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独自商品開発手法「訴求ファースト」と「こだわり駆動開発」でヒットを生み出すジャストシステム【デブサミ2017】

【17-C-2】教育、医療、もの書き市場で戦うプロダクトマネージャーの考え方 ~訴求ファーストとこだわり駆動開発とは?~

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2017/04/24 14:00

 1981年設立、日本のIT業界の中では老舗ともいえるジャストシステム。日本語ワープロソフト「一太郎」や日本語入力システム「ATOK」で有名だが、そのほかにもさまざまなBtoBおよびBtoCサービス・ソリューションを開発している。ここ5年半は営業利益、経常利益ともに、過去最高益を更新しており、今もなお成長を続けている企業である。同社の好調な経営の源は、社員がチャレンジできるベンチャー気質が生き続けていることに加え、提案型の自社商品開発にこだわっていることにある。独自の商品開発手法「訴求ファースト」と「こだわり駆動開発」とは何か。「スマイルゼミ」「JUST DWH」「一太郎2017」を開発する3人のエンジニアがリレー方式でその具体的な開発方法を紹介した。

目次

はじめに

 22四半期連続で過去最高益を更新しているジャストシステム。安定した成長の背景には、コンシューマーはもちろん、法人向けにも多彩な商品・サービスを提供していることがある。しかも同社では受託開発を一切行っておらず、「提案型の自社商品開発」にこだわっている。

 「今回は当社こだわりの商品開発の仕組みである『訴求ファースト』と『こだわり駆動開発』を紹介したい」

 こう語るのは、医療向けデータウェアハウス「JUST DWH」のプロダクトマネージャーであり、GMS事業部 商品開発部長の宮崎哲哉氏だ。

株式会社ジャストシステム GSM事業部 商品開発部長 兼 プロダクトマネージャー 宮崎哲哉氏
株式会社ジャストシステム GSM事業部 商品開発部長 兼 プロダクトマネージャー 宮崎哲哉氏

 同社では訴求を、商品における「買う理由」および「使う理由」と定義づけている。つまり訴求ファーストとは「訴求を先に決める」こと。宮崎氏は「当社では売り方を決めてから作っている」と語る。訴求ファーストの開発事例として「スマイルゼミ」が紹介され、開発責任者である大島教雄氏が登壇した。

「訴求ファースト」で開発された「スマイルゼミ」「JUST DWH」

株式会社ジャストシステム スマイルゼミ開発責任者 大島教雄氏
株式会社ジャストシステム スマイルゼミ開発責任者 大島教雄氏

 スマイルゼミは小・中学生向けのタブレットで学ぶ通信教育だ。ジャストシステムでは99年より「ジャストスマイル」という学習・授業支援ソフトを提供しており、全国の小学校の85%に導入されている。「その知見を生かし、優れた通信教育が作れないか?」と、ある社員が思いついたことが企画の発端だった。

 検討が進んだ2011年、iPadが登場したことで、家庭ではPCからタブレットへの移行が進んだ。政府も2020年までに、小学校と中学校で1人につき1台、タブレットなどの情報端末を導入することを推進している。「こういった状況を踏まえ、タブレットで学ぶ家庭学習を作ることが決まった。しかし、決定したからといってすぐに作り出さないのが訴求ファーストなモノづくりだ」と、大島氏は説明する。そして「何がお客さまに刺さるのか。利用したいと思ってもらえるモノは何か。それを探るために利用者である子ども、購入者である保護者の双方にアンケートやインタビューを実施した」という。

 だが「どんなモノを使いたいか」と聞いても、答えはなかなか返ってこない。そこで活用するのが訴求シート(紙のチラシ)である。まずは仮説を基に作成した訴求シートを見せて、意見を聞く。役に立たないと言われた機能は外し、評判が良い機能は洗練させながら訴求シートを改良していく。さらに改良した訴求シートを見せながら再び意見を募る――このように地道なヒアリングを繰り返し、最終的な訴求ポイントをまとめていく。スマイルゼミは「夢中になる! だから続く。」をコンセプトにした。大島氏は「まずは訴求シートを作りこみ、開発を進めていくのがジャストシステム流訴求ファーストのやり方だ」と力説する。

 訴求シートがあるとゴールが明確になる。その結果、「詳細な仕様書が必要がなくなる」上に「後戻りがなくなる」。そしてもう一つのメリットは作るモノにメリハリができることだ。最初からゴールのイメージができているので、重要機能に注力でき、余計な機能に時間を割かれない。したがってどんどん開発・実装が進む。

 訴求ファーストなモノづくりはコンシューマー向けの商品のみで行われているわけではない。BtoB向けの商品でも活用されている。冒頭で紹介された新商品、医療向けデータウェアハウスのJUST DWHも訴求ファーストで開発された商品だ。ジャストシステムは約15年前に医療現場に最適な日本語入力システム「ATOK」と変換辞書「医学辞書 for ATOK」の提供を開始。この製品はこれまで全国の5000件以上の施設に導入されてきた。現在、医療現場は電子カルテに蓄積されてきたデータを2次活用するフェーズに進んでいる。そこで日本語処理技術を生かして、医療情報を2次活用するために生まれたのがJUST DWHだ。

 JUST DWHの開発では、訴求シートを手書きで作成し、顧客開発するところから始めた。「最初に訴求シートを持って病院や医療情報系の会社を訪れヒアリングする。そこで得た気づきなどを反映させて、簡易なカタログを作った。ジャストシステムではエンジニアもヒアリングに赴く。BtoBの商材でも仮説に対する解は現場にあるからだ」と、宮崎氏は説明する。こうして出来上がった簡易カタログを手に再度ヒアリングを行い、そこで得た気づきや知見を反映して営業カタログを作成する。今度は営業がそれを手に現場に赴き、ヒアリングする。そのフィードバックや知見を反映し、最終的に正式なカタログを作成していくのである。とはいえ、訴求シートそのものを成長させていくことが目的ではない。あくまでMVP(Minimum Viable Product)を定め、商品力をアップさせるためである。「訴求シートは部署をまたいで関係者全員が目を通すため、合意形成や方向付けのブレを防ぎ、ビジネス促進にも役立つ」と、宮崎氏は語る。

「訴求シート」のブラッシュアップで商品力とMVP精度を向上
「訴求シート」のブラッシュアップで商品力とMVP精度を向上

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