アジャイルチームの成長には段階を踏む必要がある
レッドハット DevOpsシニアコンサルタントの山田悦朗氏は10年ほどアジャイルコーチとして現場を支援している。スクラムギャザリング東京実行委員などのコミュニティ活動や技術書の翻訳にも携わっている。
山田氏が所属するレッドハットでは、ミッションに「顧客、コントリビュータ、パートナーのコミュニティにおいて、オープンソースのやりかたで、よりよいテクノロジーを作り出す触媒となること」と掲げているように、コミュニティ活動や触媒としての役割を重視している。代表的な取り組みとしてOpen Innovation LabsやOpen Practice Libraryがある。
今回のセッションではアジャイルチームの成長過程に起こる変化について考える。新しいサービスを生み出す時、もととなるアイデアがテクノロジーやマーケットとうまく重なるところを模索していく。本当に求められているものにたどり着くまで、仮説検証を何度も繰り返すのだ。
その中で、開発のプロジェクトがビジネス部門とアジャイルチームに分かれていると、時間がかかってしまう。緊密に連携しながら、判断を繰り返し方向性を模索していく。そうした動きが自律的に進むことが理想だ。
チームが自律的であることは「その組織の開発能力そのもの」と山田氏は言う。ただし最初からチーム全員が能力をフルスロットルで発揮し、開発が進むことはない。それぞれが経験を積みながら、徐々に成長し、それに伴い生産性を高めていく。
成長過程において、チームはさまざまな悩みを抱える。悩みそのものは問題ではなく、成長段階を着実に踏んでいる証しでもある。どの段階でどのような悩みを抱えることになるのかあらかじめ知っておくと、目の前にいるチームがどの段階にいるか分かるようになる。
経営者などチームを支援する立場の認識も重要だ。チームを支援するはずのメンバーが不適切な認識を持っていると、チームの成長を阻み、足を引っ張ることになりかねない。上層部が言ってしまいがちな声には次のようなものがある。
「自分から動かないメンバーばかりだから、こちらから指示を出してあげなさい」、「あのチームは失敗した。信用ならないから指示しないと」、「最初のスプリントからうまくできないと続けさせないよ」など。こうしたコメントは、チームには自律を学ぶ過程があることを知らないために出てくるものだ。また、失敗から学ぶことにも効果があることを忘れてはならない。
上層部のこうしたコメントの背景には、アジャイル開発を自動販売機のように思っているところがあるのかもしれない。硬貨を入れてボタンを押せば、ガチャンとほしいジュースが出てくるかのように。しかし現実はそんなにお手軽に成果が得られるものではない。
山田氏は言う。「だって、人ですからね。人は機械ではないし、資源でもありません。パフォーマンスを出せるようになるには準備や理解が必要です。段階を経てチームは成長していくのです」。