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イベントレポート

事業コミットのプロダクト組織でぶつかった課題とは? ビズリーチの組織変革に学ぶ

「Developer eXperience Day 2021」レポート

 プロダクトはリリースして終わりではない。プロダクトづくりにおいては、事業戦略に基づいて何をどう作るか意思決定して実装し、スピード感をもって改善を繰り返していく。市場やユーザーの動向を踏まえて、大胆に修正する必要もあるだろう。それは、プロダクトを生み出す組織も同様だ。事業の成長に合わせて、組織体制も変化していかないと、ボトルネックや開発に無理が出る可能性がある。4月に開催された日本CTO協会主催「Developer eXperience Day 2021」では、「“開発者体験”で世界をエンパワメントする」を軸にさまざまなセッションが行われたが、その中でビズリーチの執行役員/CTO外山英幸氏が「プロダクト組織の変革」をテーマに登壇。事業や組織が拡大するにつれてぶつかった課題と、それに伴ってプロダクト開発の組織をどう変革してきたのか、事例をもとに解説した。

創業フェーズの組織は「職能を超えた一体感」を大事に

 外山氏は「今回のテーマのような、組織の話は答えがない」と前置きし、セッションを始めた。外山氏は現在エンジニア歴17年目。2017年にビズリーチに入社し、去年の2月から執行役員/CTOに就任した。

株式会社ビズリーチ 執行役員/CTO 外山英幸氏
株式会社ビズリーチ 執行役員/CTO 外山英幸氏

 ビズリーチは今年で12年目を迎えるインターネットカンパニー。昨年2月からグループ経営体制へと移行し、グループ名を新たにVisional(ビジョナル)とした。即戦力人材向けの転職プラットフォーム「ビズリーチ」を運営する株式会社ビズリーチは、現在グループ会社の一社として存在している。

 「以前は『ビズリーチ』のような成熟した事業と、出来立てほやほやの新規事業を一緒に経営することによるひずみも生まれていたが、グループ経営体制になったことで、既存事業・新規事業ともに、それぞれの成長フェーズに合わせた柔軟な経営が行えるようになった」(外山氏)

 同グループは、「ビズリーチ」を代表するHRテック領域以外のさまざまな課題解決にも取り組んでいるという。事業継承M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」や、サイバーセキュリティ領域のオープンソース脆弱性管理ツール「yamory(ヤモリー)」など、時代がもたらす多様な社会課題の解決を目指してサービスを提供。

 年々社員も増え続け、グループ全体で現在約1400名の社員が所属し、そのうちエンジニアは約300名。現在では多数の事業と社員を抱えるVisionalだが、もちろん創業時と組織の状況は異なる。

 外山氏は創業フェーズでは「計画の見通しも不明瞭だが、強いハングリー精神で意思決定の速さがあるので素早いマーケットフィットが可能となる」と説明。

 この創業フェーズでの組織づくりのポイントとして「限られた人員やコストで戦っていく必要があるので、責任と役割などと言っていられない。むしろ『できることは何でもやる』という強い意志が必要であるため、職能を越えた一体感が何よりも重要」と指摘した。同グループのバリューの一つ「事業づくりは、仲間づくり」という言葉も、まさにこの重要性を表しているという。

 組織づくりの難易度では、「創業フェーズは仲間づくりに難しさはあるが、それほど難易度は高くない」と話す外山氏。組織的な難易度が上がってくるのは、むしろ事業が成長・成熟してきたフェーズだという。「役割を定義し、組織だって動かなければ、無駄や欠落が発生していく」ためだ。外山氏は続いてこの難易度の高いフェーズについて、どんな課題が出てくるのか解説した。

プロダクト組織全体で、中長期的な課題に向き合うためには?

 成長フェーズにおいてプロダクトでは、さまざまな課題が生まれてくる。

 「事業の3~5年後を見据えた時に中長期のロードマップとしては、マイクロサービス化などの大きな方針を打ち立てていかなければいけないかもしれない。一方継続的な事業成長のため短期施策も数多く行わなければいけない。脆弱性などのリスク問題に対して、コストをかけて対応する必要もあり、また技術的な負債の問題も出てくる」(外山氏)

 これらの課題について「どれもないがしろにするわけにはいかない」と外山氏。プロダクトを成長させ続けるためには、必ずこれらのすべてと向き合う必要があるのだ。

 そして、これらの優先順位を判断し遂行していくのは、プロダクト組織になる。プロダクト組織には企画、デザイナー、アプリエンジニア、サーバーサイドエンジニアなど多様な職能・役割が存在する中で、どのようにすべての課題と向き合い、目的を達成していけばよいのだろうか。

 外山氏はここで、よくあるプロダクト組織体制のモデルとして、「職能別の組織で、ミッション遂行はマトリクス型のプロジェクトチームで行う」ものを挙げた。これはこれでうまくいく可能性があるモデルなのだが「多くの課題を抱えることがある」と外山氏は指摘する。

 なぜかというと、プロダクトには「プロダクト成長」という軸があるからだ。外山氏は「一般的な組織論には出てこない、プロダクト組織ならではの特徴」と説明する。

 というのも、プロダクトにとってのシステム設計(アーキテクチャ)は成長の礎となるため重要だ。コンウェイの法則にあるように、アーキテクチャは組織構造を反映させたものになる。そのためプロダクト成長の軸が考えられた組織体制が必要になってくるわけだ。

 では、Visionalはどのようにこれらの課題を乗り越えてきたのだろうか。創業以来、連続的に多様な事業を立ち上げてきた同グループは、特に2015年以降、すべての事業の成長を促進させるため、事業部型組織を採用したという。「ビズリーチ」「キャリトレ」など個々の事業ごとに企画やプロダクト開発、セールス、マーケティングなどのチームを抱えている。

 そして各事業部においてビジョンに基づいたBSCやOKRを掲げ、ミッションツリーを常に更新する。外山氏は、「ミッションツリーは部門間をまたぐ内容になることも多い。プロダクト開発のチームも、セールスやカスタマーサクセスなどさまざまなステークホルダーと連携してミッションを遂行する」と特徴を挙げた。

 また、その中のプロダクト組織(上図 プロダクト開発/企画チーム)の体制では、「逆コンウェイの法則」を利用した体制構築を行うことも多いという。つまり、どういったアーキテクチャにしたいか、から逆算して組織体制を考えるのだ。

 このようにして、プロダクト組織が各事業にコミットできる体制を作り出した甲斐もあり、組織・業績は右肩上がりの成長を続けている。

 ただし、業績が急速に伸びた反面、プロダクトとしては弊害も生まれてしまった。それは「中長期的な視点の欠如」だ。

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プロダクトが事業戦略に追い付かなくなる

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この記事の著者

岡田 果子(編集部)(オカダ カコ)

2017年7月よりCodeZine編集部所属。慶応義塾大学文学部英米文学専攻卒。前職は書籍編集で、趣味・実用書を中心にスポーツや医療関連の書籍を多く担当した。JavaScript勉強中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://productzine.jp/article/detail/246 2021/05/21 11:00

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