評価の声が技術者に届かない
村田製作所は1944年に創業、グループ企業74社、従業員34,000人を有する電子部品の製造および販売を行う電子部品の大手企業です。
講師の吉川浩一氏は1985年に入社し、MLCC(積層セラミックコンデンサ)製造ライン設備のFA化を経験。10年くらい前に野洲事業に転勤、社内で作る生産設備自動機の開発に携わった後、2005年のムラタセイサク君開発プロジェクトに参画しました。昨年、本社に転勤し広報部に勤務しています。現在は、ムラタセイサク君を活用した企業PRや子ども向けの理科出前授業などを行っています。
村田製作所の主力製品である積層セラミックコンデンサは、シャープペンシルの芯を折ったものよりも遙かに小さいサイズです。家電製品や携帯製品を小型軽量化するためには、部品を高密度で実装する必要があります。こうした電子部品が携帯電話には230個、薄型デジタルテレビには1,000個も入っています。
この積層セラミックコンデンサは、厚さがわずか1ミクロンのセラミックシートが何層にも積み重ねられています。シートを200枚積んでようやく0.2mmなるという薄さです。このように極めて小さい電子部品を製造するためには、セラミックシートの厚みを均一にすることや、そのシートを僅かな狂いもなく重ねるための位置決め制御など、20工程に及ぶ高度な加工技術が必要となるそうです。
村田製作所の製品は高度な技術で製造され、小型軽量が進む電化製品を支え、その世界シェアの35%を占めています。しかし、その技術や製品が、そのままの形でユーザーの元へ届くわけではありません。そのため技術に対する評価の声が、技術者の元に届きにくく、業務に携わる者達のモチベーションを保つことが難しい状況にあったといいます。
夢のある仕事がしたい
そうした中で、モチベーションを鼓舞するために技術者の間に「夢のある仕事がしたい」という思いが募ったそうです。村田製作所には、フロンティアテーマと呼ぶ技術者がチャレンジ精神を発揮し、自由な発想による研究成果に対して、研究開発費を充当する社内制度があります。そこで、この制度を使って機械技術・電気技術・ソフトウエアの複合であるロボット開発をやりたいと考えました。日本ロボット工業会が2001年に発表した「将来のロボットの市場規模(予測)」を元に、「ロボット産業分野へ新たな部品提案を行う」という形で会社にテーマを申請しました。それが2004年、ちょうど村田製作所が創業60周年を迎えた時期に重なります。
当時、営業部では、国内最大級の最先端IT・エレクトロニクス総合展であるCEATECで、創業60周年にちなみ何か派手なアピールをしたいと考えていましたが、時間が足りずに実現しませんでした。「2005年には、内製技術のPRをしたい」という営業部の思いと技術者の夢がうまくコラボレートして、「PRロボット開発プロジェクト」がスタートしました。