会場チームについて
会場チームリーダーの北原です。
会場チームの担当は、ざっくりいうとPyCon JPのハードです。
事務局やプログラムチームなどソフトウェア面を担当しているチームからの要望を受け、会場やその他設備などのハード面をサポートします。
作業としては主に会場、カンファレンスルーム、ネットワーク環境、電源、同時通訳設備、映像配信、ランチ、コーヒーブレイク、パーティーなどの手配、調達、および当日の会場運営全般が含まれます。
今年良かった点としては、以下の点がありました。
- 予算内で質の高いハードを用意できた
- ランチやコーヒーブレイク、飲料水などに無駄がでなかった
- 映像配信のロストがなかった
また、反省点としては以下の点が挙げられます。
- 立ち見が多く出てしまった
- 参加者の皆様への充電スペースが少なかった(予算の都合)
来年はよりよいPyCon JP 2015になるよう、KPTをしっかり話し合い、活かしたいと思います!
ネットワークについて
NOC担当の山口です。
PyCon JP 2014では、9月12日のチュートリアルと9月13日~14日のカンファレンスにおいて、参加者の向けにインターネット接続が行える無線LAN環境を各会場で提供しました。会期中は大きなトラブルもなく、特にカンファレンスでは延べ約600台の端末にネットワーク接続をご利用いただきました。今回のカンファレンスにおける会場ネットワークの設計と運用について紹介します。
設計
PyCon JP 2014の会場ネットワークは、「高速で安定している接続環境を提供すること」「新技術にチャレンジすること」、そしてPyCon JP 2014のテーマである「再発見」をキーワードに「ネットワークを通じて”再発見”をしていただくこと」をポイントに設計しました。
1.上位回線の選定
会場には既設のインターネット接続回線はありませんでしたので、2日間のためにフレッツ光ネクストファミリーハイスピードタイプを契約し会場に引き込みました。長期契約割引がなくなることや工事費が実費負担となるデメリットはありますが、1日の利用でもフレッツ光を契約することが可能です。
通常フレッツ光によるインターネット接続を行うためには、契約するインターネットサービスプロバイダーより発行された接続アカウントとパスワードを利用しPPPoEという方式を行って接続を行います。しかしPyCon JP 2014では後述のインターネットマルチフィード株式会社様にご提供いただいたtransix接続サービス(注1)を利用し、PPPoE方式を利用しない方式でインターネットに接続しました。
2.インターネット接続
インターネット接続は、IPv6接続にtransix接続サービス、IPv4接続に10月よりサービスを開始したDualStack-Liteを利用したtransixIPv4インターネット接続オプションサービスをインターネットマルチフィード株式会社様より先行提供していただきました。
DualStack-Lite(略称DS-Lite)は、枯渇しているIPv4アドレスの延命とIPv6への円滑な移行を目的にしている、IPv4 over IPv6とCGN(Carrier Grade NAT、注2)を組み合わせた技術で、RFC6333で仕様が定義されています。会場内にIPv4のグローバルアドレスは持たず、IPv6のみのフレッツNGN網上でIPv4 over IPv6でIPv4パケットをカプセル化た上でトンネリングし、IPv4パケットを運びます。IPv4パケットはサービスプロバイダー側でカプセル化を分かれてNATによりIPv4グローバルアドレスに変換されてIPv4インターネットに出ていきます。IPv6パケットはフレッツNGN網経由で直接インターネットに出ていきます。
この技術を利用することにより、サービスプロバイダー側で持っている1つのグローバルIPアドレスを複数のユーザで共有できるため、枯渇しているIPv4アドレスを節約することができます。また、カンファレンスネットワークでは、しばしばNATのセッション数が問題です。500人規模のカンファレンスではしばしば数千~数万のNATセッション数が発生し、安定した通信をするために高性能なルーターが必要になり、併せてセッションの監視も必要となってしまいます。DS-LiteではこのNAT機能をサービスプロバイダー側で持つため、会場側で管理する必要がなくなるというメリットもあります。
3.無線LANの設計
500人もの人が利用する無線LANは家庭やオフィスの無線LANとはまったく異なる視点で設計を行う必要があります。
事前調査と台数の決定
会場内の電波状況を事前に確認するため、開催前に一度会場に伺い現地調査を行いました。調査の際には各所を回って干渉波やすでに利用されているチャネルなどを確認し、そのデータをもとに設計を行います。
今回利用した無線LANアクセスポイント(略称AP)は、1台あたり安定して利用できる同時端末接続数の推奨が2.4GHzと5GHzで、それぞれ50台程度(合計100台)となっています。まず講演が行われる各部屋の座席数を考慮した上で、それぞれの部屋に設置する無線LANアクセスポイントの台数を先に決定しました。ホワイエなどのオープンスペースはパーティーなどで多数の人が集まりますが、PCなどを使う人は少ないと考え若干少なめに見積もりました。
無線LANアクセスポイントの設置
カンファレンスホールでは、無線LANアクセスポイントをすべて2階席の柵の部分に設置し、一階には設置しませんでした。1階席付近に設置すると座席などの障害物やお客様の人体に電波が遮られて電波が届きづらくなるため、高い所に設置した方が影響を受けづらくなります。5GHzの周波数帯の電波は特に直進性が強く、障害物や人体の影響を大きく受けます。カンファレンスホール以外では無線LANアクセスポイントの高さを確保するのが難しい状況でしたが、椅子やカウンターの上に載せるなど可能な限り高さを確保できるように設置を工夫しました。
SSIDとチャネル設計(注3)
無線LANの利用する周波数帯には2.4GHzと5GHzがあり、5GHzは数多くのチャネルが利用できる一方、2.4GHzは実質利用できるチャネルが3チャネルであり、コードレスフォン、Bluetooth、モバイルルーターなどさまざまな機器で利用されているため、干渉源となる電波が非常に多い状況にあります。事前調査の結果でも2.4GHzには干渉電波が多く電波状態が悪いことが分かっていました。
5GHzにはW52・W53・W56の3つの周波数帯がありますが、W53とW56は航空レーダーなどと同一の周波数帯を利用しており、航空レーダーなどの電波を検知すると無線LANアクセスポイントが自動的にチャネルを変更するDFSという機能が実装されています。DFSが動作すると対象の無線LANアクセスポイントに接続されているクライアントは一瞬通信断が発生する他、隣り合う無線LANアクセスポイント同士が同一チャネルになってしまい電波状況が悪化することも考えられます。そのため、DFSの影響を受けないW52帯のみで設計を行いました。
一方2.4GHzは隣り合う無線LANアクセスポイント同士が同じチャネルにならないように設計しました。利用できるチャネル数が少ないため、カンファレンスホールなど設置台数の多い場所では同じ部屋内で同じチャネルの無線LANアクセスポイントが発生してしまいますが、そのようなケースでは一番遠い無線LANアクセスポイント同士を同一チャネルとしました。本当は周囲の干渉波まで考慮してチャネルを選択すべきでしたが、周辺の民家や店舗などからの干渉波が多い状況での最小限の対策としました。
また、同一SSIDで2.4GHzと5GHzの電波が同時に出てる場合、どちらの周波数で接続されるかはクライアントの実装に依存することになり、電波状態の悪い2.4GHzで多くの端末が接続してしまう事態が考えられました。そのため2.4GHzと5GHzでSSIDを分離しパンフレットなどで可能な限り5GHzを使っていただけるように案内を行いました。
電波出力と低速クライアントの切断
無線LANの通信方式は、衝突を回避するため、ある瞬間に無線LANアクセスポイントと通信できる端末は1台だけという仕様となっています(実際には同時に通信できているように感じますが、1台の端末が通信している際は他の端末では待ち時間が発生しています)。そのため、例えば何らかの理由により端末の位置より離れた無線LANアクセスポイントに接続し、低速で通信している端末があった場合は、他の端末では待ち時間が長くなり全体の収容人数が低下することです。そのため、今回は24Mbpsより低いレートで接続されている端末は無線LANアクセスポイント側より強制的に切断し、近くの高速で通信できる無線LANアクセスポイントにローミングするような設定を行いました。
また無線LANアクセスポイントの電波出力は50%程度に絞りました。狭い空間に多数の無線LANアクセスポイントを設置しているため、電波が飛びすぎて他の無線LANアクセスポイントの電波と干渉することを避けるためです。