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見た目のデザインから意味のデザインへ――はてなのデザイナーがプロダクトの価値を高めるためにやっていること

はてなのプロダクト開発の舞台裏 第3回

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 はてなのプロダクト開発の裏側をお伝えするリレー連載の第3回では、デザイナーの村田智さんに、ユーザーに喜んでもらう価値を提供するため、デザイナーとして何を考え、どうデザインしているかについて紹介いただきます。また、職種をこえたコミュニケーションのヒントも併せてお伝えします。(編集部)

目次

デザインの重要性はますます増している

 Webプロダクトは世の中にあふれ、機能や品質が十分なプロダクトは、望めばすぐ手に入るような時代です。その中で人々に自分たちのプロダクトを選んでもらうためには、機能や品質を超えたなんらかの価値や意味が必要になってくるのではないでしょうか。これはわたしが所属する株式会社はてなで開発をしているプロダクトにとっても例外ではありません。

 わたしははてなの仕事の中で、このようなプロダクトの価値づくりにデザインが貢献できることをなんども経験してきています。「デザイン」という言葉にはさまざまな意味がありますが、Webプロダクトのデザインという文脈では、構造やユーザーインターフェースに関する情報アーキテクチャの話と、外観に関するビジュアルデザインの話の2つに、表面上は分解できるでしょう。そして、これらはプロダクトのコンセプトや意味が表出したものと考えられます。ただ、開発現場においてデザインが果たす役割はそれだけではありません。

 そこで本稿では、はてなのプロダクト開発の現場で、ユーザーに喜んでもらえる価値づくりのために、デザイナーとして何を考え、どうデザインを活用しているのかを紹介します。また、職種をこえたコミュニケーションを円滑にするヒントをお伝えします。

はてなのデザイン組織と現場での役割

 本題に入る前に、はてなにおけるデザイナーの組織体制を紹介します。はてなには大小さまざまな規模の、プロダクトを軸とした「チーム」があります。それぞれのチームにはプロダクトの性質に応じて、1人から5人のデザイナーが所属しています。そのうち1人はリードデザイナーとして各プロダクトのアートディレクションを担当していますが、どのデザイナーもロールの違いはあっても仕事の内容は変わりません。工程ごとではなく施策ごとに担当者をアサインしており、情報アーキテクチャの設計も、ビジュアルデザインも、フロントのマークアップやCSSのコーディングも、全員が同じように取り組んでいます。

デザインが常にそばにある開発

 わたしはいま、はてなのノベルチームの一員として、株式会社KADOKAWAが運営する「魔法のiらんど」や「カクヨム」のデザインをお手伝いしています。それぞれのプロダクトのメンバー構成は、デザイナーが1〜2人、エンジニアが3〜4人、ディレクターが2人です。一般にはクライアントワークという形態になりますが、KADOKAWA社とはてなは互いに信頼しあえる関係を築いており、プロダクトの未来をともに考えながら日々の改善を行っています。特にはてなが得意とするような、プロダクト開発・システム開発は、自信を持ってお手伝いしている部分です。デザインも企画もエンジニアリングも、ただ機能として動くものをつくることでは満足せず、はてならしい味付けのあるご提案をしています。

 そんなノベルチームの開発現場は、デザインがプロダクトの開発サイクルの中心に置かれている好例といえるでしょう。つまり、アイデアの創出からソリューションの定義、具体的なプロトタイプ開発から実装まで、さまざまな領域にデザインの面影が見え隠れしているということです。これはデザイナーだけの成果ではなく、開発にたずさわるメンバー全員が、デザイン的な思考を持ちあわせているから成り立っていることなのだと思います。メンバーの誰しもが「誰のために」「何を」「なぜ」つくるのかに関心があり、新しいタスクが生まれるたびにこれらについて意見を交わしています。理由が分からないものには手をつけたくないと声が上がるほど、あるべき未来とそこに至る道筋についての関心が高いです。デザインは決してデザイナーだけのものではありません。

 では、デザイナーは何をしているのかというと、具体的な成果物の情報アーキテクチャやビジュアルづくりに当然コミットしますが、手を動かす前のアイデア提案やビジュアライズ、手を動かしはじめてからの実現の推進に協力しています。こうして並べて見ると、あれもこれもと誇張しているように聞こえてしまいそうですが、決して誇張ではなく、デザインの存在がさまざまな領域に影響を及ぼしていることの裏返しなのだと捉えていただければ幸いです。プロダクトマネージャーがアイデアを打ち立て目標達成を目指すとすれば、デザイナーはユーザーが見て触れる部分の品質コントロールをしているようなものです。

 このようにさまざまな領域にデザイナーが関わっていける土壌が整っていることは、1人のデザイナーとしてありがたいことです。なぜならわたしは自身のデザイナーという職能としての本質を、見た目のデザインをする者から意味のデザインをする者へと再定義しようとしているからです。業務のうち、7〜8割くらいは実現のための仕事をしているのですが、目の前の課題から導き出される漸進的な開発は日常的にこなしつつも、非連続的な成長を手にいれるためのアイデア創出に挑戦しようとしています。技術的な制約や工数への意識は現場において欠けてはならないものですが、まずはどんなユーザーにどんな体験や価値を届けたいのか、そもそもなにをつくるべきかといった視点から思考をはじめています。

 例えば、カクヨムの「読書用ラベル」機能は記憶に新しい事例です。もともとはユーザーがフォローしている小説を、ユーザーの好きなように分類・整理するためのラベル機能を素直に実装することを計画していました。しかし、あらためてユーザーのユースケースを観察し、ニーズを把握した結果、多くのユーザーが同じ名前のラベル(例えば『あとで読む』)をつくっていることが分かりました。そこでカクヨムというプロダクトが、各ユーザーの小説の閲覧履歴を知っている特性を活かすことで、自動で読書の進捗ステータスごとに小説が分類されるラベルを用意するアイデアに行き着きました。結果的には、ライトなユーザーでもヘビーなユーザーでも、追いかけている作品の更新を気の利いた自動ラベルでチェックできるツールとして、Web小説投稿サイトにふさわしい管理機能を提供することができたのです。

カクヨムのマイページと読書用ラベル
カクヨムのマイページと読書用ラベル

 この事例から得られる教訓は、デザイナーの仕事を見た目を整える仕事であるとして殻に閉じこもることをせず、ラベルが使用される時の意味に立ち返ってみた結果、アイデアをよりプロダクトの特性にフィットしたかたちに、さらに一歩近づけて実現できたということです。

 わたしは手を動かしはじめる前の工程にもデザインが役立つと考えていて、企画的な側面での提案をよくさせてもらっています。そのため、ディレクターと二人三脚でそれぞれのアイデアを持ち寄って議論するということが日常茶飯事です。なんとなくビジュアル要素が強い部分はデザイナーが担当し、仕様やプロダクトのビジョンが現れやすい部分はディレクターが担当するということも多いです。企画も情報の流れを設計するという意味ではデザイン的な行為といえるでしょう。

 上述のようなデザイナーのアウトプットは、ある1つの中間成果物での表現に集約されています。それがこの記事の後半で紹介する「デザインモックアップ」です。


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著者プロフィール

  • 村田 智(株式会社はてな)(ムラタ サトシ)

    @murata_s。アートディレクター/デザイナー。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業後、2013年はてなに入社。ウェブやアプリの企画、情報設計、ビジュアルデザインをおこない、新サービスの立ち上げやグロースに貢献している。主な仕事に、サーバー監視サービス「Mackerel」、小説投稿サイト「カ...

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