに吐き出せるチームづくりをベースにしているという。アジャイルの文化に慣れ親しんだ岡澤氏にとって「ズバズバ言うのが当たり前。しかし、こうした上司はアジャイルに慣れていない部下にとっては面倒くさいだろう」と反省する。そこで、それぞれの施策の意味を言葉で伝えるなど、共通意識を持てるコミュニケーションを心掛けているそうだ。
最後に今後について岡澤氏は、「エンジニアが楽しく働いて、ビジネスとしての成功につながる仕組み」を創出したいと語る。そして、「ビジネス側から見て『こうしよう』というよりも、一人ひとりのエンジニアが躍動することでビジネスにつながる仕組みができると、私たちの会社の在り方としてはベスト」と語り、「アジャイルをやるとビジネスが進む、という共通認識を醸成していきたい」と意欲的な言葉でセッションのまとめとした。
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