「良いものを作る」だけでは、もう評価されない
前回の記事で、国内のPMM(プロダクトマーケティングマネージャー)市場に「足りないのは人ではなく型だ」という調査結果を紹介した。役割の定義、メソッド、キャリアパス。プロダクトを市場で勝たせるための型が、まだ整っていない。
では、その型は何を指標に測られ、誰が担うのか。AIによって開発が民主化し、「良いものを作る」こと自体はますますコモディティ化していく。そのとき、市場で勝たせるPMMと、プロダクトに責任を持つプロダクトマネージャーの境界は溶けはじめ、「自分は何で評価されるのか」という問いが両者に重くのしかかる。
PMM JAPAN CONFERENCE 2026で、この問いに真正面から挑んだのが2つのパネルディスカッションだった。一つは、モデレーターを務めた真崎豪太氏に、Upflowを創業した重松裕三氏、Product Peopleの横道稔氏が加わった「PMMとPdMのKGI」をめぐる議論。もう一つは、黎明期(定義前)・構築期・確立期という異なる立場のPMM3人が語ったキャリアパネルである。本稿は主にこの2つを軸に、そこへ他セッションの視点を重ねて読み解く。
アウトプットの価値が下がり、評価はKGIへ回帰する
真崎氏はまず、KGI・KPIに対する考え方の変遷から議論を起こした。「これまでは、プロダクトの機能とか中間KPIみたいなものを重視する傾向が、10年前ぐらいからあった。要は、プロダクトが良ければ売れるという話だったが、そういう時代が変わってきた」。最終的な売上に対して、どう責任を求められるか。そこが大きく変わったという。
これを受けた重松氏の言葉が、この後の議論全体を貫く土台になった。
「会社経営している中で『KGIしかない』というレベルではある。(中略)AIが出てきてアウトプットがめちゃくちゃ増えて、どんどん出せますという中で、『何本リリースしました』とか、そういうものはあまり価値がなくなってきているんじゃないか。逆に、アウトカムと呼ばれるような、実際に経営に効くんでしたっけ、みたいなところへの関心が非常に高まってきている」(重松氏)
作った量ではなく、経営に効いたかどうか。評価の重心が、アウトプット(中間KPI)からアウトカム(KGI)へと移っている。横道氏は、これをKPIとKGIの原理に立ち返って整理する。「KPIは、どこに集中する力学を働かせるか、という話。KGIは、今の経営として、会社として何が重視されるべきか、という最上段のもの」。
なぜ今、その最上段が現場の評価軸にまで下りてくるのか。横道氏は投資環境の変化を挙げた。かつては成長率だけを見ていればよかったが、SaaSの投資環境が変わり、成長率と収益率を合算した「Rule of 40(40%ルール)」のような基準が求められるようになった。さらに生成AI時代には「Revenue per Employee(1人当たり売上)」が重視される。「それを今求められてくると、その下にぶら下がるKPIがやっぱり変わってくる」。経営に課されたプレッシャーが、そのまま現場のKPIを組み替えていく、という構図だ。
ただし、その持ち方は一様ではない。重松氏は「フェーズによってKPIの持ち方が全然違う」と補足する。すでに巨大なプロダクトの1機能を担うチームが会社の収益を直接動かすのは難しい一方、0→1フェーズなら「プロダクトの売上がもう自分のKPI」になる。KGIへの回帰は、職種やフェーズごとに違う顔で現れる。
「職種ありき」で考える危うさ
評価軸の話は、やがて「そもそも職種を分ける意味はあるのか」という、より根本的な問いへ進んだ。
口火を切ったのは重松氏がよく引くという「プロダクトマネジメントトライアングル」だった。顧客やプロダクト、会社といったさまざまな関係者の間をいかに取り持つかがプロダクトマネジメントであり、「一人で全部やるのは大変だよね、だから分担しましょう」という考え方だと説明する。分業は、一人の能力に限界があることを前提にした知恵だった。だが、と重松氏は続ける。「生成AIでアウトプットを出せるようになってきて、1人の人で全部プロダクトマネジメントをやりきる、みたいなことができてくるかもしれない」。
その前提の崩れを、横道氏が最も鋭い言葉で受け止めた。
「職種ありきで議論してしまう危険性を、特にこの生成AI時代にすごく感じる。元々は、やれることに限界がある世界で、職種の切り方をグッドプラクティスとして存在させ、そこを起点に考えることもワークしたが、いま職種がアンバンドルされている感じがある。(中略)AIによってやれることが増えているなら、分ける必要はないし、むしろ関わる人を無用に増やせば、伝言ゲームのように逆に生産性が下がってしてしまうリスクもある」(横道氏)
そのうえで横道氏は、行為と職種を切り分ける。「プロダクトマーケティングという行為自体の重要性は大きくは変わっていない。ただ、職種というものは、あえて自分の職種すら疑ってかかるようなことが必要なフェーズだ」。KPIも同じで、「今まで持っていたKPIでいいんだっけ、働かせたい力学が変わっていないんだっけ、と問い直す」ことが要る、と。職種の名前を出発点にするのではなく、「なすべきこと」から逆算して切り分ける。AIが分業の前提を溶かすいま、それが横道氏の投げかけた視点だった。
それでも職種は残る──名前がつくと「育成」できる
では、職種はいずれ意味を失うのか。横道氏はその答えとして「ある文脈では、職種の意義を残す価値がある」と語った。それは「育成」だ。
「この職種に名前がついたことで起きたメリットは、そこに必要なスキルや行動が体系化され、獲得しやすくなったこと。それはすなわち育成だと思う」(横道氏)
だからこそ横道氏は、職種をまたぐローテーション育成を重視する。「『プロダクトマネージャーを1年、PMMを1年経験しました』みたいな。大企業でも社長になる人は、いろんなところを経験していないとダメ、というのがある」。職種の壁を固定するためでなく、視野を広げて越えるための「名前」だという捉え方だ。
重松氏も強く頷いた。「名前がつくとちゃんと体系化される、というのは確かに、とすごく感じた」。自身がPMMを始めた2019年当時、日本語で書かれたPMM関連の書籍はなく、「『INSPIRED』に2ページだけある、みたいな感じで、何を参考にすればいいんだ、というところから始まった」。名前がつき、輪郭が共有されたことに職種としての価値がある、と。
さらに横道氏は、AI時代にこそ効く武器としてブランドを挙げた。競争優位の型を7つに整理した書籍『7 Powers』(スイッチングコスト、ネットワーク効果、規模の経済、ブランド、競合なきリソース、プロセスパワー、カウンターポジショニング)を引きながら、経営者やCPOと話して最も関心を持たれるのは「ブランド」だという。そして、こんな小噺を添えた。
「『IBMの製品を選定してクビになる社員はいない』というジョークがある。何のブランドもないところを選定して失敗したら怒られるが、ちゃんとしたブランドを持っているところなら、同じ失敗をしても怒られない。だからこそ、AI時代にそういうものの価値が増している」(横道氏)
真崎氏も「今でも、とりあえず某有名ツールの名前を出しておけば通る会社はまだまだあると思う」と受け、会場を沸かせた。作る技術がコモディティ化するほど、「誰の看板か」「どう位置づけられているか」というPMM的な価値がむしろ増す。職種存続論とブランド論が交差する、このパートは議論の山場になった。
