AIの進化で開発スピードが劇的に向上し、機能を手軽に量産できる時代が到来しました。だからこそ、プロダクトマネージャーには「本当に作るべきものは何か」を見極める力がかつてなく問われています。顧客の課題を深掘りする「ジョブ理論」はプロダクトマネージャーにとって馴染み深いフレームワークですが、技術的な制約が減った今こそ、改めてこの基本に立ち返る必要があります。本連載の第5回では、表面的な要望から顧客の本質的なジョブを捉え直し、事業価値と両立しながら「やる・やらない」の意思決定を下すための実践的な思考プロセスをお伝えします。(編集部)
1. なぜ今、顧客志向が必要なのか
技術革新と市場のグローバル化により、プロダクト開発を取り巻く環境は急速に変化しています。多様化する顧客ニーズに応えることができなければ、企業の持続的な成長は見込めません。
そのために必要なのが、顧客志向です。顧客志向とは、「顧客の要望をそのまま実装すること」ではありません。本質は、「顧客が抱える困りごとを正しく理解し、最も効果的な解決策を提供すること」です。
ヒアリングした要望をそのまま仕様に落とし込んでしまうと、個別最適な機能ばかりが積み上がり、プロダクト全体の一貫性や使いやすさが損なわれることがあります。重要なのは、要望の背後にある意図を捉え、解決すべき課題は何か定義することです。
2. 顧客志向を実現する「ジョブ理論」

顧客志向を具体的な思考に落とし込むフレームワークが「ジョブ理論」です。「ジョブ理論」(Jobs To Be Done: JTBD)とは、顧客がプロダクトやサービスを使う理由を「片付けるべき仕事(ジョブ)」のためとして捉え、その達成を起点に価値を考えるアプローチです。
例えば、「検索機能を強化してほしい」という要望が、営業やカスタマーサクセス経由で届いたとします。そのまま受け取ると、「絞り込み条件を増やす」「あいまい検索を追加する」といった検索画面の改修に着手しがちです。
しかし、「ジョブ理論」では次のように問い直します。
- 顧客は、どのような業務の流れの中で検索を使っているのか
- 検索によって、最終的に何を達成したいのか
- その達成を、何が妨げているのか
実際に顧客ヒアリングを進めると、次のようなシーンが見えてきます。
- 「クレーム対応の電話中に、過去のやり取りを数分以内に探し出したい」
- 「上司への報告資料に貼る数字を、ミスなくすぐに取り出したい」
ここで初めて、「検索機能の改修」が唯一の解ではないことが見えてきます。例えば、
- よく使う情報をダッシュボードに常時表示し、そもそも検索しなくて済むようにする
- 顧客対応画面の中に関連情報を自動表示し、探す手間をなくす
- 業務フロー自体を見直し、“検索が必要になる場面”そのものを減らす
といった、より本質的なアプローチが考えられます。
つまり、「検索を強化してほしい」という最初の要望に対して、検索画面には一切手を入れない、という選択肢すら生まれるのです。これが、表面的な要望ではなく、その背後にある顧客のジョブからプロダクトを設計する、という考え方です。
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- この記事の著者
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紀井 美里(株式会社ラクス)(キイ ミサト)
新卒エンジニアとしてラクスに入社し、「楽楽精算」の開発に約10年携わる。フルサイクルエンジニアとして設計・開発・運用を経験し、ベトナム子会社立ち上げ時にはブリッジSEとして海外開発をリード。その後、国内開発のチームリーダーを経て、2022年にプロダクトマネージャーへ転身。 インボイス制度対応では、...
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