現場でやってきたこと:「なぜ作るか」が届く環境設計
この2年間、ラクスのプロダクト部で向き合ってきた最大の問いは、「エンジニアが『なぜ作るか』を持ったまま開発に臨める環境をどう作るか」でした。取り組みは3つです。
①一次情報を直接届ける
商談やユーザーインタビューへの同席・録画視聴で、生の声に触れる導線を作りました。とはいえ、全員がすべてに同席するのは現実的ではありません。だからプロダクトマネージャーが一次情報を獲得し、判断に必要な形に整えて(クレンジングして)手渡す。プロダクトマネージャーの役割を「仕様を書く人」から「意味のある一次情報を届ける人」へと進化させました。
②意思決定の背景を仕組みとAIに載せる
「なぜこの仕様か」という判断の背景を書き残し、ストックし、構造化して、AIが参照できる形に整える。私はこれを「ハーネスエンジニアリング(※1)」と捉えて実践しています。コンテキストが載ることで、AIは文脈を理解した頼れるパートナーになります。
(※1) AIが安全に、安定して成果を出せるよう「AIが動く環境そのもの」を設計する考え方。
③組織の壁を越えた連携の設計
プロダクト部と開発組織は分けたまま、受け渡しの壁を限りなく低くして一体で動けるプロセスを構築しました。
もちろん、失敗もありました。情報をただ大量に流すだけでは、大事な文脈ほど埋もれる。越境が特定の個人に属人化すれば、それは美談ではなく組織の負債になる。全員をすべての上流に巻き込もうとすれば、現場が疲弊する。コンテキスト設計は足し算だけでなく、「引き算」でもありました。
一番の気づきは、個人のモチベーションや能力の課題だと思っていたことの多くが、実は「コンテキストが不足している環境の問題」だったことです。コードはAIが書ける時代になりました。でも「なぜ」は、いまも人が書いています。
おわりに
AI時代のプロダクトづくりに必要なのは、「変える勇気」と「変えない覚悟」の両立です。強い者が残るのではなく、変わる者が残る。ただし、何もかも変えてしまう者もまた残らない。製品解像度、覚悟、判断のOSという軸を手放さないまま、その周りを時代に合わせて変え続ける。私はこれを「螺旋的な進化」と呼んでいます。ARR500億円を超えた今だからこそ、この進化を実直に続けていきます。
