多くの企業がとどまる「レベル1」と、その先にある溝
Notionの共同創業者でCEOのアイバン・ザオ氏は、日本を「米国外で2番目に大きい市場」と位置づけ、毎年来日している。今回の来日でザオ氏が各所で答えてきた問いは3つある。AIはナレッジワークをどう変えるのか。AIの導入を阻むものは何か。そしてNotion自身は、この変化にどう適応してきたのか。
同社は顧客のAI活用を4つの段階で整理している。レベル1は「思考パートナー」としてのAIで、ザオ氏の言葉を借りれば「より良いGoogle」として使う段階だ。レベル2はアシスタントとしてのAIで、質問に答えさせるだけでなく、長い作業を任せる。レベル3は、頼まなくても裏側で自律的に動く「チームメイト」としてのAI。レベル4は、AIが会社のオペレーティングシステムの一部になった状態を指す。
ザオ氏が強調したのは、レベル2と3の間にある隔たりだ。チャットボットやアシスタントとしてAIを使うことと、裏側で自動的に働くチームメイトとしてAIを持つことの間には「大きな溝がある」という。
実際、同社が2026年に意思決定者とナレッジワーカーを対象に実施した調査では、グローバル(6118人)でレベル1が57%、レベル2が31%を占め、レベル3は10%、レベル4は2%にとどまった。日本(1010人)ではレベル1が66%と、さらに初期段階に偏っている。
では、なぜ一部の企業だけが溝を越えられるのか。Notionの見立てでは、原因は2つある。一つはコンテキストの分断だ。
「コンテキストとは、データの言い換えにすぎません。ビジネスのデータがあちこちに散らばっているから、AIはナレッジワークの自動化を手伝えないのです」
もう一つは、ツールやデータではなく、会社のカルチャー、つまり組織の硬直性である。前者への答えが同社のプロダクト戦略であり、後者への答えが組織の作り方だ。
エージェントがナレッジワークの「入り口」になるとき
ザオ氏によれば、ここ1年半、特に今年に入ってから、人々はAIエージェントをナレッジワークの「入り口」にし始めた。ドキュメントやスプレッドシートを作り、メールを書く時間は減り、エージェントと対話する時間が増えている。ザオ氏自身も「今日私にメールを送れば、おそらく私のAIエージェントが読むことになります」と話す。
エージェントを業務データにつなぐ仕組みとして広がったのが、MCP(Model Context Protocol)だ。ただ、MCPは新しい問題を2つ持ち込んだとザオ氏は指摘する。一つはガバナンスである。あらゆるエージェントがあらゆるデータソースに触れられるため、権限やセキュリティを締めにくい。「これが多くのCIOやCTOに眠れない夜をもたらしています」。
もう一つはコストだ。MCPはトークンを消費する。Notion社内でも、第1四半期にエンジニアのMCPコストを管理する必要に迫られ、第2四半期には非エンジニアのMCPコストがエンジニアを上回ったため、あらためて管理に乗り出したという。エージェントの利用が全職種へ広がると、コストの構造そのものが変わる。
こうした課題に対し、多くの企業がエージェントとビジネスデータの間に中間層を置き始めている。これが「コンテキストレイヤー」だ。ザオ氏は、会社のナレッジとデータを1か所に集約できるからこそ、コンテキストレイヤーはセキュリティやコストの問題だけでなく、レベル3・4の自動化を解き放つ鍵になると位置づけ、同社の戦略をこう語った。
「多くの企業は、AIエージェントで競争しています。私たちもエージェントを提供していますし、市場のほかのエージェントとも連携します。しかし、それ以上に重要なのは、世の中のあらゆるエージェントにとって最高のコンテキストレイヤーになることです。私たちは今、ここに事業を賭けています」
具体的には、エージェントの下に3つの層を考える。ナレッジベースとデータベースを提供し、Microsoft、Google、Snowflake、Salesforceなどの外部ツールとつなぐ層。権限管理やエージェントのオーケストレーション、バージョン管理を備え、人とエージェントが協働する層。そして、CIOやIT部門向けにガバナンス、分析、セキュリティを提供する層である。
クラウド大手もこの領域を強化する中で、勝算はどこにあるのか。質疑でこう問われたザオ氏は、AI以前からドキュメントとデータベースというコンテキストの「器」を持っていたこと、モデルプロバイダーではないためベンダーロックインが起きないこと、エージェントと働けるようアーキテクチャを作り直してきた速さ、の3点を挙げた。ショーニング氏は「APIが優れている会社は、たいてい人間向けの体験がそれほど良くありません」と補足し、ブロックモデルによって両立できている証拠として、MCPが同社で最も急成長しているプロダクトであり、3か月ごとに約10倍のペースで伸びていることを挙げた。
競合についても、MicrosoftやGoogleのような下のレイヤーではなく、プロジェクト管理やチケット管理、ナレッジベースといったSaaSの分断だとザオ氏は言う。それらを束ね、中立の立場から外部のエージェントにコンテキストを提供する構えだ。
自社エージェントの機能で勝つのではなく、他社のエージェントに「使われる」側で勝つ。エージェントが画面に代わる入り口になったとき、自社プロダクトのどこを競争の土俵にするのか。Notionの判断は、その問いに対する具体的な一つの答えとして読める。
