現役のVPoEが語る「VPoEの使命とやりがい」とは?――エンジニア組織を抱える会社にこの役職が必要となる理由

エンジニアとVPoEに共通する、ロジカルなアプローチでの課題解決の仕組みづくり
エキスパート向け 2020/02/12 12:00

 近年、Webサービス企業において設置され始めている役職に「VPoE」(Vice President of Engineering)があります。一般に「エンジニア組織の成長に責任を持つ役職」とされていますが、具体的にどんな仕事をしているのか、CTOとどう違うのかといったことについては、いま一つピンとこないという方も多いのではないでしょうか。今回、ヤフーショッピング統括本部でVPoEを務めている石塚真二氏に、その仕事の内容や、やりがいなどを語っていただきました。

編集部注

 今回は特別企画として、在籍するエンジニア数が約2800名と、日本有数の規模のエンジニア組織を抱えるヤフーさんに、昨今話題の「VPoE」について単独インタビューを行いました。VPoEだけでも10数名がいるというヤフーさんでは、エンジニア組織の在り方についてどのように考え、取り組まれているのか。ショッピングの事業領域でVPoEを担当する石塚真二さんに、赤裸々に語っていただきました。聞き手はCodeZine編集部の斉木が務めます。

VPoE設置の意義は「これまで他の役割のもと行っていた仕事」の明確化

編集部:本日は、よろしくお願いします。そもそもの話なのですが、石塚さんはいつからヤフーに参加されているのですか。

石塚:入社は2003年なので、もう17年目になります。現在の「ヤフオク!」が、まだ「Yahoo!オークション」と呼ばれていた頃で、事業者が出品できる「ストア」の立ち上げや運用に携わりました。6年ほど前から「Yahoo!ショッピング」に移り、「eコマース革命」プロジェクトの立ち上げなどを行いました。以降は、コマース系一筋で、直近では「PayPayモール」のプロジェクトオーナーも担当しています。

 今では考えられませんが、入社した当時はエンジニアも多くなかったので、ラッキングなどもデータセンターに出向いて自分たちでやっていましたね。サーバに1台ずつメモリを挿していく作業は「田植え」などと呼ばれていました。

編集部:エンジニアとして、かなり多くのサービスに以前から携わってこられたのですね。では、まず「VPoEの仕事とは何か?」というところからお伺いしたいと思うのですが。

石塚:私の印象ですが、過去ヤフーにおいては、一般的に「VPoEの仕事」とされていることは、他の役割のもと行っていました。

 しかし、エンジニアが増えて技術組織の規模が大きくなると、事業にどうやってテクノロジーを使っていくか、どうやって生産性を高めるか、そのスキルを持った人材をどう確保し、育てていくかといったことに責任を持って携わる人を置く必要が出てきます。そうしなければ、全体がうまく回せなくなってしまうからです。

 そこで、あえて役職をつけることで、役割を分けて明確化したという認識です。もっとも私自身、VPoEという仕事を、それほど長年にわたってやっているわけではありませんので、その果たすべき役割についても模索している段階です。

編集部:ヤフーにVPoEが置かれたのはいつですか。

石塚:役職として設置されたのは2018年の4月で、私を含む十数名がVPoEに就任しました。ヤフーでは、事業領域ごとのカンパニー制をとっているのですが、各カンパニーで、いわゆる「本部長」にあたる職責を持つ人が、VPoEの役割を担うようになってきています。また、VPoEとは別に、技術についての責任者については「テクニカルディレクター」として明確に分けられています。

 VPoEの職責としては、カンパニー下の統括本部に所属する、エンジニアやデザイナーといったクリエイターたちに対する組織マネジメント全般です。クリエイターの採用、育成、配置、評価などに関係する、人事制度の設計と運用を行います。

編集部:石塚さんがVPoEとして見ておられる組織の規模はどのくらいなのでしょう。

石塚:人数としては、私の見ている「ショッピング」においては、社員数で200~300人ほどですね。ちなみに、ヤフー全体では2800人ほどのエンジニアがおり、各統括本部のVPoEが、それぞれの組織づくりに責任を持つ形になります。

編集部:ヤフーだけでなく、エンジニア組織を抱える他の企業でも、VPoEやそれに類する職責を持つ役職が設置され始めたのが、この2年前後だったように思います。VPoEという役職の必要性が時を同じくして顕在化しているというのは面白いですね。最初にお話しがあったように、VPoEが責任を持つべき仕事というのは、それまでも他の役職の中でやってきたことが多いというのは事実だと思います。あえて、新たな名称を付けて、役割を明確にしたことで生まれるメリットは何だと思われますか。

石塚:まずは、VPoE本人が、自分が責任を持つべき役割として、エンジニアの育成をはじめとした組織マネジメントに明確にコミットできるということ。加えて、社内外に対して、ヤフーでは事業を展開するにあたり、エンジニアの育成と運用を組織として進めていることがアピールできるということ。その両方の意味があると思っています。

 ヤフーに限らず、Webサービス系の企業は、どこもそうだと思うのですが、事業の強化や拡大にあたっては、先を見越したエンジニアの人員計画が極めて重要です。ヤフーの場合ですが、私も関わった「eコマース革命」プロジェクトの発足当時には、圧倒的にエンジニアの数が不足していました。では「人を採ろう」となるのですが、当時のヤフーはヤフー独自の社内技術に依存していた部分も多く、それだとすぐに活躍してもらえる人材の採用は難しい。であれば、まずは社内の技術基盤をOSSベースに切り替えて、そこから採用計画を立てていくといった段取りが必要になるわけです。いわば「採用できる条件を整えるためのインフラ作り」ですよね。そこから始めて、最初の2~3年はひたすら面接をし、結果的に数百人のエンジニア職をはじめ企画職の方にも入社してもらいました。

 当時は、特に意識してやっていたわけではありませんが、現在私がVPoEとしてやっている仕事の半分くらいは、その延長線上にありますね。人員計画とそのための環境作りをどうするかということに特化して取り組んでいます。

石塚真二(いしづか・しんじ)氏

 ヤフー株式会社 ショッピング統括本部 VPoE。2003年に「Yahoo!オークション」(現、ヤフオク!)のエンジニアとして入社し、B2C取引サービスの立ち上げに参画。その後、コマース系のインフラ運用を経験したのち「Yahoo!ショッピング」に異動。2013年以降の「eコマース革命」プロジェクトに立ち上げから関わる。その後フロントエンドエンジニアや、アプリの技術責任者を務めた後、現職。直近では「PayPayモール」のプロジェクトオーナーを務める。

VPoE同士の連携でうまくいった「仕組み」を横展開

編集部:先ほど、ヤフーには全体で十数名のVPoEがおられるという話だったのですが、そうなると連携やコミュニケーションも大変なのではないですか。

石塚:同じカンパニー内の数名のVPoEについては、週に数回、30分ほど集まる場を設けていますね。そこでは、採用や異動についての意見交換や検討をしています。背景としては「エンジニアが他のチームに異動しても、すぐ活躍できる場を用意する」ことが必要だというのがあります。そのためには、できる限りアーキテクチャも統一しておいたほうがいいとか、そうしたことを話していますね。あと、組織としての「仕組み作り」の話などもそこでやっています。どこかで始めた仕組みがうまく回っているようであれば、それを他のチームに横展開することなども考えられるので。

編集部:具体的に横展開された仕組みはあるのですか。

石塚:以前、エンジニアが足りなかった時期に「ショッピング」でベトナムのオフショアを活用することをやっていたのですが、その後「ヤフオク!」も、同じスキームでオフショア先を活用するようになったということはありましたね。

 ここ数年の話であれば、組織の活性化を目的として作った仕組みを複数のチームで展開しています。例えば、チーム内で活躍した人のアピールの場としての週報を出したり、リリースしたサービスの事業への影響を可視化するような仕組みを作ったりといった感じです。こうした仕組みは以前にはあまりなかったのですが、エンジニアに、自分やチームが事業に貢献していることを分かりやすく見せることで、自分たちがやっている仕事に対するマインドを変化させていってほしいという意図です。

編集部:組織や事業の状況を、エンジニア向けに可視化するというのもVPoEの仕事の一部になっているのですね。そうした取り組みは、何らかの具体的な成果に結びついているのでしょうか。

石塚:組織や事業の状況を可視化することは、会社の風通しを良くすることにつながります。風通しが良くなると、エンジニアではあるけれど、組織の枠を越えて活動したり、チームを盛り上げたりする人が出てきやすくなります。そういう人たちが、次のステップで要職について、新しい人たちを育てていくといった役割を担うようになる。その良いスパイラルが生まれやすくなるような気がしますね。

組織間の「壁」を壊すことはリスクマネジメントの一部

編集部:石塚さんが、これまでVPoEとしての仕事をするなかで、苦労されたことはありますか。

石塚:ありがちですけれど、どうしても担当している領域ごとに組織化が進んでしまい、そこに壁ができるというのはありますね。組織間、部門間のコミュニケーションも不足しがちになるので、何とかしたいとは思うのですが、こればかりは非常に難しくて、今も解決策を探している途中です。

編集部:それは、規模の大小にかかわらず難しい問題ですね。組織化すると、人はどうしても「固まり」としてまとまりがちになります。

石塚:われわれの規模になると、特に問題は深刻になります。部長クラスだけで十人以上、リーダーになると、さらにその数倍がいるという状況では、密なコミュニケーションを通じて全体の状況を把握するというのは、もはや現実的ではありません。とはいえ、コミュニケーション不足は、障害による機会損失などの大きな事業リスクにつながる可能性もあるので、どうにか解消したい。われわれの場合は、Slackや社内のツールなどを通じて、何かあった時には、いつでもすぐにコミュニケーションがとれるようにしているのですが、より良い方法がないかについては、常に考え続けています。

エンジニア組織の健全な「文化」はどう醸成する?

編集部:一般に、VPoEの役割は「事業成長に貢献するエンジニア組織の育成と運用に責任を持つこと」と言われます。しかし、エンジニアの立場からすれば、組織が事業を伸ばすことばかりに注力し始めると、技術面での先進性を取り入れることが後回しになって、面白みに欠けてくる部分もあると思います。そのあたりのバランスをどうとるかについて、考えておられることはありますか。

石塚:直接の答えではないかもしれませんが、エンジニアが自発的に技術的な目標を設定し、それが結果的に事業に貢献しているという状況を醸成していくというのは有効だと思っています。

 最近の例ですが、グループの新しいECサイトとして昨年スタートした「PayPayモール」のリリース時には「コンテンツの表示速度を日本一にする」という内部での目標設定があったのです。これは、エンジニアが自分たちの視点で設定した目標で、技術的にも彼らの力がなければ実現できないものでした。エンジニアチームが主体的に盛り上げ、取り組んで、リリース時から目標に基づくパフォーマンスが出せているというのは、サービスにとっても良いことだったと思います。

 また、ショッピングでは、毎年11月11日を「いい買物の日」としてセールを行っているのですが、この期間には毎年凄まじいトラフィックが発生します。特に終了直前の数分、数秒に集中する怒濤のようなトラフィックに耐え抜くために、どのようにサイトを設計して、実装していくかというのは、毎年、エンジニアの知恵と腕の見せどころになっています。

編集部:たしかに、Webサービスの領域では、直接的か間接的かに関わらず、技術とそれを実装できるスキルがあってこそ事業が成り立つ側面が多分にありますからね。

石塚:幸い、今のヤフーには、エンジニアが先端の技術動向に好奇心のアンテナを張りながら、事業にも貢献することを意識する文化ができていると思っています。

編集部:ただ、そうした文化は、放っておいて勝手にできてきたり、維持できたりというものでもないですよね。

石塚:そうですね。そうした文化の醸成と維持にあたって、ヤフーでは社内のエンジニアが社外の技術カンファレンスに参加、登壇することも積極的に認めています。こうした活動は、ヤフーの事業そのものに、直接関係しないかもしれませんが、最新の技術にチャレンジし、必要に応じて取り入れることで、パフォーマンスが良くなったり、コードのメンテナンス性が高まったりといった形で、間接的にサービスの改善につながる可能性があるわけです。そういうことに「取り組んでもいいんだ」というマインドを持ってもらう意味でも、対外的な活動は支援していきたいですね。

 もちろん、技術側のエゴで生産性が低くなるような事態は避けるべきですが、新しい技術に楽しみながら挑戦したいという意欲は妨げずに、応援していくカルチャーは守っていきたいと思います。エンジニアとしても、事業を伸ばすプレッシャーだけに追われながら仕事をするよりも、好奇心を満たしながら楽しんでやれる環境があったほうが、力を発揮しやすくなると思います。端的に言えば「楽しくやろう」ということに尽きるのですけれども。

VPoEの「やりがい」は「監督の喜び」

編集部:石塚さんが、VPoEの仕事に携わっていて「やりがい」を感じるのはどのようなところですか。

石塚:VPoEのやりがいは、いわゆる「スポーツの監督」の喜びに通じるところがあるような気がしています。プロサッカーの中継を見ていると、実際にはプレイしていない監督が、選手が1点入れると、ものすごく喜ぶじゃないですか。たぶん、その感覚に近いですね。自分では直接プレイはしないけれど、選手が能力を発揮するための環境と態勢を整えて、そこで選手が成果を出してくれると、掛け値なくうれしい。この感覚が分かる人は、VPoEに向いているのではないかと思います。

編集部:「監督」のたとえは非常に分かりやすいですね。石塚さんが、自分で「監督」としての立ち位置が向いていると意識したきっかけはあるのですか。

石塚:うーん、いつだったのかな。現場は長くやってきたのですが、組織として生産性をいかに上げるかを考えるようになったタイミングで「1人でできることには限界がある」ことに気付いた気がしていて、その時ですかね。組織が大きくなるほど、求められる成果の量も大きくなる。大きなアウトプットを出すためには、1人ではなく組織でやっていかなければならない。その「大きなアウトプット」を出す仕事に魅力を感じたということは、その立ち位置が向いていたということなのではないでしょうか。

 今振り返ってみると、自分たちが整えてきた環境と組織の中で、新卒として採ったエンジニアたちが活躍してくれているという状況は嬉しいですね。eコマース革命プロジェクトの時には、50名ほどの新卒を採用したのですが、今、その世代がリーダーとなって組織を動かしてくれています。新しい世代が成長し、活躍している今の状況には、とても感慨深いものがあります。今現在、そう感じているという点でも、自分には監督が向いているのだろうなと思います。

VPoEはエンジニアにとって有力なキャリアパスの一つに

編集部:VPoEと現場のエンジニアとの関係をスポーツの「監督」と「選手」にたとえるとすると、石塚さんの感覚として、現場の「選手」だったころの経験が生かされていると感じていることはありますか。

石塚:これは、エンジニアに限らずどんな職種であっても共通だと思うのですが、仕事の中で求められるのは「課題を掘り下げて、解決する仕組みを考え、形にする」という根本的なスタンスです。中でも、課題に対して、よりロジカルにアプローチすることが得意なのがエンジニアだということは言えると思います。それは、技術に対する場合でも、マネジメントに対する場合でも変わらないのではないでしょうか。そうした感覚でマネジメントを捉えられる人であれば、VPoEのような役回りは、現場での経験をフルに生かしながら、組織と事業に貢献できる、有力なキャリアパスの一つだと思います。

 もちろん、エンジニアには、純粋に技術を指向する人もいて、そういう人に無理にマネジメントをやらせようとすると不幸な結果になりがちなので、そこは注意しなければいけませんが。

編集部:エンジニアの中には、比較的マネジメントに対して苦手意識の強い人が多いようにも思うのですが、対象がシステムか、人間系かという違いこそあれ、「ロジカルなアプローチで課題を解決するための仕組みづくりをする」という意味では、共通しているということですね。

石塚:そう言えると思います。さらに、技術的なバックグラウンドがある「監督」は、「選手」であるエンジニアとのコミュニケーションコストを下げられ、彼らを正しく評価できるという、アドバンテージもあると思います。

 最終的にものづくりするのはエンジニアですから、マネジメントの視点に立ちつつ彼らと共通の技術知識で話ができるというのは、プロトコルとして最強ですよね。また、彼らの仕事について、その技術的な背景を十分に理解しているからこそ、正しい評価ができるわけです。

 そして、VPoEを務めた人が、その後エンジニアに戻ったとしても、そこで積んだマネジメントの経験は決して無駄にならないと思います。キャリアの選択肢は多いほど良いわけですから、今後VPoEのような立場が、エンジニアのキャリアパスの選択肢としてより広く認知されるようになるとよいですね。


著:高橋美津
写真:小倉亜沙子

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