信頼貯金からアジャイル適用、そしてプラットフォーム戦略へ──三菱重工業のデジタル内製組織の取り組み
「プロダクトマネージャーカンファレンス 2024」レポート
エネルギーやプラント・インフラをはじめとする幅広い製品を展開する三菱重工業では、全社規模でのデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組んでいる。その中心的な役割を担うのが、各事業部門を横断してDXを支援するデジタル内製組織だ。この組織でプロダクトオーナーを務める武智博人氏は、2024年12月5日に開催された「プロダクトマネージャーカンファレンス 2024(pmconf 2024)」に登壇し、大企業特有の課題に直面しながらも、全社支援組織として成果を上げるための実践例を紹介した。
武智 博人(たけち・ひろと)

三菱重工業株式会社デジタルイノベーション本部 DPI部 SoEグループ CXチーム プロダクトオーナー
2015年に新卒で三菱重工業に入社。機械製造業のQAエンジニアとしてキャリアをスタートし、産業用エンジンや発電システムの開発、製造、サービスに携わる。2020年に、全社支援組織として設立されたDX推進部門へ異動。以降はプロダクトオーナーとして、顧客体験(CX)の向上を目指し、顧客と従業員のタッチポイント領域におけるプロダクト開発に従事している。
「重厚長大」企業におけるデジタル内製組織の発足と初期の課題
三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)は、エネルギー、プラント・インフラ、物流・冷熱・ドライブシステム、航空・防衛・宇宙といった幅広いBtoB領域で事業を展開している。同社は重厚長大な製品を扱う企業として知られるが、その内部は数十の事業部門で構成され、各部門が独立性を持ち機動的に運営されている。一方で、この柔軟性がもたらすメリットの裏には、個別の事業部門が限られた経営資源の中で十分なビジネスIT対応を進められないという課題がある。特に、顧客とのデジタル接点を強化する必要性が経営上の重要なテーマとなっている。
この課題に応えるべく、同社は全社横断で事業部門を支援するデジタル内製組織を設立。その中心でプロダクトオーナーを務めるのが武智博人氏だ。2015年に新卒で三菱重工に入社した武智氏は、産業用エンジンや発電システムの事業部門でQAエンジニアとして経験を積んだ後、2020年にデジタルイノベーション本部DPI部SoEグループに異動。現在は、全社のデジタル化を推進しつつ、横断的な課題解決に取り組んでいる。
三菱重工が顧客接点を重視する背景には、その製品特性がある。同社の製品には納品後も20年、30年と稼働を続けるものが多く、アフターサービスが長期的な顧客関係を支える重要な要素となる。武智氏が所属するデジタル内製組織では、消耗部品の購入プロセスを簡略化するWebサービスや、顧客と従業員のコミュニケーションを円滑にするツールの開発など、さまざまなサービスを次々と展開している。
武智氏はこれらのプロダクトマネジメントの取り組みを、アイデアの創出から実現に至るまでのプロセスを指す「0→1フェーズ」と、既存のプロダクトを拡張し、顧客体験の向上や市場価値の拡大を図る「1→10フェーズ」の2つに分類して説明した。
三菱重工のデジタル内製組織における「0→1フェーズ」の最大の目的は、最初に支援する事業部門と実績を作り、成功モデルを構築することだった。内製組織ができたばかりのころは実績がなく、社内で信頼を得るためには小さな成功事例を積み上げる必要があった。これが組織として直面した最初で最大の課題だった。
取り組みの前提として、組織内にはスクラムチームが編成されており、そのチームは事業部門のサービス部と協働しながら、最終的にはその先にいるお客さまに向けてプロダクトを提供していた。立ち上がりの段階では外部のアジャイルコーチの支援も受け、事業部門と共同でゼロから新しいプロダクトを開発するという形式を採用した。武智氏は「個人としてはデジタル内政組織としての最初のプロダクトオーナーでしたが、IT知識やマネジメント経験もほとんどなく、ゼロからのスタートでした」と振り返る。
そして、プロダクト開発が始まるや否や武智氏は「名ばかりプロダクトオーナー問題」という課題に直面した。事業部門との協働が必須のプロダクト開発において、あらゆる意思決定が事業部門側との合意形成を行う必要があった。結果的に、武智氏はプロダクトオーナーという肩書きを持っているものの、実際には事業部門がプロダクト開発の方向性を決定する真のオーナーとなっていた。
武智氏は、実態としては代理プロダクトオーナーの役割を果たしていた。プロダクトが適切にマネジメントされるよう、多方面から働きかける立場にあったが、その現実は厳しかった。労力に見合う成果も乏しい中、地道で泥臭い作業を愚直に進める以外に道はなかった。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務やWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR関連の事例取材に加え、英語での海外スタートアップ取材などを手がける。独自開発のAI文字起こし・...
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