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【デブサミ2014】セッションレポート (AD)

【デブサミ2014】13-A-4 レポート
みんな幸せ! 「自走できるエンジニア」を育成するDeNAの新卒研修

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 2013年の春、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の新卒エンジニア研修チームは、70人弱の新卒者に行う教育内容で悩んでいた。一斉研修では、教育が行き届かない。現場のニーズは年々変わる。熟考の末、研修チームは、新卒者も配属先も幸せになれる新卒研修として、「自走できる(自ら学び、成長していける)エンジニアの育成」に取り組んだ。それはどのような研修であり、どのような成果を得たのか。研修チームのメンバーであった同社の関口亮一氏が、立ち見が出るほど盛況な会場で語った。

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株式会社ディー・エヌ・エー 関口亮一氏
株式会社ディー・エヌ・エー 関口亮一氏

研修内容が現場のニーズから乖離してきていた

 「新卒研修というと、すでにエンジニアとして業務に就いている私たちからすると遠い印象があるが、本当はすごく身近で大事なもの。参考にしていただきたい」

 セッションの冒頭、こう切り出した関口氏は、一般的な新卒研修の問題点について語り始めた。一般的な新卒研修では、新卒者が期間限定で集められ、詰め込み方式で教育を受ける形式が多い。知識が身につかないまま、新卒者が配属されることも少なくない。その結果、配属先からは「負担が増える」、新人からは「現場に行けば何とかなると言われた」と責められ、ついには研修のせいにされる。「世にある新卒研修には、こんなイメージを持っている」(関口氏)。

 しかし、DeNAでもこれと似たようなことが起きたり、起きる要素が出てきていた、と関口氏は明かす。

 DeNAでは毎年、新卒採用を行っている。入社してくる人のレベルはさまざまだが、「未経験者が多く、プログラムを書いたことがない人も大勢いる」(関口氏)。2013年度は、このような新卒者が70人弱も入ってくることになった。しかし、研修を担当するのは現場エンジニアが3名、外部講師が数名だけ。十分とは言えなかった。

 加えて、現場が教えておいてほしい、教えておくべきという項目は、言語やDB、設計、サーバーサイド、クライアントサイド、アプリなど無限にある。「教えることを絞ったとしても、未経験者には難しすぎるので無理。そこで、やれる範囲でやりましょうということになっていたが、毎年、全然やれていなかった」と関口氏は振り返る。講師の中には「トレンドの技術や知識とかよくわからない」という人がいる上、現場のニーズがどんどん変化することから、研修内容が年々、現場のニーズから乖離していく傾向にもあったという。

 そこで、2013年度新卒エンジニア研修チームは、研修自体の問題を整理することに着手。見えてきたのは、「新卒者の技術レベルが配属先が求める水準に達していない」「研修で身に付けた知識が現場で生きてこない」「現場では教える時間も暇もないため、新卒者といえどもしっかりやってほしい」という3つの問題である。これらを踏まえ、研修チームは研修の目標を、「業務や領域の変化にも対応できる」「主体的に継続的に技術習得できる」「技術以外も成長できる」人材の育成と定めた。

 その後、DeNAではこのような人材を「自走できるエンジニア」と呼ぶようになる。関口氏も、この呼び名をとても気に入っているとのことだ。

育成の肝は「レビュー」にあり!

 「自走できるエンジ二ア」を育成するにはどのような研修にすればよいのか。研修チームが導き出した答えは、新卒者の研修成果に対し「レビュー」を行うことだった。

 DeNAでは以前から、「座学 → 企画 → 設計 → 実装」という4つのフェーズを設けて研修を行ってきた。新卒者には、2週間の「座学」で簡単な知識を身につけてもらった後、「企画」(お題は設定)、「設計」(DB開発や画面作成など)、「実装」を順に体験してもらう。研修からの卒業は早抜け方式である。「早ければ2カ月で卒業となる。一番遅い人だと最長9月末まで研修していた」(関口氏)

 2013年度の新卒研修では、この各フェーズの中で5~7回の「レビュー」を実施することにした。レビューは1回1時間。新卒者と講師が1対1で行う。関口氏によれば、「このレビューが、研修を成功に導く重要なカギとなった」という。

 とはいえ、70人弱の新卒者を個別指導するレビューである。相応に広さのある場所が必要となる。この研修では、広めの会議室を半年間ほど貸し切り、パーティションで区切ってレビューブースを作った。ブースの中には、ホワイトボードと外部ディスプレイが置かれ、新人と講師が対面で向かい合って座る。

新卒研修のレビュー風景
図1.新卒研修のレビュー風景

 「レビューはアウトプットの場でもあり、インプットの場でもある。レビューなくして、この研修は成り立たない」と関口氏は力強く語る。

 自走できるエンジニア育成のカギを握るレビュー。レビューに対する講師の姿勢も大切である。

 「新卒者が間違ったことを示してきたら、講師は正しくそれを論破すること。特に重要なのは納得させることだ」と関口氏は指摘する。「彼らも一生懸命に課題に向き合い、考えてきている。特に入社間もない頃は『何でもできるぞ』という自信もみなぎっており、イケイケ状態の人も多い。そんなモチベーションが高いときに、単に『これは間違っている』と言って切り捨ててしまっては、彼らも納得しない。相手が正しく納得する状態に持っていけるよう論破する。そうすることで、お互いの信頼関係も築ける」(関口氏)

 そのほか、関口氏は「指摘の仕方や促し方を一人一人変える」「レビューでの出来事や内容を記録する」ことなどを、レビュー時の重要ポイントとして挙げた。

日々の計測とフォローアップで新卒者が急成長

 研修のフェーズが進むと、ある問題が顕在化してきた。成長の個人差だ。このとき、「何が得られて何が得られていないのか。そのことに講師がいかに早く気づくか。そこが非常に大事」と関口氏は言う。早く気づいてあげることで、成長を促すために「より合う形に教え方を調整する」「強みを伸ばして弱点を克服させてあげるスタイルに変える」など、手を打つことができるからだ。

 しかし、70人弱の新卒者である。個々人を観察し、問題に「早く気づく」のは容易ではない。これを解決するための行ったのが「計測」である。先述の「レビューでの出来事や内容の記録」は、計測結果の役割を果たした。レビューの場以外でも、良い面や悪い面で気づいたことはどんどん書き留めた。技術力を測る方法として、Perlの筆記テストも実施した。こうして集まった情報を、毎日行われるミーティング(1時間)で講師全員が共有し、具体的なアクションを決定していく。もちろん、アクションの結果も記録し、アクションの効果を確認した。

 つまり、2013年度新卒エンジニア研修チームが行ったことは、Webサービスを成功させるのと同様、「徹底したデータ化」と「PDCAを回すこと」といえる。こうして無駄なく的確なアクションを実行でき、新卒者の成長も大幅に加速したという。

 ただし、指摘し改善を促しても、改善は新卒者本人に任せたため、なかなか取り組まなかったり、そもそも取り組み方がわからないという人もいた。そのような人に対しては、毎日あるいは隔日に30分間、改善するまで、講師が1対1で「フォローアップ」を丁寧に行った。

 フォローアップの内容は、人によってそれぞれである。プログラミングでハマったところの解消や、問題解決のトレーニング、議論のトレーニングなどが行われた。しかし、最も効果があったのは「成長促進のための徹底した振り返り」と関口氏は語る。その振り返りの方法として採用したのが、「KPT」(Keep/Problem/Try)というフレームワークである(参考資料)。「毎日、帰る前に実施してもらった」(関口氏)

KPTによる振り返り
KPTによる振り返り

 このようなフォローアップをすることで、人は「何がわかったか、何がわからないかが、わからない」「何のためにやっているかわからない」といわなくなり、本質を見抜く力がつくほか、自分がたどってきた道のりやゴールまでの距離を把握し、間違った道に入ったことを検知し、困難な課題にも立ち向かえるようになるという。つまり、間違ったアプローチをしたことに気づいたときには、ちゃんと元に戻って新しいアプローチに向かっていけるのである。

 関口氏は「フォローアップを受けた人は急激に成長する人が多かった」とその効果に驚きを隠さない。ただ、フォローアップは自分の弱い面と向き合うつらい場面でもある。だから無理強いをするのではなく、一人ひとりにきちんと合ったやり方で進めることに留意してほしい、とアドバイスする。

「組織のニーズに応えて研修計画を策定することは大事だが、変化が激しい業界では限界がある。組織の型にはめて人材を育成するのではなく、人にフォーカスした研修を行う。こうすることで、組織にフィットする人材が育成できる」(関口氏)

 最後に関口氏は、2013年度新卒エンジニア研修チームのメンバーである玉田大輔氏が作成した「大規模Perl初心者研修を支える技術」というスライドを紹介。「これを見るとより知識が深まると思う」と語り、セッションを終えた。

お問い合わせ

株式会社ディー・エヌ・エー

〒150-8510 東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ

フォーム: http://dena.com/contact/

URL: http://dena.com/

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