さくらのIoT Platformのシステムモデル
実装・製品化が進む「さくらのIoT通信モジュール」は、技術的にはUART、SPI、I2Cを話すLTE通信モジュールだ。モバイルネットワークについてはソフトバンクとソラコムのリソースが利用できる。モバイルネットワークから先、IoT専用の閉域網への接続は専用線によってL2VPN接続される。
クライアントのWebサービスを利用したい場合は、専用ネットワークにつながったAPIゲートウェイを利用する。さらに、必要ならば、さくらのIoT Platform内のData Lake、外部連携サービスとの接続を行うデータルータを利用し、ユーザー企業のIoTサービスのロジック部を構成する。
LTE通信モジュールとクライアントのマイコンとの通信は、シンプルなコマンドベースのやりとりでチャネルID、型、値といった3つの属性を単位としたデータを送受信する。マイコン側に必要なリソースは最小限のものでも通信できる。データサイズは8バイトが基本となり、チャネル数は16である。
マイコンをプライベートクラウドやインターネットに接続する場合、スタンドアローンの製品と違い、ネット系の開発、運用インフラも必要となる。GSLB、DNSコンテンツキャッシュ、BGPルータ、データベース、ロードバランサ―、DevOps環境といったリソースを考えなければならないが、さくらのIoT Platformはこれらのサービスインフラやインターフェースも使えるとのことだ。なお、DevOps環境は、Mesos、Marathon、Dockerを組み合わせたものになる。
こんなことができる:IoT Platformの実証実験事例
インフラ、パートナー、デバイスとそろってきたので、セッションは「事(コト)」の話に移る。
小笠原氏は、天草で開催されたX(エックス)アスロンで、選手のほぼリアルタイムトラッキングを行った事例を紹介した。Xアスロンは陸海空を利用した5種目競技。シーカヤック、SUP(スタンドアップパドルボーディング)、マウンテンバイク、トレイルラン、パラグライダーを個人、チームで競う。
このうちパラグライダー競技において、さくらのIoT Platformを利用した。選手にさくらの通信モジュールを持たせ、飛行位置を可視化するシステムをこのチームが構築した。選手の位置情報やデータが集められると、画像や音声を観客やチームと共有できるだけでなく、広い競技エリアの選手の事故やトラブルの把握にも役立つ。パラグライダーを選んだのは、選手のトラッキングでいちばん課題が多くニーズがあったからだという。通常は汎用GPS端末を利用するのだが、選手ごとに仕様が異なり、広範な3次元(高度)情報を含む情報の統合管理が難しいなど、他の競技にはない課題だ。
この事例の問題は、技術的なものより電波法だった。3G/LTEなどモバイル通信や無線通信は航空機や飛行中の発信はできないことになっている。そのためパラグライダーのパイロットは、さくらの通信モジュールを利用できない。そのため、チームは無免許で利用できるLoRa(サブギガ帯を利用した小電力無線通信)端末(子機)を開発した。これをパイロットに持たせ、地上にさくらのLTE通信モジュール(親機)を基地局のように配置し、大会運営システムとつなげた。
さくらインターネットは、この事例をもとに、パラグライダー競技の標準的なシステムとして発展させていきたいとし、他のフィールド競技への応用にも期待する。親機・子機システムは、サービスへのラストワンマイル対策に有効かもしれない。
通信での課金は考えていない
さくらインターネットがSIMを出したり、IoT参入を発表したりすると、「さくらはMVNOをやるのではないか」といった声を耳にする。しかし、小笠原氏はそうした声は「誤解」だという。
「2020年には1000億台に達するといわれるIoTデバイス。その半分を担うとされるスタートアップに使ってもらいたい。世界中のスタートアップやMVNO、ベンダー、プロバイダーから選ばれるプラットフォームを目指す」
さくらのIoT Platformが目指すのは、あくまでベンチャーやスタートアップが使いやすいIoTインフラ(ネットワークとクラウド)であり、デバイスはIoTクラウドに接続するための通信モジュールだけだとする。通信モジュールも、通信料での課金は考えておらず、ビジネスモデルはクラウド上に保管されるデータが単位となるそうだ。エンドユーザー向けのデバイスやサービスを考えるのはユーザー企業ということだ。