日本IBMは7月15日、記者説明会を開催し、AI駆動開発ソリューション「AI Lifecycle Shared Engineering Artifacts(ALSEA)」の提供開始を発表した。AIエージェント駆動の開発パートナー「IBM Bob」の最新版「IBM Bob 2.0」と組み合わせ、仕様駆動開発を支援する。4月以降に80社以上で実施した先行検証結果や、みずほフィナンシャルグループとの協業事例も明らかにした。
システム開発を「過去40年で最も変える年」、仕様駆動開発を推進
日本IBMは2026年を「システム開発のあり方を過去40年で最も変える年」と位置付け、AIエージェント駆動のコーディングパートナー「IBM Bob」と、日本IBMのシステム開発ノウハウを組み込んだ「ALSEA」の2つを軸にAI変革を進めてきた。取締役副社長執行役員 兼 Chief AI Officerの村田将輝氏は、本年2月のAI戦略説明会や4月の発表を経て、「AIの価値を成果につなげる」ことに注力してきたと説明した。
ALSEAは、レガシーシステムが抱えるブラックボックス化や人材制約といった、いわゆる「2025年の崖」の課題解消を目的とする。技術理事 技術戦略・変革担当の前田幸一郎氏は、仕様を文書化して唯一の基準とする「仕様駆動開発」を核に据え、プロトタイピング向けの「バイブコーディング」とは一線を画す設計思想だと位置付けた。前田氏はALSEAを「AIエージェントに対する参考書のようなもの」と表現し、開発者の指示に曖昧さやばらつきがあっても、大規模開発のノウハウを構造化した「コンテキスト」をAIに渡すことで、成果物の品質を均質化できると説明した。
ハーネス機能で「問い返し」と「整合性チェック」を自動化
今回のアップデートの柱が、AIの挙動を制御する「ハーネスエンジニアリング」の導入だ。4月時点のIBM Bob 1.0とALSEAの組み合わせでは、入力された指示内容をそのまま忠実に実行していたのに対し、今回のIBM Bob 2.0とALSEAの正式版では、入力に曖昧さや不足があればAIが推測で埋めずに人間へ問い返し、必要な情報がそろってから処理を進める。また生成した成果物どうしの整合性を自動でチェックし、不備があれば自律的に修正を繰り返す仕組みを備えた。前田氏は、成果物の充足性確認などは非決定論的なAIだけに頼らず、決定論的な従来型プログラムも併用していると補足し、目的に応じて適切な技術を使い分けている点を強調した。
Bob 2.0はサブエージェントで高速化、トークン単価は業界最安値水準
基盤となるIBM Bob 2.0は、6月末のアップデートで、作業を分割して処理を効率化する「サブエージェント」機能や、Agent Skillsの読み込みによる生産性向上を実現した。複数のAIモデルを適材適所で使い分けるマルチモデル構成により、100万トークンあたり1.25ドル(約200円)と、調査上業界最安値水準のコストを実現しているという。IBM Bobの開発責任者ニール・サンダラサン氏の「ほとんどのAIコーディングエージェントはフェラーリで牛乳を買いに行くようなものだ」という言葉を引き、村田氏はBobの特徴を「ハイブリッド車のようなもの」にたとえた。
80社の先行検証を経て提供開始、有償版は9月に
4月の発表以降、日本IBMは銀行業・保険業・運輸旅行業など80社以上でALSEAの事前検証を実施し、特に要望の多かった品質整合性維持の仕組みを優先的に実装した。今後は7〜9月にALSEAの有償版提供やSAP(ABAP)開発への対応、10〜12月にはテスト自動化ツールとの統合やIaC・アジャイル開発への拡張を予定する。年内に100件のプロジェクトへの適用を目指し、6月末時点で国内800人、海外500人の技術者をすでに育成済みだという。
先行してBobを用いたPoCに取り組む、みずほフィナンシャルグループ 執行役常務 グループCIOの檜原伸一郎氏は、設計から実装レベルで約3割の工数削減を確認したと明らかにした。特に実装や単体テストといった「手を動かす開発」で効果が大きい一方、レビューを含むプロセス全体の最適化は今後の課題になるとした。また、AI駆動開発の広がりに伴い今後は人件費とトークンコストを合わせて最適化する視点が重要になるとの見方を示し、ALSEAとBobのコンセプトはそうしたコスト最適化の面でも実績が出ていると評価した。
日本IBMはシステム開発ライフサイクル全体で、2027年以降に35%の工数削減と30%の期間短縮を目標として掲げている。村田氏は、テスト自動化などと組み合わせることで2028年以降には50%の削減も視野に入るとしつつ、開発のあり方そのものを変える取り組みであるため、定着までには2028〜2030年ごろまでの時間軸を見込んでいるとした。
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近藤 佑子(編集部)(コンドウ ユウコ)
株式会社翔泳社 CodeZine編集部 編集長、Developers Summit オーガナイザー。1986年岡山県生まれ。京都大学工学部建築学科、東京大学工学系研究科建築学専攻修士課程修了。フリーランスを経て2014年株式会社翔泳社に入社。ソフトウェア開発者向けWebメディア「CodeZine」の編集・企画・運営に携わる。2018年、副編集長に就任。2017年より、ソフトウェア開発者向けカンファレンス「Developers...
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