パターンマッチの利用
最後に、サンプルプログラム中の男性と女性で処理を分けて出力している箇所を見てみます(見やすいように改行を追加しています)。
// 20歳以上の人物を男性と女性で分けて出力 filterAge( 20, list ). *1 foreach{ *2 p => p match { *3 case Male( n, _ ) => println( "%sさんは成人男性です" format n ) *4 case Female( n, _ ) => println( "%sさんは成人女性です" format n ) } }
まずは、先ほど定義したfilterAge関数を利用して、list変数から20歳以上のPersonオブジェクトを抽出しています(*1)。結果として返されたList[Person]オブジェクトに対してforeach関数を呼び出しています(*2)。
foreach関数は、Listの個々の要素に対して引数の関数オブジェクトを呼び出して処理を行う関数です。
ここでのforeach関数は、「引数にPerson型をもらって、Unit型の結果を返す関数」をもらうことになります。
では、「foreach関数に渡さる関数」ではどのような処理を行っているのでしょうか?
リスト12では、関数リテラルの記法を利用して、「 p => ...」とPerson型の引数pをもらっています(引数の型は省略)。
*3で、「p match {...}」と書いてある箇所ですが、これはScalaのもつ「パターンマッチ」という機能を利用しています。「パターンマッチ」は、C言語やJavaなどのswitch文に似ていますが、パターンとして記述できる表現がはるかに柔軟なのです。
値 match { case パターン => { 処理 } case ... case _ => { どのパターンにも当てはまらない場合 }
「パターンマッチ」は、判定対象の値にmatchキーワードを適用し、{}の中に「case パターン => 処理,...」という形でそれぞれの条件に合わせた処理を書いていきます。
リスト12では「case Male( n, _ ) => ...」と書いてありました(*4)。これは、「変数pがMale型のケースクラスオブジェクトの場合」というパターンの記述になります。さらに、Male型であった場合は、Male型がもつフィールドnameを、nという変数に代入して「=>」以降の処理で利用できるようになります。ageフィールドについては、この場合は条件に関連せず処理でも利用していないので、あらゆる値にマッチする「_」で受けています。
マッチした場合の処理は、単純に「××さんは男性です。」という文字列をStringクラスが持つformat関数を利用して生成し、pritnln関数で出力しているだけです。format関数で「××さん」の箇所に埋め込む文字列は、「case Main( n, _ )」の部分で受け取った変数nが利用されています。
同様にFemale型であった場合のパターンも書くことで、男性/女性で処理を分けて出力ができています。
Scalaのパターンマッチは、他にも「case foo」のように直接値にマッチさせたり「 case n if n > 10」のようにifで追加の条件を指定したりと、さまざまな形で記述できます。
また、例で示したようにパターンマッチとケースクラスを組み合わせることで、オブジェクトの構造に対しての条件分岐をパターンマッチで記述することができ、非常に柔軟で簡潔に処理を分岐させることができるのです。
まとめ
連載1回目となる本稿では、Scalaの特徴的な機能をピックアップして解説しました。サンプルプログラムは、コメントを除くとわずか10行ですが、説明をごらんいただければ分かるように、さまざまな意味がこめられています。
Scalaがいかに簡潔で表現力の豊かな言語であるかがお分かりいただけたでしょうか?
次回以降では、関数オブジェクトやScalaでのクラスやトレイトの使い方、パターンマッチの詳細など、もう少し個々の機能に踏み込んだ解説をする予定です。
本稿では、Scalaの特徴を全面に押し出した構成になっているので、詳細な文法は割愛させていただきました。ご興味のある方は、参考文献・資料をご覧ください。
参考資料
- The Scala Programing Language
- 『Programming in Scala』 Martin Odersky・Lex Spoon・Bill Venners著、Artima Inc、2008年11月
- 『Scalaスケーラブルプログラミング[コンセプト&コーディング]』 Martin Odersky・Lex Spoon・Bill Venners 著、羽生田栄一 監修、長尾高弘 訳、インプレスジャパン、 2009年8月
- 『Scalaプログラミング入門』 David Pollak 著、大塚庸史 訳、羽生田栄一 解説、日経BP社、2010年3月
- Welcome to Scala hack-a-thon #1's documentation!