日本市場で進む「構築から入る」体制への再編
8月にNotion Japanのゼネラルマネージャーに就任した青木友氏によれば、日本では顧客との双方向のやり取りが増えている。全社導入したメルカリはサンフランシスコの本社を訪れ、研究者や開発者とコンテキストレイヤーの作り方を議論している。数千人規模で導入したトヨタでは、プロダクトチーム同士がエージェンティックな働き方を検討しているという。日本のエンタープライズ領域のARR(年間経常収益)は、2026年8月時点で前年比169%の成長を記録した。
日本電気(以下、NEC)とは約2年前から対話を始めた。コーポレートIT部門の約500のプロジェクトを一つのワークスペースに集約し、CIO向けのダッシュボードで可視化している。会議はAIミーティングノートで記録してプロジェクトにひも付け、エージェントが議事録や更新されたスケジュールから最新状況を取りに行く。青木氏によれば、約2000人の組織のCIOが現場の状況を知る手段は、これまで週報しかなかった。
「一番大きなブロッカーになるのは、チェンジマネジメントです。週報のような仕組みは、ボトムアップでは絶対に変えられません」
慶應義塾大学では、約1万1000人の教職員が168年分のナレッジをコンテキストレイヤーとして整備しており、導入から90日で教職員の約80%がエージェンティックワークフローを作成し、25万以上のAIアクションが実行された。政府情報システム向けのクラウドセキュリティ評価制度ISMAPへの登録も完了し、国内データセンターも稼働している。
プロダクトの作り手にとって示唆があるのは、売り方の再編だ。Notion Japanは8月から、営業・カスタマーサクセス・SDRという従来の分業を「Builder主導のGTM(Go To Market)」に組み替えた。顧客がエージェンティックワークフローで何ができるかを探るBDR(Business Development Representative)、営業から転換して最初から構築を支援するソリューションコンサルタント、契約後に顧客のアウトカム全体に責任を持つ新職種「アウトカムズアーキテクト」、プロダクトの責任者と組んで顧客環境にデプロイするFDA/FDE(Forward Deployed Architects & Engineers)の4職種である。
この再編の背景には、青木氏自身の経験がある。技術的なバックグラウンドを持つ青木氏は、コンテキストレイヤーのような「概念」を先に売ることに違和感を持っていた。NECの案件では、何をエージェント化すれば効果が出るのかを顧客と膝を突き合わせて作り、それが社内に広がって価値が伸びていった。
「このやり方以外に、アウトカムにつながる広げ方はできない。そう強く確信しています」
青木氏は売上の目標は持たないとし、エージェントの開発に熱心でもコンテキスト層まで考えている顧客は少ない現状に、コンテキスト層を届けることが最大の目標だと語った。概念が新しいプロダクトほど、説明より先に顧客と一緒に作ることが導入の入り口になる。
ツールだけでは越えられない溝、マーチングバンドからジャズバンドへ
溝のもう一つの原因である組織のカルチャーについて、Notion社内では「マーチングバンドからジャズバンドへ」という言葉を掲げている。AI以前の20年は技術が安定していたが、この4年でAIが登場し、言語モデルの作り手でさえ何ができるのか分からない。2週間ごとに新しいモデルが出て、顧客も何を求めればよいか分からない状況だとザオ氏は言う。
「未知の中を進むのに、過去の手順書に従うマーチングバンドのやり方は通用しません。即興で動かなければならない。組織として、ジャズモードに変わる必要があるのです」
その道のりについて問われたザオ氏は「極めてつらいものです。3年近く、今では4年かかっています」と率直に答えた。すべての楽器を弾ける人材は見つけにくく、従来のやり方で働いてきた人を育てる必要もある。適応できずに去る人がいても構わない、重要なのはチームの規模ではなく俊敏さだ、とザオ氏は言う。ショーニング氏は、リーダーにできる大きなことの一つとして、小さなチームが短期的に失敗してもよい状態の構築を挙げた。
ツールと組織の方向づけがそろったときに何が起きるのか。ザオ氏が挙げたのはNotion自身の人事チームだ。社員は過去1年で900人から1400人に増えたが、人事部門の人員は増やしていない。同じ規模のチームで、50%大きくなった会社を支えている。青木氏もNECについて、ジュニアのプロジェクトマネージャーでもシニア並みに動けるよう支援するエージェントなどにより、PMO業務がレベル4に近い形で成り立ちつつあるとしたうえで、成果にするにはプロジェクトマネージャーの人数を減らす、より多くのプロジェクトを割り当てるといった、組織としての方向づけが欠かせないと述べた。
エージェントの機能で競うのか、エージェントが使う土台で競うのか。そしてツールを入れたあと、組織の動き方まで変えられるのか。Notionが日本で語った戦略は、AIを自社のプロダクトに組み込もうとする作り手にとっても、自分たちの土俵と組織の両方を見直すヒントとなっている。なお、ショーニング氏が語ったNotionのプロダクト開発の現場の変化については、別途インタビュー記事として詳しく紹介する予定だ。
