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ぶち壊せ常識! リアルエンジニア道(AD)

技術のジェンガ現象の恐さを本気で考えてみよう

ぶち壊せ常識! リアルエンジニア道 第4回

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 皆さん、ジェンガというゲームをやったことありますか? 積み木の1つを引っこ抜いて一番上に乗せていく。順番にこれを繰り返し、崩れたら負け。技術におけるジェンガ現象とは……。

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 皆さん、ジェンガというゲームをやったことありますか? 積み木の1つを引っこ抜いて一番上に乗せていく。順番にこれを繰り返し、崩れたら負け。技術におけるジェンガ現象とは……。

相対常識

 今回から相対常識について触れていきたいと思います。相対常識。ある限られた条件下で通用している、本質から離れたものと以前説明しました。では、相対常識はどのようにして生まれるのでしょう?

相対常識の要因1:閉鎖

 1つが「閉鎖」です。ある組織や仲間、個人の場合もあります。そこだけで信じられているしきたりのようなものです。そこのリーダー的立場の人が言ったことがルールになります。メンバーはそれがさも世の中の常識であると信じてしまっている状態です。

相対常識の要因2:模倣

 もう1つが「模倣」です。あるトレンドを模して「じゃあこれにも採用してみようよ」と似せた設計をしたりします。例えばコピー機。紙サイズや倍率、濃さの切り替えは、見たままに切り替え操作をしたいものです。しかし時代によってDOSアプリに似せたり、Windowsのウィザードに似せたりということが起こります。使い慣れたものに似せるという考え方は分かりますが、それが必ずしもコピー機に適していると言えるでしょうか。

相対常識の要因3:変遷

 もう1つに「変遷」があります。新しい概念がある条件下で受け入れられ、広まり、定着する相対常識です。

 クライアントOSはWindowsが常識と思われていますが、Mac OSだってあるわけです。CPUはインテル製だけではなくモトローラー製もあります。Wordの前は一太郎が常識と思われてました。その横には松やJG等がありました。VHSとベータもそうですね。

 企業努力も当然ありますが、様々な条件の下、拡大し、相対常識化する現象です。これらの例は変遷初期のゴタゴタを過ぎてしまえば、デファクトスタンダードに落ち着きます。真剣に考えたいのは変遷がもたらす「ジェンガ現象」なんです。

技術変遷の「ジェンガ現象」

 変遷による相対常識は時に恐い現実を招きます。新しい概念が普及し、本来あった技術が消去されてしまう――あたかも、下の積み木を引っこ抜いて上に乗せていくジェンガのような技術の変遷のため、「ジェンガ現象」と呼んでみたいと思います。

 平常時に問題が出ることは稀ですが、本来の古い技術が引っこ抜かれたことで、何かあったときに途端に弱さを露呈します。ジェンガがガラガラと崩れるかのように。これが恐ろしいのです。今回はこのジェンガ現象について触れていきます。こうすべき! とか、こうしなさい! とか、結論めいたことにはあえて触れません。提起しっぱなしですが、ジェンガ現象の恐さについて触れることで、エンジニアという仕事の本質を考えるきっかけになれば幸いです。

アナログ電話からIPフォンに

 固定電話回線は信号線と電源線が共有のため、有事の際でも無電源の電話機で通話ができるように設計されています。それだけ堅牢にできているんです。最近はIPフォンが増えてきました。携帯電話の普及と相まって、固定電話の契約率は軒並み落ちているようです。これが変遷です。固定電話を持たなくなれば、これこそが従来技術の引っこ抜きです。固定電話回線という古い積み木を引っこ抜いて、IPフォン、携帯電話というハイテク技術の積み木を上に乗っけたのです。ジェンガが崩れるとき、それは「停電」です。停電になっても通話ができる固定電話と違い、IPフォンは電源が切れたらアウトです。携帯電話もバッテリー切れでアウトです。

 「インターネット技術はもともと軍事技術だからIPフォンは強いんだ」と主張しても始まりません。

トイレの水洗ボタン

 最近、トイレのハイテク化が著しいです。タッチボタンで水も流れます。これがハイテク技術を積み上げた状態です。そして引っこ抜かれたものは、水洗レバーです。このジェンガが崩れるのは、ここでもやはり「停電」です。水道は停止していないのに、弁の開閉が電気仕掛けになってしまったおかげで水が流れないのです。家庭であればバケツでなんとかなりそうです。問題はオフィス街や都心の公衆トイレです。地震災害が起きたらトイレ不足が深刻になると言われていますが、数だけの問題ではありません。もっとリアルな問題に直面するのです。

まだまだある、深刻なトイレ問題

 人間の基本生活にかかわるところは深刻です。トイレといってバカにしてはいけません。前項で水洗ボタンと水洗レバーについて述べましたが、水洗ボタンそのものの問題があります。「おしり洗浄」ボタンが正常に動作し、「止める」ボタンが接触不良などで故障したらどうなるでしょう? 筆者はある駅のトイレでこれに近い事態に陥ったことが実際にあります。恥ずかしい状態で「呼び出し」ボタンだけは押したくないものです。

 最近、幼稚園や保育園である問題が起きているそうです。家で自動洗浄式しか使ったことのない子供が入園してきて、その教育に四苦八苦しているというのです。従来技術を引っこ抜き、積み上げられたハイテク技術に頼ってしまうことで想像だにしなかったことが起こり始めています。

デジカメデータの保存 ~思い出難民~

 20XX年 某日 PM8:20 新橋の居酒屋にて

  • A:俺さあ、子供の頃の写真一枚もないんだよ。
  • B:親父さん、写真も撮ってくれなかったのか!?
  • A:たくさん撮ってくれてたよ、「デジカメ」で。HDDがクラッシュしたんだってさ……。

 こんな大人たちが増えていくことでしょう。筆者はこの人達を「思い出難民」と呼んでいます。

 ネガフィルムであれば落としても、踏んづけても画像は消えません。でもデジタルデータは一発アウト! の世界です。一度読めなくなればハイそれまでです。最近フィルム現像の価格が高くなってきているそうです。従来技術の引っこ抜きは既に始まっています。デジタル媒体は平常時は便利ですが、簡単な衝撃でジェンガが崩れます。

 今のところMOが堅牢と言われていますが、衰退気味であることに加え、メディア価格も高めです。世界中の核シェルター内に設置されたサーバーに分散管理するのがいいのでしょうか。家族の思い出写真、友達との楽しい写真……それを核シェルターに保管?? ネガフィルムを押入れにしまっておけば良かった時代が急に恋しくなります。

タイムカードで遅刻

 朝、出社してまずタイムカードを押しますね。タイムカードを少し挿せば、ウィ~ンと自動でカードをソーティングし、チリチリとドットインパクト印字し、またウィ~ンと吐き出されます。多くがこの自動ソーター機能付きで、手でタイムカードを差し込んでガチャン!と印字するタイプは少なくなりました。問題はウィ~ンとソーティングしている時間です。

 ある大手企業で筆者が毎朝見ていた光景です。

 AM8:55、ギリギリ出社の社員がタイムカードを押すため行列を作ります。なぜ行列ができるのか? ウィ~ンというソーティング時間が、続々やってくる社員に追いつかないためでした。後ろに並んだ社員は当然のように遅刻になります。

 押し寄せる人の波にソーティング時間が追いつかなくなるとき、ジェンガ崩壊です。ガチャンからウィ~ンで遅刻……なぜこんなことになったのかご存知の方は教えてください。

ここはどこだ!

 最近、駅ホームの柱の駅名看板(柱用駅名標と呼ぶらしいですね)が少なくなったと思いませんか? 「あれ? ここどこの駅!?」と思って車内からホームの柱を見ても書いてない! 車内の液晶ディスプレイを見てホッとしたりします。しかし……車内の液晶ディスプレイの表示が分からないことがよくあります。駅に着いているのに駅名が表示されない、路線図表示のため小さくて見えない。極め付けは「大崎」。首都圏の方は山手線でご覧になったことがあるでしょう。全然違う駅なのに液晶ディスプレイに大きく「大崎」と表示されているのを。よく見ると小さく右下に「行き」と書いてあるのですが。これ、酔ってるときはホントびっくりします。

 「やっちゃった! 大崎まで来ちゃった!」

 でもよく見ると小さく「行き」って……東スポですか!? ハイテク携帯機器の発達で電車内で手元や耳に集中することが多くなり、ただでさえ現在地が分からなくなりがちな現代。従来の駅名看板という技術が引っこ抜かれ、ハイテクな車内液晶ディスプレイに置き換わることで今いる駅すら分からなくなるなんて。

ジェンガ現象が招くもの

 ジェンガ現象を示唆する例として、30年近く前の星新一氏の作品で痛烈なものがありました。

 着替えも料理もすべて機械がやってくれる近未来の人間社会。  ある寒い夜、停電に。  寒さに死んでゆく人間を横目に、ペットの猿はすりこぎ棒をこすり始める。

 なんかこの作品に近づいてきていないですか? お尻が拭けない園児、携帯がなければ待ち合せができない若者。 だんだん笑えない現象が起きはじめています。

 ハイテク技術は本当に素晴らしいです。しかしローテク技術が、そもそもどんな理由があってそうなっているのかを常に考えませんか。原点を忘れないことでジェンガ現象の起きない進歩って可能だと思うのです。

 例えば、IPフォンなら「自己発電型IPフォン端末」、水洗トイレなら、「レバー一体型電磁弁」、デジカメなら、「画像データ→ネガフィルム 転写サービス」なんてどうでしょう? もちろんコストや諸々の問題はありますが、そこを解決してきたのが日本の技術者です。200万円を切るハイブリッドカーだって作れるんです。古い技術を簡単に切り捨てるのではなく、うまく新しい技術を乗せて発展させることができると思うのです。

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【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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https://codezine.jp/article/detail/3506 2009/04/02 17:29

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