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【デブサミ2018 夏】セッションレポート

AI×IoT、その最先端は実に「泥臭い」作業の連続であった――人工知能を活用した店舗解析サービス、その開発現場の実態【デブサミ2018 夏】

【A-8】1日10TB以上の店舗映像を解析するサービスの仕組みとノウハウ

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 小売業、製造業、インフラ事業など、多様な分野でその適用範囲が拡大し続けているAI×IoTの活用。華々しい技術革新で急成長する業界の裏には、どのような課題が存在しているのか。創業6年目にして100社以上の企業に対し2000台を超えるデバイスの設置を行ってきたABEJAの大田黒紘之氏が語ったのは、AIとIoTの活用においてソフト開発からハード提供、そして機器設置や運用までを一貫して提供する同社だからこそ浮かび上がってきた、「泥臭い」現場の実情であった。机上の学習だけでは出会えない数々のトラブルと、それらに対する現実的なソリューション適用を、具体例とともにご確認いただきたい。

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株式会社ABEJA Development Division エンジニア 大田黒紘之氏
株式会社ABEJA Development Division エンジニア 大田黒紘之氏

小売業向けに最適化したIoTサービス「ABEJA Insight for Retail」

 店舗に訪れた顧客がどんな人物か。男性か女性か、年齢はいくつくらいか。そしてその人は新規顧客か、それともリピーターか、さらにはどういった目的で店舗に訪れ、何を購入していったのか。そういった情報を、多様なIoTデバイスとAIによって取得・分析。そして売上データと紐づけて、ユーザー自らがさまざまな角度から自由に分析することで経営の意思決定に活用する。ABEJAの提供する「ABEJA Insight for Retail」はそんなサービスだ。

 小売業に特化したアプリケーション構成となっており、導入企業はアパレル、コンビニ、ドラッグストアなど小売業全般に及ぶ。最近はPARCOなどの大型ショッピングセンターでテナント全体に適用するような大規模導入するケースも出てきているという。

 そのサービスの構造はこうだ。まず、同社が自社開発カメラに代表されるIoTデバイスを店舗へ設置。そこから取得されるデータは、小売業向けのオンラインサービス基盤である「ABEJA Insight for Retail」へ送信する。サーバー側で受け取ったデータは業界横断的な汎用AIプラットフォームである「ABEJA Platform」にて分析され、ダッシュボードで利用可能となる。デバイスの設置、データの取得、データの分析。この流れにおけるいずれのフェーズにおいても、現場における苦労と工夫が凝らされている。次からフェーズごとに見ていきたい。

各デバイスで収集した情報は国内にあるサービス基盤に送信され、ダッシュボードにて利用可能となる
各デバイスで収集した情報は国内にあるサービス基盤に送信され、ダッシュボードにて利用可能となる

IoTだからこそ直面した「デバイスの設置」における課題

 まず設置においては、一般のWebサービスにはないIoT独特の課題が数多く発生したという。それらは「デバイスの導入」と「デバイスの故障対応」に分けて語られた。

 デバイスの導入は、IoT活用における生命線ともいえる安定的なデータ供給の要であり、当然無計画にデバイスを配置すれば済む話ではない。現地の事前調査をした上で設置の計画を立案し、電源やネットワークの確保、そして工事も含めた作業によりデバイスを設置し、設定を行う、という地道な準備作業が必要となる。その設計は、まず設置対象の店舗の構造や、電源やネットワークなどの物理配置を確認した上での検討が必要となるが、その際、例えば防火扉があると配線が通せないなど、制約に関する専門知識が必要とされ、属人化してしまうことによるコストが課題とされた。

 デバイスの故障対応に関する課題としては、まず、予測できない故障は回避できないということ。社内テストで不具合が見られなくとも、現場設置後に故障が多発するようなケースは往々にしてあるという。その場合は全国に点在する現地に何日も滞在し、原因を追究しなければならないため、時間とコストを消費する要因となる。

 また、一般のアプリケーションより原因特定が難しいことも大きな課題であるという。デバイスの故障には一般にバスタブ曲線(故障率曲線)と呼ばれる傾向があり、導入当初であれば初期不良、後期であれば寿命であると分析できるため大きな苦労はないが、そのどちらの時期でもない中間期での故障は原因特定が容易ではない。

 ソフトウェアであれば、たいていの欠陥はスタックトレースを辿ることで関連個所が予測できるものだが、IoTデバイスは「電源」と「ネットワーク」の不具合が多く、これらは事故が起きたら突然反応がなくなってしまう。その原因は「物理的な光ファイバーの欠損」や「ファームウェアの不良」といったシステム構成要素の欠陥であればまだいい方で、ある時は、端末が使う電源を工事業者が勝手に数十メートル伸ばしてしまい、末端の端末へ届くボルト数が足りなくなっていたというような想定の枠を超えるケースもあり、多岐にわたる故障原因の究明には多くのコストがかかってきたという。

初期や後期に比べ中間期は故障率が低いものの、発生した場合の原因特定が難しい
初期や後期に比べ中間期は故障率が低いものの、発生した場合の原因特定が難しい
中間期のデバイス故障要因は多岐にわたる
中間期のデバイス故障要因は多岐にわたる

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この記事の著者

西野 大介(SOMPOホールディングス株式会社)(ニシノ ダイスケ)

 SOMPOホールディングス株式会社デジタル戦略部(SOMPO Digital Lab)勤務。損保ジャパン日本興亜グループにおける先進技術の研究開発を担当。過去には基幹システムの開発にも従事し、SoR/SoE双方の開発において幅広い経験を持つ。本業以外では、CodeZineの連載をはじめ、国内/海外の各種カンファレンスへの登壇や企業向けの講演にてテクノロジー情報を幅広く提供している。主な登壇実績:IBM THINK(米ラスベガス)、Java Day Tokyo、IBM THINK Ja...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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