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「魂の浮力」に釣り合う場所を知り、自分らしくあれ――まつもとゆきひろ氏が考えるエンジニアの幸福【COMPANY Forum 2016】

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2016/11/28 14:00

 プログラミング言語「Ruby」の開発者である、まつもとゆきひろ氏。25年というキャリアの中で、アーキテクトやプロダクトマネージャー、エグゼクティブディレクターといった肩書きとは無縁のエンジニア人生を過ごしてきた。しかし、一人の天才プログラマ「Matz」として世界的に知られ、常に注目を集めている。ワークスアプリケーションズ主催「COMPANY Forum 2016」にて開催されたエンジニア向けトークセッション 第2部では、そんなまつもと氏が「一人のエンジニアとして」世界に通用するための経験について語った。

目次
まつもとゆきひろ氏
まつもとゆきひろ氏:1965年、大阪府生まれ。1990年に筑波大学第三学群情報学類卒業後、静岡県のソフトウェア開発会社入社。1993年に「Ruby」開発を始め、1995年にフリーソフトウェアとして公開。1997年に島根県松江市に移住し、株式会社ネットワーク応用通信研究所に入社。2007年よりRubyアソシエーション設立、理事長に就任。楽天の楽天技術研究所のフェローとしても活動中。

世界で最も有名なプログラマ、Matzが問う「幸せ」とは?

 まつもとゆきひろ氏といえば、世界中に多くのユーザーを抱えるプログラミング言語「Ruby」の生みの親として、その名を知らない人はIT界では皆無だろう。しかし世界では、フルネームよりも「Matz」の愛称の方が有名なようだ。

 「フルネームを海外で紹介しても、絶対覚えてもらえないんですよね。日本でも“ひろゆき”なんて間違われるくらいなので、もうMatzでいいだろう、Matzと呼んでくださいと(笑)」

 25年というエンジニア人生で、部下がいたことは現在も含めてほぼゼロ。いわゆる、組織における出世街道から外れた人生だ。しかし、Rubyの開発によってその名は世界的に知られ、おそらく日本で最も著名なプログラマの一人とも言えるだろう。日経新聞主催のさまざまなアワードを総なめにし、2012年には内閣府によって「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」に選ばれ、NTTやトヨタの重役と並んでIT総合戦略本部委員に名を連ね、さらにラフカディオ・ハーンや人間国宝と並んで松江市名誉市民にも選ばれている。

 ずらりと並んだ肩書に「ほとんど自慢です」と笑いつつ、まつもと氏は「エンジニアはエンジニアとして幸せになりたい」と語る。果たして「エンジニアとしての幸せ」とは何なのか。

 まずはお金。まつもと氏は「お金があれば幸せになれると仮定するとどうだろう」と投げかける。とはいえ、宝くじのような運に任せて幸せになる戦略は、確率的にものすごく低く、決して賢明とは言えない。もし「成功すること」がお金を得る一つの手だとすれば、成功する確率を上げる戦略を考えるべきだろう。そのためには、まずは成功が何たるかを定義し、ゲームのルールを理解し、成功に到達するまで繰り返すことが必要となる。また、他のプレイヤーがしないことをする、つまりは「差別化」も大切だろう。

 逆に「成功」とはなんだろう。「お金を得ること?」「お金があれば幸せ?」と繰り返し問いながら、まつもと氏は「どうなれば、あなたは幸せなのか」と問いかける。つまり、どんなにお金を持っていても、名誉な肩書きを持っていても、満たされない人は常にいる。自分が何をしたら幸せを感じるのか、「自分の幸せ」に自覚的になることが重要というわけだ。そして、まつもと氏は、自身の幸せについて次のように語る。

 「とにかくプログラムが好き、プログラミング言語が大好きでしたね。15歳からプログラミングを始めて、最初はBASICで書いていました。でも、とにかく機器が貧弱でストレスがたまり、他にもっと軽い言語があることを知って言語自体に関心を持ったわけです。知るともっと知りたくなっていきました」

自分が最も興味を引かれる場所で成功するまで繰り返すこと

 まつもと氏も当初はPascal、LISP、Smalltalk、C言語などを勉強していたというが、ふと「これらのプログラミング言語は、誰かが作ったもの。それなら、自分でも作ってみようかな」と思うようになったという。言語を習得すると「ゲームを作りたい」というようにとプロダクトに興味を持つ人が多い中、まつもと氏はプログラミング言語自体、そしてそれを自分の手で作ることに関心を寄せていった。

 「当時はインターネットもなく、言語を作るためのコンパイラを手に入れようと思ったらPC98用で20万円近くしました。とても高校生のお小遣いでは買えないので、夢のまた夢。さらに、周りにプログラミングについて語れる友達がおらず、『プログラミング言語を作りたい』なんて考えるのはマイノリティであるというのは、大学に入ってコンピュータ・サイエンスを専攻するまで気づいていなかったんです」

 その結果、“ライバルのいない分野”を突き進み、「第一人者」と言われるようになったという。希少価値のあるものには価値がある、ニッチな部分でも突き進んで第一人者になれば、幸せになれる。

 まつもと氏は「ガリレオ温度計」になぞらえて、エンジニアのコンディションを表現する。ガリレオ温度計とは、透明な液体と色とりどりの球体を含む、ガラス製の円筒で作られた温度計だ。

ガリレオ温度計
ガリレオ温度計

 エンジニアは、好きなこともモチベーションもそれぞれ。アプリを使うユーザーの笑顔を見るのがうれしいという人もいれば、フレームワークを作ってエンジニアが喜ぶ姿を見るのがうれしいという人もいる。プログラミング言語、ツール、OS、ハードウェアなど技術自体に関心を寄せている人がいる。つまり、ガリレオ温度計において、浮かんでいる球体の位置それぞれが違うように、個性や関心、バックグラウンドによって、自分の興味関心やモチベーションは変わる。その最も高く浮かべる場で力を発揮することが、一番成果も出て、一番幸せになれるのではないかというわけだ。

 「自分が何に関して関心を持つか、何に対して能力が高いのか。己を知り、“魂の浮力”が最も高い場所を知る。自分を幸せにする最大のスキルであり、戦略です。そのために、他の人の戦略は使えません。モチベーションの源泉を見つけ、そのモチベーションの高さが生産性につながり、他人に負けない成果を出せば、最大の差別化が実現します。まずは自分を知り、自分が目指すべきゴールを設定することが大切です」

 さらにまつもと氏は、成功するまで繰り返すことの重要性を説く。あるチャレンジの成功確率が10%だとすれば、「1 - (0.9)10 = 0.651…」で10回繰り返すと65%成功する。40回やれば99%となり、ほぼ成功するというわけだ。さらに、PCもインターネットもそろい、低コストで繰り返せる環境が整っている。かつては家を担保にするくらい起業コストは高かったが、今は失敗しても少々貯金が減るだけ。しかも、繰り返すことにより成功確率が上がるなら、挑戦しない手はないだろう。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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連載:COMPANY Forum 2016「世界で通用するエンジニアに必要な経験とは」セッションレポート

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