この連載で扱うハッカースペースとはどういうものかについては、初回の記事をご覧ください。
ハードウェアのオープンソースとは?
2015年9月19日、アメリカ東海岸のフィラデルフィアにあるユニテリアン派の教会で、オープンソースハードウェアサミット2015(以下OHS)が行われました。
ユニテリアン主義というのは、「何を信じるかはそれぞれが自分で決める」という自由で多様性を許容する宗派として知られ、一応キリスト教プロテスタントの各派から派生したものの、現在ではキリスト教だけのものではなくなり、ユニテリアンが集まって座禅、みたいなこともよく行われているようです。
著名な信者としてWWWの提唱者ティム・バーナーズ・リーが挙げられ、OHSの会場としてはぴったりの場所です。
ソフトウェアのオープンソースはCodeZineの読者にとって目新しいものではないと思いますが、ハードウェアのオープンソースという概念はまだあまり普及していないし、固まってもいません。
ハードウェアをオープンソースにする目的は、ソフトウェアのオープンソースが多くのプログラマの幸福を生み、商業的にも成功例をたくさん生んでいますが、ハードウェアでもそれと同じことができるといいと願って進められています。とはいえビットでなくアトムのハードウェアを相手にするので、ソフトウェアでの考え方がそのまま適用できない部分も色々と出てきています。
具体的なプロジェクトとしては、ソフトウェアの領域で、プログラマがよく使うツールほどオープンソース化されている事例と似たような進化が見られ、まずハードウェア開発者向けのツール、メイカー向けマイクロコントローラなんかが目立っています。
有名なArduinoも仕様が公開されていて、誰でも部品を買ってきて自作Arduinoを作ることができます。実際にサイズや機能の制約などで自作版が必要とされることも多く、多くの自作版が見られます。ただ、Arduinoについては商標が管理されていて、僕は自作したArduinoをArduinoとして売ることはできません(「Arduino互換のtksduino」のように、違う商標にすれば大丈夫)。仕様はオープンで、商標について管理されている形です。
ソフトウェアでは、オリジナルのコピーは完全にコピーですが、ハードウェアをコピーする場合、製造の手違いから、劣化品が生まれる余地があります。Arduinoと同様、販売している製品でも仕様を公開しているLittleBitsのように、仕様を公開することで製品に接続するモジュールを他の人が作りやすくなり、エコシステムが生まれる、みたいな展開もあります。
ハードウェアはソフトウェアと違って量産メリットが出るので、「仕様は公開するし改造していいけど、部品集めて作るより僕から買った方が安いよ」といった商売もしやすく、Kickstarterにはいくつもオープンソースハードウェアで、かつ商業的に成立することを目指した製品が並んでいます。いずれにせよ、まだ「良い意味悪い意味含めて、何が起こるかわからない」状態です。
作るための無形のノウハウ、たとえば、テストのやり方などもフォーマットを決めて公開した方がいいんじゃないか、外装データは3Dプリンタで読み込めるCADのSTLデータで公開している人たちが多いのですが、どの3Dプリンタでも同じように出力できるわけではないから、オススメの設定を定形化したほうがいいんじゃないか、など、いろいろと「何をどうオープンにするか」という基本的なところでも、まだ意見が出ています。
ともあれ、ソフトウェアのオープンソースに比べるとまだ「どう発展するかわからない」度が高く、サミットはアーリーアダプターで満ちていました。参加費が$240と高めのこともあり、参加者は300名ほどだったように思います。
全セッションの動画は先のURLで公開されています。なかでも気になったセッションをいくつか紹介します。