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Oracle Code Tokyo レポート(AD)

ブロックチェーンエンジニア超入門「Blockchain GIG 特別編」〜ブロックチェーン普及のための、ベンダーの垣根を超えた取り組み

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 ブロックチェーンというと、当初は仮想通貨に代表されるように金融や流通における大規模システムのための高度な分散処理技術と見なされていた。しかし近年では技術が発展し、エンジニアとの関わり方も変化してきている。そろそろ企業の業務アプリケーションを開発しているエンジニアもブロックチェーンの情報収集を始めたほうがよさそうだ。

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エンタープライズブロックチェーンエンジニア向けの勉強会:「Blockchain GIG」

 仮想通貨に関する話題を除き、最近ではあまりブロックチェーンの話題を見かけなくなり、世間的にはブロックチェーンとその技術に対する期待と高揚が過ぎ去ったかのように思われる。しかし、一方でスマートコントラクトや台帳DBMSなど、関連技術が実用に向けて動き始めていることをご存知だろうか。

 エンタープライズIT的にはブロックチェーンはまさにこれからだ。この世界に足を踏み入れようとするエンジニアにおすすめのコミュニティが「Blockchain GIG」。初心者でもブロックチェーンの基礎を知ることができて、第一人者たちが語るノウハウ、ブロックチェーンの進め方、さらには現在の潮流を聞くこともできる。

 もともと「Blockchain GIG」はオラクルが主催する技術者向けコミュニティ「Oracle Code Night」の1分野。過去にも7回実施しており(2020年8月現在)毎回大好評を得ている人気のコミュニティ。2020年8月5日は特別編として、IBM、マイクロソフト、オラクルの3社共催で「エンジニアのためのエンタープライズブロックチェーン超入門 #3」をオンラインで開催した。

 発表者は登壇順に、「デプロイ王子」こと日本マイクロソフト 廣瀬一海氏、日本IBM 萩野たいじ氏、日本オラクル 中村岳氏。運営を主導しているのが日本オラクル 大橋雅人氏。それぞれにブロックチェーンの第一人者だ。

 廣瀬氏はOSSやLinuxを活用し、インターネット向けサーバシステムの無停止や分散のための設計/構築に数多く携わり、現在は日本マイクロソフトのクラウドソリューションアーキテクトとして活躍している。萩野氏は美容師や音楽家からソフトウェアエンジニアに転身し、起業やSIerを経て、現在は日本IBMのデベロッパーアドボケイトで、ブロックチェーンやIoTなどに詳しい。中村氏はSIerで金融業界の決済関連アプリケーション開発に携わり、現在では日本オラクルのソリューション・エンジニア(Oracle Groundbreakers Advocate)としてアプリケーション・インテグレーションやブロックチェーンを担当している。

 今回のメンバーは「Blockchain GIG」を通じて自然と交流が始まったという。情報交換していくうちに、メンバーは同じ危機感を共有した。現状、日本ではブロックチェーンに関する技術者向けミートアップは少なく、あったとしてもスタートアップや上級者向けを中心にしたものが多い。一般企業で業務アプリケーションに関わるようなエンジニアにはまだ遠い世界だ。

 しかし世界では着実にブロックチェーンの社会実装が進みつつあり、大企業同士のグローバルなコンソーシアムも急増している。うっかりしていると日本が取り残される懸念がある。何よりも問題なのは、日本におけるエンタープライズIT領域でブロックチェーンが分かるエンジニアが少ないこと。メンバーは「このままではまずい。ブロックチェーンをもっと日本で広めるためにも、エンジニアの裾野を広げないと」という見解で一致し、今回の開催に至った。

今回の登壇者と、ファシリテーションを務めた日本オラクル 大橋雅人氏
今回の登壇者と、ファシリテーションを務めた日本オラクル 大橋雅人氏

エンジニアがブロックチェーンを学ぶ魅力とは? どう学ぶ?

 日本IBM 萩野氏は「エンタープライズにおいてブロックチェーンの歴史はまだ浅いです。今から勉強すれば誇れるレベルに行けるでしょう」と話す。つまりブルーオーシャンということだ。成熟した技術、例えばRDBMSと比較すると分かりやすい。今からRDBMSを勉強することは決して無駄ではないものの、既にトップレベルのベテランが大勢いる。しかしブロックチェーンならまだ経験者が少なく、今からでも希少な存在になれる。

 日本マイクロソフトの廣瀬氏は「当初ブロックチェーンは各社がしのぎを削る“競争領域”と見られがちでしたが、本質は“協業領域”です。ベンダーロックインはありえない。そこがいい」と言う。同調するように、日本オラクル 大橋氏も「ブロックチェーンはつなげる技術であり、参加者をつなげて社会課題を解決していくものです。“みんなでやろう”という姿勢が大事」と話す。

 そうは言うものの、ブロックチェーンは技術的な難易度が高そうで、学ぶにも躊躇してしまいそうになる。ところが、近年では状況が変わりつつあるそうだ。少し前までブロックチェーンは「基盤を作る」ものだったが、今ではクラウドベンダー各社からマネージドのブロックチェーンサービスが提供されていて「利用する」ことができるようになってきた。萩野氏は「ブロックチェーンを新たなミドルウェアとしてとらえてもいいのでは」と話す。

 これからは「どう動かすか」だけではなく、「どう活用するか」で関わるエンジニアが増えていくのは必至。中村氏は「“作る”と“使う”は違います。自分はどちらに進みたいかを見極めておくといいでしょう」とアドバイスする。

 これからブロックチェーンをキャリアに活かそうと考えるなら、大橋氏は「自分の得意分野にブロックチェーンを掛け合わせるといいでしょう。いろんな組み合わせがあると思いますよ。早い者勝ちです」と笑う。

第一人者たちが語った、最新事例・基本技術・エンジニアを取り巻く環境

 ここからは、実際にイベントでどんなことが語られたのか、その模様をお伝えする。

エンジニアのためのエンタープライズブロックチェーン超入門

 大橋氏によって「Blockchain GIG」の概要やイベントなどの説明がされた後、セッションがスタート。最初のスピーカーは廣瀬氏だ。

日本マイクロソフト 廣瀬一海氏

日本マイクロソフト 廣瀬一海氏

 ブロックチェーンはデータを共有するための技術で、電子署名、データ共有、分散、台帳、これら4つの要素からなる。現実世界なら、例えば配達の伝票をイメージしてみよう。同じ伝票が何枚か綴られ、行く先々で配布される。この伝票はもらった順に保存し、修正してはいけないというルールがある。そのためブロックチェーンでは真正性のあるデータの共有場所を設けることになる。

ブロックチェーンとは?
ブロックチェーンとは?

 現状ではニーズは次の4つに集約されている。ビジネスプロセスが信頼できる境界域を越える場合、複数の関係者が同一データを処理する場合、信頼できる1つの情報源を中継しコントロールする場合、低価値の手作業のデータ検証手順を伴う場合だ。

 ブロックチェーンを使うことで、異業種や同業種が参加する企業間のビジネスプロセスを自動化することができる。同じ目的のために集まった組織をコンソーシアムと呼んだりする。例えば、異業種なら商品のトレーサビリティの向上を目的に使われたり、同業種なら情報共有のために使われたりする。コンソーシアムの数は年々増えていて、特に2019年には本番運用を始めた数が前年比で2倍弱ほどある。日本企業も徐々に参加していくことになりそうだ。

 ブロックチェーンには多数の不明な参加者からなるパブリックブロックチェーンと、承認された参加者からなるエンタープライズブロックチェーンがある。後者には閉じたプライベートと複数企業からなるコンソーシアムの2種類がある。

 ブロックチェーンのユースケースは今や幅広い業界にわたり、もう仮想通貨に限った話ではなくなっている。例えば日本ではSBIリクイディティ・マーケットにおける外国為替の照合作業がある。Cordaを活用した初の国内事例であり、2020年4月から商用化が始まった。他にも個人宅間での電力触接取引の実証研究、難民支援用のデジタルID、コーヒー店のフェアトレード、高級ブランドの商品追跡、航空会社とホテルとレンタカーで予約と運航情報を共有など。あらゆる領域で活用されてきている。

ブロックチェーンの技術要素と特徴

 続いて登場したのは萩野氏。ブロックチェーンの基本的な技術について解説を行った。

日本IBM 萩野たいじ氏

日本IBM 萩野たいじ氏

 ブロックチェーンでコアとなるのが「ブロック」と「ハッシュ関数」。前者は処理の内容と結果が詰め込まれた箱のようなもの、後者は改ざんを防止するために固定長のハッシュ値に変換するための関数だ。

 ブロックチェーンにはビットコインに代表される仮想通貨型と、主に企業で多くの用途に使われる汎用型がある。仮想通貨型だとトランザクション発行、検証計算(マイニング)、ブロック生成の3段階で処理が進む。汎用型ではさまざまだが、一例としてHyperledger Fabricでは、トランザクション依頼、スマートコントラクト実行(検証)、条件を満たしたらトランザクションをサブミット、トランザクションのコミット順を決定、トランザクションをコミットしてブロックを生成、という5段階で進む。

汎用型ブロックチェーン(Hyperledger Fabric)では5段階でブロック生成
汎用型ブロックチェーン(Hyperledger Fabric)では5段階でブロック生成

 いくつか覚えておきたいキーワードがある。参加者間で共有される取引データの台帳となるのが「分散台帳」で、主にブロックとワールドステートからなる。続いて「スマートコントラクト」はビジネスロジックによる処理の自動化や柔軟な台帳の活用を実現するための仕組みとなる。さらに「コンセンサス」は分散ノード間で取引の完全性をシステム的に検証して保証する仕組みだ。

 参加者間の匿名性確保や取引内容の秘匿性など、プライバシー保護には暗号技術や認証機能を用いる。例えばHyperledger Fabricでは、ブロックチェーンネットワークに参加できるのは認証局が発行した証明書を持つユーザーのみとなっている。また、ネットワーク内の台帳の共有範囲を「チャネル」や「プライベートデータ」で設定することができる。

 萩野氏はブロックチェーンを「アプリケーションを支えるデータベース」と位置づける。消すことのできない全トランザクション履歴を持つためトレーサビリティに優れており、参加者全員でデータを共有するので、不正や改ざんを防止できるのが大きな特徴となる。

エンタープライズブロックチェーンでのエンジニアのニーズあれこれ

 次のスピーカーは中村氏だ。エンタープライズ領域でのブロックチェーンエンジニアの需要や求められるスキルに関して語った。

日本オラクル 中村岳氏

日本オラクル 中村岳氏

 世界のブロックチェーンの潮流を見ると、まだニッチな段階を抜け切れていないものの実験的な段階は終わり、メインストリームに向かいつつある気配がうかがえる。

 海外のメディア記事には「ブロックチェーンエンジニアの需要が急激に増大」や「ソフトウェア開発エンジニアのロールで最も高収入な領域に」という指摘も散見される。一般的に日本は海外トレンドを数年遅れでフォローする傾向があるので、そろそろ国内でも需要増大の可能性はある。

 中村氏は個人の見解として、国内のエンタープライズ領域におけるブロックチェーンエンジニアの供給は需要に対して「まだ全然足りていない」と見ており、「今から学習を始めればアーリーアダプターなれるかも」と示唆する。

 企業でブロックチェーン技術を使うなら、多くの場合、コンソーシアム型のブロックチェーンネットワークを構築することになるだろう。開発するのは主にアプリケーション本体とスマートコントラクトになる。アプリケーション部分はSDKやAPIからスマートコントラクトを呼び出したり、ブロックチェーンノードが提供する各種機能を利用したりすることになる。ブロックチェーン部分は台帳読み書きのロジックとなるスマートコントラクトを書くことになる。データベースならストアドプロシージャをイメージするといい。

エンタープライズ領域でのブロックチェーン利用システムのあり方の典型
エンタープライズ領域でのブロックチェーン利用システムのあり方の典型

 これまでの企業が使うシステムでは単一企業内で運用するものが多かったが、エンタープライズブロックチェーンは企業間で使うため、組織をまたいでの合意や協働が重要になることを覚えておいたほうがいいだろう。中村氏は「技術者や有識者不足がポテンシャルの足かせにならないようにがんばりましょう。引き続き、勉強会で情報発信をしていきます」と話した。

***

 3つのセッション後は参加者からチャットで寄せられた質問に答えた。質問には「PoC止まりになる背景には何があるのか」、「スマートコントラクトがいまいちぴんと来ないです」など初心者ならではの質問もあり、登壇者同士でディスカッションしながら率直に答えていた。

 今後の展望について尋ねると、メンバーは異口同音に「初心者大歓迎の姿勢は貫きたい」と答えた。業界全体の知識の蓄積と共有のため、過去の「Blockchain GIG」の資料はすべて公開されているという。ブロックチェーンに既に関わっている方はもちろん、これからブロックチェーンを始めてみたいと考えているならば、ぜひとも参加してみるといいだろう。

Oracle Code Night 開催情報

 BlockchainGIGなど、ほぼ毎週オンラインで開催されるOracle Code Nightの開催情報はこちら。

 過去開催(オンライン開催)分の動画はこちらから。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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