PMMはこうして生まれ、根付く──黎明・構築・確立の3フェーズ
評価軸と職種論が「これからどう問われるか」の議論だとすれば、キャリアパネルは「PMMがどう生まれ、根付いてきたか」の実地報告だった。モデレーターの吉澤和之氏(プロデリア・パートナーズ)は、3人を組織のフェーズ別に配置した。役割を定義する前の黎明期に松原幹氏(カウンターワークス)、役割と仕組みを自ら立ち上げ中の構築期に乾梨紗氏(グロービス)、すでにPMMが組織化し「弥生 Next」シリーズの売上KPIを持つ確立期に喜多佑介氏(弥生)、という並びだ。
印象的だったのは、3人が口をそろえて「PMMを目指したわけではない」と語ったことだ。松原氏は「PMMという役割を目指していたわけではなく、自分がやりたいことを挙げていったら、全部できるのがPMMと呼ばれる職種だった」。乾氏も「私も全く一緒で、PMMは目指したことはありませんでした」と続けた。役割は、狙って就くものではなく、事後的に発見されている。
黎明期の松原氏は、入社して間もない、同社で1人目のPMMだ。多くの職種を巻き込んで動くポジションだからこそ、まずは組織間や顧客とのやり取りで認識のズレを生まないことが最優先だと考えた。だから着任早々、「PMMとは何者で、この会社で何をするか」を言葉で定義しようとして、いったんやめたという。
「『営業』や『開発』といった職種や顧客との間を動いてつなぐ役割なのに、その役割をあえて固定してしまうことは、今しなくてもいいかなと思った」(松原氏)
代わりに他職種の一人ひとりと話し、営業に同行し、「その人が喋っている言葉の意味を知って、まずは翻訳できるようになりたい」段階だと語る。役割の輪郭を急いで描かないことが、職種の越境にはむしろ効く、という逆説だ。
構築期の乾氏は、価値が受け渡される過程で「落ちるボール」を拾い続けるうちにPMMになった。「ここに穴があったら、誰の仕事かと考える前に埋めていく、みたいなことをやっていたら、『それって巷ではPMMっていうらしいよ』と言われて、今、私はPMMになりました」。転機は、開発現場の熱量に触れたことだった。「いいものをいいと届ける役割が私にあるはずだ、というのが大きな転換だった」。そして、これから目指す人への言葉が響いた。
「結構しんどい時もある。でも、それをやらないと、愛するプロダクトは世に出ていかない。それは私がやるしかない、と思える人は、きっとPMMがめっちゃ楽しいと思う」(乾氏)
確立期の喜多氏は、PMMが売上に責任を持つ組織の姿を示した。「基本的にPMMを担当するわれわれのチームでは、『弥生会計 Next』や『弥生給与 Next』などのクラウド製品の売上をKPIに持っている」。売上を大きな目標として置いたうえで、リード数、受注件数、更新率、アップセル・クロスセルなどを予算作成の段階でKGI・KPIとして言語化し、各部門と合意形成しながら目標設計する。製品ごとに専属のPMMを置き、喜多氏がそれを横断で束ねる。第1のパネルが提起した「KGIへの回帰」が、確立期の現場では売上責任という具体的な形をとっていた。
3人の道のりは、PMMという職種が「行為が先、名前が後」で立ち上がってきたことを物語る。吉澤氏はこう総括した。「気が付いたら自分がやっていることはPMMだった、コミュニティに入って気づかされた、という人が結構いる」。
フェーズが変われば、役割も変わる
「フェーズによって役割が変わる」という論点は、他のセッションでも具体的に語られていた。
キャディの笹口直哉氏は、マルチプロダクト環境でのPMM配置を「PMMアサインフレームワーク」として体系化した。プロダクトの成長段階をDiscoveryからPre-PMF、Post-PMF、Expansionへと並べ、どの段階で、誰を、どのプロダクトに割り当てるかを設計する。少数精鋭で仮説検証する初期にはPMMとしては置かず、販売先が広がるPre-PMFからアサインを検討、「再現性」が主題になるPost-PMFでは役割が確立し、Expansionでは事業開発や成長システム構築へと期待が一段上がる。「プロダクトフェーズが変われば、PMMがやるべきこと、必要なアクションは当然変わるし、求められるケイパビリティも変わってくる」と笹口氏は語った。
そして、フェーズを問わず残るPMMの価値とは何か。NECの田中将統氏・大原淳芳氏のセッションは、その問いに「AIと人の役割分担」から答えた。大原氏は、AIに向き合ううえで核心になるのは答えを出すことより「問いを立てること」だと言う。「問いを立てるのは、裏返すと自分の意思があるかどうか。自分が何をやりたいのか、これをどうしていきたいのかがないと、そもそもAIに何も問いを立てられない」。そして田中氏がセッションを締めた言葉が、AI時代のPMM像を端的に表していた。
「僕らは、答えを持つ人になるのではなく、問い続ける人でありたい」(田中氏)
職種の名は変わっても、「行為」は残る
2つのパネルが行き着いたのは、逆説的な結論だった。AIは職種の輪郭を溶かし、「自分の職種すら疑え」と迫る。それでも、プロダクトを市場で勝たせるという「行為」の重要性はいささかも減っていない。むしろ増している。
重松氏は最後にこう述べた。「これからプロダクトはコモディティ化するかもしれないが、プロダクトマーケティングのスキルは、専門スキルとしてこれからもどんどん伸ばしていくべきもの」。横道氏も「『PMMなんかいらない』と言いたいわけではない。同じ営みを学ぶ者としてコミュニティが集っているのは、すごく強いこと」と結んだ。
評価される単位が「作った量」から「経営に効いたか」へ移り、職種の名前は溶けたり結び直されたりする。それでも、市場で勝たせるために「問い続け」、落ちたボールを拾い、価値を届ける行為は消えない。前回問いかけた「足りない型」の中身は、突き詰めればこの行為を体系化し、育成し、評価する仕組みそのものなのだろう。
そして、その「行為」はPMMという職種の内側だけで完結するわけではない。市場で勝たせる営みをAIとデータで自動化し、収益プロセスそのものを一つのプロダクトのように設計・運用する。PMMの隣では、そんな新しい職種「GTMエンジニア」が、やはり行為が先・名前が後で立ち上がりつつある。次回は、この越境人材が現場で何を成し、どんな数字を動かしているのかを、具体的な仕事から追う。
