エンタープライズの3つの問いと、ロードマップに表れた設計判断
CTOのマックス・ショーニング氏は、この1週間で日本の顧客企業のCTOやVP of Engineering 150人以上と話し、エンタープライズからの問いが3つに収束しつつあると感じたという。1つ目はポータビリティで、エージェントやワークフローを特定のモデルプロバイダーに縛られず、モデルやエージェントの間で移せるか。2つ目はガバナンスで、社内システムへのアクセスをエージェントに与える中で権限をどう管理し、トークンをどう使い、従業員にどう配分するか。3つ目はROIで、AIに移した業務プロセスのうち、何がうまくいき、何がうまくいっていないのかである。
海外では小型モデルやオープンウェイトモデルの採用も進んでおり、Notionはそれらを横断する一貫した「コントロールプレーン」を提供する立場を取る。
ロードマップの注力点は多岐にわたる。繰り返し作業の手順を書き起こした「スキル」を、ChatGPTやClaude、Notion AIなど、どのエージェントからでも使えるよう組織で共有するスキルライブラリ。ソフトウェア開発者以外も自然言語でエージェントを作れるようにすること。APIやMCPを通じた外部サービスとの接続。そして、ユーザーのプロンプトを待つのではなく、スケジュールや業務上のイベントを起点にバックグラウンドで動く自律動作である。接続についてショーニング氏は、こう言い切る。
「どれほど賢いモデルでも、適切なコンテキストにつながっていなければ、会社のコンテキストに完璧につながった非フロンティアモデルに劣ります」
中でもプロダクトの作り手にとって示唆が大きいのは、次の3つだ。
1つ目はデータベースの拡張である。Notionのデータベースは、もともと人間が扱う情報量を前提に設計されていた。
「人が入力するなら、25万行はかなり余裕のある上限です。しかし今、私たちには新しい同僚がいます。エージェントです。そしてエージェントは眠りません」
そこで上限を1億行規模へ引き上げることを視野に入れている。誰がデータを書き込むのかという前提が変われば、仕様の前提も変わる。
2つ目はバージョン管理だ。「多くのエージェントが会社のコンテキストの上で働いているのに、何を変えたのかが見えなければ、どうしてそれを信頼できるでしょうか」とショーニング氏は問う。目指すのは、エージェントを会社のコンテキストの上で自由に動かしても、必ず「元に戻す」ボタンがある状態だ。エージェントに任せる範囲を広げるほど、取り消せることが信頼の条件になる。
3つ目は、開発者プラットフォーム「Workers」である。背景にあるのはコストの問題だ。
「トークンは非常に高価で、GPUで動かすのも非常に高価です。しかし、ほとんどの業務プロセスは、一度定義すればそれほど変わりません。ですから、普通の従来型のソフトウェアとしてコードに書き起こせるはずです」
業務プロセスは安く動かせるコードに書き起こしておき、業務が変わったときにだけエージェントにコードを更新させればよい、という考え方だ。投影資料では、AIの推論が不要な処理をCPUで確実に繰り返し実行する「Workers」と、判断や言語処理が必要な場面にだけAIを組み込む「ワークフロー」とを分けて示している。実行環境とセキュリティの分離はNotionが引き受ける。
毎回エージェントに考えさせるのではなく、確定した部分はコードに落とし、変化したときだけAIを使う。AIをプロダクトに組み込むときのコスト設計として、そのまま持ち帰れる考え方だろう。
