AWSの有名エバンジェリストから一転、IoTベンチャー社長へ
玉川氏は、元AWSのエバンジェリストとして、日本のクラウドを「AWSの顔」として支えていた(好きなサービスはS3)。今年の3月にAWSを退職し、IoTプラットフォームを作るという情報のみ表に出して、開発を続けてきた。技術者主体の会社を作ろうということで、チームメンバーはほとんどがエンジニアだ。
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そして9月30日、ITproのイベントに出展し、プラットフォームの全貌を明かした。それが、モバイル通信サービス「SORACOM Air」とデータ送信サービスの「SORACOM Beam」である。
IoTに欠かせないデータとモノ、この両者において今は非常に面白い時代になっていると玉川氏は語る。
AWSが2006年にS3のサービスを開始してから現在、価格は1/10になった。1Gのデータを月3円で保存できる。昔は捨てようと思っていたデータも、とりあえず溜めておこうという考え方ができる時代になってきた。
一方、モノについても、スマホやタブレットの普及、Apple Watch、ドローンなどおもしろいデバイスの登場で盛り上がりを見せている(玉川氏はドローンが好きすぎて、チームメンバーからドローンを飛ばすことを禁止されているそうだ)。Raspberry Pi、Intel Edisonなどを用いながら、低価格で、昔と比べるとはるかに簡単にハードウェアのプロトタイピングができる時代になってきた。
ドコモとAWS、2大巨人の肩に乗り、新しいモバイル通信を作った
玉川氏は、かつてIBM基礎研究所で取り組んでいた、ウェアラブル端末の開発について語る。OSはLINUX、加速度センサー、指紋センサー、Bluetoothなどを搭載し、昨今のデバイスにも勝るとも劣らない機能だ。しかし当時から課題だったことが、今も全然解決されていないと玉川氏は言う。「バッテリー、インターネット接続、セキュリティ、モノに対応したクラウドがまだないこと、端末管理をどうするか、が大きな課題だ。こうした課題があるかぎり、IoTは本格化しない。今回ソラコムでやってみたかったのは、プラットフォームによって問題を解決すること」(玉川氏)。
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特にインターネット接続が一番の課題なのだそうだ。IoTのIを説明する際に、あたかも有線のLANがどこでも敷かれているように描かれるが、実際にそんなことはあり得ない。一方、無線LANは便利なように見えて、まだハンドオーバー(ローミング)が容易でないうえ、シニア世代にとっては設定が一苦労だ。
こういった課題を総合して考えると、3G/LTEのモバイル通信が一番便利なのだと玉川氏は言う。そこでソラコムがやろうとしたのは、モバイル通信を使ったIoT向けのプラットフォームだ。しかし、ソラコムはエンジニア8人のベンチャー企業。どうやってモバイル通信を提供するのか。
ここで玉川氏は一枚のスライド(下図)を見せ、通信キャリアの業界構造について解説した。

モバイル通信を提供するには、まず基地局を日本全国に張り巡らせる必要があり、初期投資に一兆円ほどかかる。次に、基地局から入ってくるデータに対して、パケット交換、帯域制御、顧客管理、課金するシステムやデータセンターが必要だ。これも数千億円が必要。さらに、インターネットに繋ぐためのインターネットサービスプロバイダーもいる。これら全てがあって初めてモバイル通信を提供できるが、ベンチャーには正直厳しい。
一番簡単な方法は、キャリアからSIMを仕入れて売ること。MVNO(格安SIM)がそれに当たる。ブランドや販売網がある事業者にとってはこの方法がうまくいくが、ソラコムはテクノロジーの会社であり、違う方法をとった。
他にも、大手携帯キャリアから基地局だけ借り、自分で専用線を引いて、自分でデータセンターを持つ方法もある。MVNOの中でも「L2卸契約」というそうだ。しかしそれでも初期投資が10億円ほどかかる。ソラコムの挑戦は、日本通信やOCNといった大手企業がやっているこのL2卸契約を、自社でやってみることだった。
「ソラコムにはパッションとテクノロジーがあるので、L2卸契約をして、AWSに引くことで自分たちで専用線を作った。NTTドコモの基地局とAWSのクラウド、両巨人の肩に乗る形でバーチャルキャリアを作ったのがソラコム」(玉川氏)。クラウドネイティブ設計なので、モノが大量に接続してもスケーラブル、可用性が高い。AWSなら何でもできるだろうという信念があった。