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イベントレポート

国内スタートアップが考える事業開発とエンジニアリングの戦略――AWS Startup Day基調講演【後編】

AWS Startup Day Tokyo 2019 レポート

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 3月27日、AWS Startup Dayが行われた。世界18都市で行われているこのイベントは、昨年初めて東京で開催され、今回が2回目となる。会場は普段社員でもなかなか入ることのできないAmazon Fashion Studio。昨年から規模を拡大して展開された本イベントの、基調講演の様子を前後編にわたってお届けする。後半では、国内のスタートアップ企業が登場。VAAKの代表 田中遼氏と、SansanのCTO 藤倉成太氏が登壇し、それぞれの起業のスタンス、エンジニアリングマインドを語った。

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グローバルを見すえた技術シーズで戦う――「行動解析」で犯罪を防ぐVAAKの事業開発

 後半に登場した田中遼氏は、株式会社VAAKの代表取締役社長。同社は、防犯カメラに映った不審行動や危険行動をAIで解析し、万引きを防止するサービス「VAAKEYE」などを展開するテック企業だ。大学在学時よりさまざまな分野の企業を立ち上げ、これが3社目となる田中氏は、なぜVAAKを起業し、この事業をどのように開発してきたのか語った。

株式会社VAAK 代表取締役社長 田中遼氏
株式会社VAAK 代表取締役社長 田中遼氏

 「VAAKは、人工知能で社会課題を解決する、というミッションを持っています。特に映像から人の行動を検知・予測するシステムを独自に開発し、事業を展開しております。現在社員は約20名、そのうちCTO経験者6名、といった技術者中心の会社になっています」(田中氏)

 VAAKで用いているのは、顔や体の動きなどから年齢や性別、行動を検知し、それをもとにこの人が不審、危険であると判断する行動解析の技術。これをサービスとして活用している。実際のシステムを映像で紹介した田中氏は、不審行動と検知された部分が赤く表示され、これをもとにアラートが出る形だと説明した。

 同社がこの行動解析を用いて、主に展開している事業が、「VAAKEYE」と「VAAKPAY」だ。VAAKEYEは、防犯カメラの映像を解析して、不審行動や犯罪行動を店側に知らせるサービス。VAAKPAYは、防犯カメラとスマホを用いて無人レジの仕組みを提供するサービスだ。特に、VAAKEYEの予測による犯罪の防止や、実際の逮捕事例は話題になり、各国の政府からの問い合わせもあるという。

 こうした事業を加速させている真っ最中のVAAK。ここからは、「社会性×スケーラビリティ(scalability)」を軸とした事業展開について、これまでの沿革を語った。

 田中氏は、VAAKの起業当時、「ビッグデータマネジメントの会社はいくつか登場して成長していたものの、非構造化データ、つまり映像や自然現物をマネジメントする会社はまだ少なかった」と話す。ここに注目し、非構造化データのマネジメントプラットフォーム作っていくことを目指し、VAAKはスタートしたという。「行動解析」というグローバルを見すえた技術シーズであること、公共性の高いマーケットであることも重視した。

 特に、行動解析は、新たなソリューションをいくつも生み出せる、事業ポテンシャルが非常に高い領域にもかかわらず、R&Dの進んでいない分野でもあることが、調査のうちに分かってきた。そこでVAAKでは研究開発を進め事業化に至ったのだ。

 そして、市場のニーズを見ても、国内の万引き推定被害額は4600億円、防犯対策額は1.8兆円という数字が出ており、あらゆる店舗において「万引きの防止」が大きな課題であることことは明らか。万引きGメンや防犯ゲート、防犯カメラを取り付けて抑止力を作るといった対策だけでは、費用対効果が合わず、万引きを実際には止められない。抜本的なソリューションがない状況だった。

 「VAAKEYEは『店舗運営から不正対策をなくしていく』を目指しています」と田中氏。VAAKEYEのシステムは、店舗の防犯カメラをクラウドにアップロードし、解析し、Webに渡す、といった仕組み。この構造に非常にマッチしており、開発メンバーも使ったことのあるAWSを採用して開発を進めていった。

 Amazon Kinesisに防犯カメラの映像をアップロードするとストリームで保存され、書き出される。

 「このシステムで苦労したのは価格」と田中氏は語る。GPUのサーバーコストとバランスをとりつつ、マーケットに落とし込むためにサービス可能な価格付けにしていくのが困難だったという。そうした課題を乗り越えた実際の成果は、万引き被害額77%の削減。万引き対策業務96%削減といった数値にも表れている。

 最後に田中氏は、VAAKが掲げるビジョンについて触れた。VAAKのビジョンは、「犯罪や事故の無い豊かな社会」だ。このビジョンには、事前に予測することで「犯罪や事故が未然に防がれる社会」と、もう一つ「内面的に豊かになることで犯罪が起こらない社会」という意味が込められているという。

 VAAKのサービスは、店舗の万引き防止をはじめ、その他にも例えば、商店街や通学路での喧嘩やひったくり、連れ去りなどを予防することもできる。駅ではホームの人身事故を未然に防ぎ、ビルや空港ではテロ対策としても活用可能だ。

 多くの映像解析システムにおいて、ここで問題になるのがプライバシーの問題だが、VAAKのシステムは人種などの個人情報ではなく、あくまで「行動」を基に解析するもの。「個人情報を用いずに、危険な人をスクリーニングし、検知することができる。この技術を用いて、プライバシー保全と、安心、安全の両立ができると考えています」(田中氏)。

 もう一つの「内面的に豊かになることで犯罪が起こらない社会」を目指す例としては、地方創生の取り組みを紹介。

 「地方では空き家が増え、治安が悪くなったりシャッター街が増えたりして、買い物がしづらくなっている。これに対して僕らは、ちょっと変わったアプローチですが『無人レジ』で貢献していけるのではないかと考えています」(田中氏)

 無人レジVAAKPAYは、スマホに表示したQRコードで店舗にチェックインし、商品を取るとスマホに情報が入ってくる。店を出ると決済が完了するといった仕組みだ。VAAKは、地方のコミュニティを再生のため、空き家を有効活用してこのシステムを設置し、買い物を便利にする取り組みを始めているという。

 多様なアプローチで、社会的なニーズの高いサービスを提供するVAAK。未然防止の意味も含めて「犯罪や事故のない豊かな社会を目指していきたい」と話し、セッションを締めくくった。

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この記事の著者

岡田 果子(編集部)(オカダ カコ)

2017年7月よりCodeZine編集部所属。慶応義塾大学文学部英米文学専攻卒。前職は書籍編集で、趣味・実用書を中心にスポーツや医療関連の書籍を多く担当した。JavaScript勉強中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://codezine.jp/article/detail/11490 2019/05/27 11:00

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