2026年5月27日に開催された、カケハシとキャディの共催イベント「Beyond the "SaaS" CxOの描く今後10年のプロダクト戦略」。大規模SaaSを牽引する4社のCxOによる座談会の後編となる本記事では、AIの台頭によって激変する「組織構造とキャリアのあり方」に焦点を当てる。海外で囁かれるジュニア層の採用減やエンジニアの役割変化といった最前線のトレンドを背景に、経営トップたちが語る「ジュニア不要論の真偽」や、これからのプロダクトマネージャーに求められる生存戦略をひも解いていく。
(写真提供:株式会社カケハシ)
AIが突きつける組織変容と「ジュニア不要論」の波
セッションの後半、モデレーターを務めるProduct Peopleの横道稔氏は、スライドを用いて北米を中心とした組織やロール(役割)の変容を示す8つのトレンドを提示した。そこには、「北米のある調査では、市場におけるジュニア採用が2022年比で大幅減」「LinkedInが新卒PMプログラムを廃止し、フルスタックビルダーの育成に刷新した」といった、AIの進化が現場に与える生々しい変化が並ぶ。
こうした環境下において、各社は組織や採用のあり方をどう見直しているのか。
LegalOn Technologiesの角田望氏は、自社における採用方針の変化を率直に明かす。「基本的には、AIによってその人の独自性や仕事のクオリティ、プロダクトであればより優れたプロダクトを企画する力が増幅されると考えています。そうすると、どういう能力を増幅するかがとても大事になります」と語り、作業者としてのジュニア層は採用しなくなっていると述べる。
また、ピープルマネジメントの業務自体も減少し、マネージャー陣もAIを活用して自ら手を動かす方向へシフトしているという。
「ジュニア層は脅威になる」──経営陣の白熱する議論
角田氏の意見に対し、「プロレスをしてくださいというフリですね」と笑顔で応じたのがSmartHRの芹澤雅人氏だ。芹澤氏は自身のエンジニアとしてのキャリアのスタートである2011年当時を振り返り、自らは「ジュニア不要にならない側」として反論を展開する。
「当時は『メモリ管理もできないのか』『ガベージコレクションに任せやがって』と言う人がいたんです。私は『そんなのガベージコレクションの方が優秀だ』と思っていました。結果として、今メモリ管理について知っている人は、組み込み系などを除いてほとんどいません」と芹澤氏は指摘する。テクノロジーは常に進化して人間をサポートしていくため、現在のシニア層がAI生成コードの品質に不安を抱く姿は、かつてのベテランと同じように映る可能性があるという。
さらに芹澤氏は、ジュニア層の持つ「可処分時間の多さ」と「学習スピード」を高く評価する。「自社にも新卒がいますが、本当に優秀でAIをネイティブに使いこなしています。(中略)どんどん新しいことを学んで成長していくので、あっという間に抜かされてしまうのではないかと思っています。ですから、全然ジュニア採用で良いのではないかと思います」と熱を込めた。
これを受け、角田氏は「私が言っているジュニアというのは、年齢や若者という意味ではありません。能力的な意味合いです」と補足する。AI登場以前に存在した「誰かがやらなければならない高度ではない作業」を担う層が不要になるのであり、優秀で成長する若手はどの会社も求めていると議論の解像度を高めた。
職種の境界線の融解と、再定義される「求める人物像」
議論は、プロダクトマネージャーに求められる資質の変化にも及んだ。カケハシの中川貴史氏は、角田氏の「手を動かすマネージャー」という見解に深く頷き、自社の採用像の変化について語る。
「デザイナー、プロダクトマネージャー、エンジニアの境目がなくなっていく前提で、基本的な論理的思考力の深さやキャッチアップ能力、かつ手を動かせるかといった、マネジメントだけではない部分へ見る目線が変わってきていると感じています」と中川氏は指摘する。
さらに同氏は、AIによってプロダクトを作るハードル自体が下がっているからこそ、ユーザーの深いインサイトを理解することがより重要になると強調する。「いかに深いユーザーインサイトから本当に刺さるものを考えられるかの方が重要になってくるのではないかと思っています」と語り、カスタマーサクセス出身者など、多様な経験を持つ人材がプロダクト作りに携わる機会が増えている現状を明かした。
効率化の先にあるボトルネックと「コンテキストマネジメント」
AIによる業務効率化が進む中で、プロダクト開発の現場には新たな課題も生まれている。キャディの白井陽祐氏は、「コーディングが早くなったといっても、エンジニアがコードを書いている時間は全体の5%〜10%程度です」と指摘する。要求の整理や設計に時間がかかっているため、コーディングだけを効率化してもボトルネックが移動するだけであり、現在は要件定義やレビューを行い、責任を取れるシニアエンジニアがボトルネックになっているという実態を明かした。
多くの作業が代替されていく中で、プロダクトマネージャーにはどのような専門性が残るのだろうか。白井氏はこれを「コンテキストマネジメント」と表現する。
「AIはある意味、商談録のデータを入力することはできても、全てのコンテキストを知っているわけではありません。ですので、自分が人間センサーとして機能し、『コンテキストマネジメント』をしているというのが、今価値を発揮しているポイントだと感じています」と語る。
様々な会議から得た情報を統合し、抽象と具体を行き来しながら社内の合意形成を作ること、そしてAIの平均的な回答に対し「私たちはどういうポジショニングを取るのかという意思を込めることです」と、明確な「ウィル(意思)」を持つことの重要性を強調した。
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斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)
株式会社翔泳社 ProductZine編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。ソフトウェア開発専門のオンラインメディア「CodeZine(コードジン)」の企画・運営を2005年6月の正式オープン以来担当し、2011年4月から2020年5月までCodeZine編集長を務めた。教育関係メディアの「EdTechZine(エドテックジン)」...
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