慢性的な人材不足
少し話は逸れますが、IT業界は慢性的に人材不足といわれています。経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、IT人材の不足数は17万人となっています。しかも、「IT人材白書2016」の調査結果を見ると、「不足している」という回答の割合は年々増えている状況です(図3)。
そんな中、人材の獲得・確保方法についての調査を見ると、ユーザー企業やIT企業では「社内人材の活用」が占める割合が多くなっています。
つまり日本のIT企業では、社内の人材不足を、社内の人間を育成することで解決しているのです。ではもう少し深堀りして、その育成される人とはどのような人か、見てみましょう。
IT業界は誰を育成しようとしている?
プログラマやSEは理系出身者だけではありません。実際、文系出身でも現場で活躍しているエンジニアはたくさんいます。ここでも「IT人材白書2016」を見ると、IT企業におけるIT技術者の最終学歴で情報系を専攻している人は、半分にも満たない状況です。これは、ユーザー企業ではさらに少なくなります。
IT企業であっても、新卒の入社時に求められる技術知識のレベルは低く、未経験でも特に問題ないことが多いです。就職活動の段階ではそれほど知識や経験を気にする必要はなく、ITに関する技術を学ぶのはOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)が中心かもしれません。学生の頃にIT技術を学んでいない人の中には、業務で使ったことがない技術をまったく知らない人がいます。理系出身者でも、自分が日常業務で触れない分野は「知っているとは言えない」という人が多いのではないでしょうか。
例えば、データベースエンジニアとして働いていると、ネットワークの構築については意外と知らないものです。しかし、本来はネットワークのことを理解していないと、しっかり性能を発揮するデータベースは設計できないものです。
プログラミングは得意でも、社内システムばかり開発していてセキュリティに関する知識がほとんどない。コンピュータはソフトウェアとハードウェアが一体となっているにもかかわらず、片方しか分からない。組み込みソフトウェアの開発が中心でデータベースを使うことがなく、SQLを知らない。残念ながら、これらはよくあることです。
しかし、社会人として経験を積んでくると、「知らなかった」では済まされない仕事が増えてきます。「学校で習っていないから知らない」といった言い訳も、もちろん通用しません。
変わらないITの知識×ビジネス視点
人材不足のIT業界は、専門知識のない人でも採用し、場当たり的に育てる文化が根付いてしまっています。このような状況では、知識に偏りのあるエンジニアが増えるのは必然といえます。それにもかかわらず、これからのIoT時代には「事業全体を俯瞰できる能力」が欲しいなどと言います。
さて、ここで話を元に戻します。不公平な気はしますが、業界にこのような問題がある以上、自分がしっかりしないといけません。事業全体を俯瞰できるようになる前に、まず自分を俯瞰してみましょう。IT業界で生き残るには、「自分にはどのような知識があり、どのような分野が苦手なのか」といったことを理解するのが第一歩です。自分のレベルや立場が分からないと、何が足りないのか気がつきません。自己スキルの棚卸し、つまり再確認することが重要です。
ITに関する技術だけでなく、世の中のビジネスも変わっていきます。その中でも古びない知識を持っておくと、変化に対応できる可能性が高まります。さらには、社会全体を「ビジネス目線」で見て、あらゆる技術を組み合わせて「課題を解決できる力」があると理想的です。
本連載では、今後のIT社会で生きていく中で求められる、ITに関する基本的な知識や考え方を、ビジネスと関連づけて考えていきたいと思います。
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