はじめに
ASP.NET MVC 3(以下、MVC 3)のController周りの改良点として、Dependency Injection(以下、DI)の容易な実装が挙げられます。今回はMVC 3におけるDI実装と利用方法についてご紹介します。
DIの登場の背景はJavaでのWebアプリケーション開発での課題が根底にあります。一昔前のJavaでのWebアプリケーション開発では、Enterprise JavaBeansコンテナと呼ばれるアプリケーションサーバーの起動が非常に遅いことが問題としてありました。この問題に対応し、テスト容易性の向上とコンポーネントの再利用性の向上を狙い考え、生み出されたのがDIと呼ばれる開発手法です。
DIとはクラス間の直接的な依存関係を排除する開発手法であり、DIを実現するツールのことをDIコンテナと言います。JavaにおけるDIコンテナとしてはJavaのSpring FrameworkやJBoss Seam、Seasarなどがメジャーです。.NET対応のDIコンテナは、今回ご紹介するNinjectやUnity、Seasar.NETなどがあります。
DIコンテナを利用することで、クラスAがどのクラスに依存しているかはアプリケーション実行時に解決されるため、クラス間の依存関係を排除してコンポーネント間の依存関係を疎にできます。これにより、各クラスはPOCO(Plain Old CLR Object)になるため、単体テストの実施やコンポーネントの再利用性が大幅に向上します。
各クラスの依存関係が疎であるため、特定のクラスに依存することがなくなります(図1~2)。
これにより、Microsoftの提供するライブラリのみでなく、OSSも含めた多様なコンポーネントを自在に組み合わせることも可能となります。
ここで、一度.NETにおけるDIコンテナについて簡単に紹介します。今回サンプル作成に使用するNinjectですが、こちらは先の紹介のとおり.NET上で利用できるオープンソースのDIコンテナです。Ninject自身は多くの機能を持ちますが、単純なDIコンテナとして利用する場合は、学習コストを抑えて簡単に利用できます。ソースコードはgithub上に展開されているので興味がある方は、確認してみるとよいでしょう。
その他、MVC 3で利用されるDIコンテナとしてUnityのようなプロジェクトもあり、Unityを利用したDI実装のサンプルとしてProject Silkがあるので、こちらも興味がある方は併せて確認してみるとよいでしょう。
なお、ASP.NET MVCの基本的な開発については過去の連載を参照してください。
- ASP.NET MVCフレームワーク 正式版 入門
- ASP.NET MVC 2入門
- 颯爽登場!ASP.NET MVC 3の概要を押さえる
- ASP.NET MVC 3Tools UpdateとView周りの改良点
- ASP.NET MVC 3における検証まわりの改善点
必要な環境
次の環境が必要です。
- Visual Studio 2010(Visual Web Developer 2010でもOK)
- ASP.NET MVC 3 RTW版
- ASP.NET MVC 3 Tools Update(日本語版含む)
- Pubsデータベース
- Ninject
Visual Studio 2010(以下、VS 2010)のインストールは、Visual Studio 2010 Beta 2と変わらないので、「Visual Studio 2010 Beta 2を使ってみよう」を参考に行ってください。
ASP.NET MVC 3 RTW(Relase To Web)はこちらからダウンロードできます。インストールはウィザードに従って進めるだけです。
ASP.NET MVC 3 Tools Updateはこちらからダウンロードできます。AspNetMVC3ToolsUpdateSetup.exeをインストール後に、AspNetMVC3ToolsUpdateSetup_JPN.exeをインストールすることで、VS 2010上での表記が日本語になります。インストールはウィザードに従って進めるだけです。
本サンプル・プログラムを動作させるにあたっては、無償で提供されているNorthWindデータベースとPubsデータベースを使用しています。
NinjectはNuGetでインストール可能です。VS 2010のメニューから[表示]-[その他のウィンドウ]-[Package Manager Console]を選択して、PackageManger Consoleを表示します。その後、以下のコマンドを入力するだけです。
Install-Package Ninject
今回触れる内容
本稿では、次の内容に触れます。
- MVC 3におけるDIを使い分ける指針
- MVC 3におけるDIの利用方法