コードジンのヘッダーが入ります Developers Summit 2008:セミナーレポート
【13-D-2】デベロッパーに贈る!業務アプリのためのユーザーエクスペリエンス向上講座
いま業務アプリケーションに求められる
「ユーザーエクスペリエンス」の視点
八巻 雄哉氏
グレープシティ株式会社 ツール事業部 テクニカルエバンジェリスト
今日の業務アプリケーション開発においては「ユーザーエクスペリエンス」を考慮したユーザー本位の設計が求められている。そのポイントとなるのは、ユーザーが“迅速かつ正確な業務の遂行”を行うことを支援することにほかならない。そのためには、入力系における入力作業の省力化やヒューマンエラーへの適切な対応、あるいは参照系における情報の効果的な視覚化などを十分に考慮した取り組みが肝要だ。

開発者中心指向の考え方を脱しユーザー本位の設計が求められる

 「ユーザーエクスペリエンス」という言葉が、最近、特にIT利用の局面に関してよく語られるようになった。セッションの冒頭、グレープシティの八巻雄哉氏は、図1 のような2 つの画面を示して「どちらがユーザーエクスペリエンスの高いアプリケーションだと思いますか?」と会場に問いかける。ご覧のように、両者は一見したところ色合い、あるいはコントロールが3D か2D かの違い以外は、ほぼ同様のものだ。

八巻氏は参加者の反応を一通り確認したあと、実際に入力操作を行う。結果は、左の画面では、各エリアを埋めて[登録]を押下するまでに1 分以上の時間を要したのに対し、右の画面ではすべての入力作業を10秒足らずで完了した。というのも、左の画面では「フリガナ」の全角/半角や「郵便番号」のハイフンの有無などについてのエラーメッセージがたびたび表示され、その都度修正入力が必要だったのに対し、右の画面では「氏名」入力時に「フリガナ」が自動入力されたり、「郵便番号」にはあらかじめハイフンが設定されているほか、その入力時に「住所」が自動入力されたりといったインターフェイスが実現されていたのだ。  

デモを終えた八巻氏は「ソフトウェアにおけるユーザーエクスペリエンスとは、その利用を通じて、ユーザーがどのような体験を認知するのかということ。今日では、そうしたユーザーエクスペリエンスを考慮したユーザー中心の設計が、業務アプリケーションの開発にも求められているのです」と切り出す。そのような取り組みを実践していくための一般的な手法としては、まずユーザーデータの収集・分析を行い、象徴的なユーザーモデルとなる“ペルソナ”を構築。そして、それに沿った具体的なプロトタイピングと評価を繰り返しながら、スパイラルによる開発を進めていくということになる。あわせて、これまでのアプリケーション開発には関与しなかったようなUX(User eXperience)デザイナやインタラクションデザイナといった専門家の参画も必要だろう。「ユーザーエクスペリエンスに関するユーザーの意識改革を促し、協力体制の整備や予算、スケジュールについての理解を求めるということも、とりわけ重要な取り組みとなるでしょう」と八巻氏は言う。

ところが現実には、「あくまでも業務アプリケーション」という捉え方で、ユーザーにマニュアル等による操作方法の習得を期待したり、ともすれば「使い勝手なんて人によって受け取り方が違うので、現場ユーザーの意見を聞いていたのではキリがない」というような、開発者本位の考え方がいまだ開発の現場に根強く残っているのも事実だ。これに対して八巻氏は「専門のオペレータなどが業務アプリケーションを利用していた昔であればそれでもよかったのかも知れませんが、いまや一般社員やアルバイトといった社内の誰しもがアプリケーションを利用する時代。ユーザーのアプリケーションの使い勝手に対する目は厳しくなっており、もはやそうした開発者中心指向の考え方は通用しません」と強調する。

人とアプリケーションの間のコミュニケーションを効率化する

それでは、ユーザーが望むエクスペリエンスとはいかなるものだろう。当然、それは“迅速かつ正確な業務の遂行”を支援するものだといえる。またユーザー企業の経営者にとって、コストを最小限に抑えて最大の利潤を上げることは大切なテーマとなるが、現場が求める“迅速かつ正確な業務の遂行”を実現するアプリケーションの導入が、そうした経営的要請にも適うものであることは言うまでもない。

「そのような視点から業務アプリケーションを捉えると、人とアプリケーションの間のコミュニケーションにおいて発生するボトルネックをいかに解消するかが、大切なポイントとなります」と八巻氏は言う。言い換えれば、アプリケーションの利用に関わる様々なムダを排除した機能美によって、両者のコミュニケーションの効率化を図ることが重要なのだ。

一般に人とアプリケーションの間のコミュニケーションのあり方には2 種類ある。1 つは、“人 to アプリ”つまり入力系、そしてもう1 つが“アプリ to 人”すなわち参照系である。まず入力系に関して八巻氏は「2 パターンのオペレーションタイプを想定しておく必要があります」と語る。具体的には、オフコン文化を経験した習熟者などに向けたキーボードのみによる操作と、Web 文化に馴染んだユーザーや未習熟者に向けた積極的なマウスの活用である。  

入力系において、まず求められるは入力作業をいかに省力化するかという問題だ。その最善の方法は、自動入力を実現する ことである。そして、それができない部分については、極力、ユーザーの入力の補助を行う。また、入力の正確性の支援や、誤った入力がなされた際の対応を考慮するということも入力系においては重要だ。

八巻氏はこれらの観点に沿って、郵便番号の入力による該当住所の自動入力、項目に対する推奨値表示によるショートカットキーでの入力、カレンダー表示からの日付入力支援、あるいは入力文字の全角/半角、ひらがな/カタカナなどプログラムで定められた書式への自動変換などを含むいくつかの例を、実際のアプリケーションのデモにより示した。

図1:どちらがユーザーエクスペリエンスの高いアプリケーションか?
WPF では“機能”と“外観”が分離多彩な表現を柔軟に実装できる

一方、参照系については、何よりも情報を視覚化することが重要なポイントとなる。「そうした意味では、文字よりも画像によって示すということも有効な方法となります。ただし、その際には画像では正確さが失われやすいということにも留意しなければならず、あくまで目的と合致した方法を選択する必要があります」と八巻氏は語る。例えば、売上げ分析や潜在顧客の抽出のような、大量の情報の中からある傾向や法則性を発見するというケースでは、画像のようなイメージから、まずは大まかに情報を概観し、最終的に抽出した情報を正確に吟味することになるだろう(図2)。重要なのは、入力系で求められる“機能”とは異なり、参照系で求められる“外観”は千差万別で、共通化、部品化しづらい要素であるということだ。したがって、実装技術には、そうした多様な表現をいかに柔軟に実現できるかどうかが大きな課題となる。

図2:情報の視覚化の例

そうした観点から現状のWindowsフォームを捉えると、そこにはいくつかの問題点が存在する。まず、コードの深層において“機能”と“外観”が密接に結びついてしまっているという問題があげられる。このため、データや機能をそのままに表現だけを変えたいというケースでも、コントロール自体を作り直すことが必要となる。

こうした問題を解消するものとして注目されるのが、WPF(Windows Presentation Foundation)だ。「WPFでは、“機能”と“外観”が分離されており、“外観”についてはXAML(eXtensible Application Markup Language)の定義によって自在に変更することができます」と八巻氏は説明。実際にWPF で提供されている、リストボックスのようなデータを複数回繰り返すためのコントロールであるItemsControl に含まれる3つのテンプレートの定義を変えることで、同じデータとコントロールを利用してアプリケーションの“外観”を柔軟に変更するとい うデモを行った。

最後に八巻氏は「従来のWindowsフォーム上にWPFのコントロールを表示させるための仕組みも標準でサポートされています。そうしたものも積極的に活用しながら、ぜひユーザーエクスペリエンスの高い業務アプリケーションの開発を目指していただければと思います」と語り、セッションを締めくくった。

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