企業のソーシャル化を阻む心理的、技術的障壁を乗り越えて
企業の情報の流れは、近年急速に変化している。一方向から、双方向、そして多方向、多様化へと向かっている。そして、企業だけでなく、ユーザーも情報の発信者となり、その影響力も大きくなってきた。情報は提供されるものから、生み出されるものへと変わってきているのである。
そんな中で、従来型の情報コミュニケーションチャネルで、なかなか解決が難しかった「ユーザーの声が届きにくい」という重大な問題点が、ソーシャル型の情報活用システムによって解決されつつある。ユーザー内でとどまっていた不満や疑問などを見つけ出し、効率的に改善することが期待されている。
しかし、そうした利点にも関わらず、ソーシャル化を阻む問題は少なくない。例えば、企業ではソーシャル化のメリットを感じる前に、企業が情報リスクに対する過度な恐怖を抱いているところも少なくない。林田氏によると「セキュリティや個人情報漏えいなどの可能性が残るうちは、活用を躊躇し、導入が遅れてしまうケースが少なくない」という。その不安に対し、林田氏は「クラウドと自社システムを明確に切り分け、出す情報と出さない情報をコントロールすることが大切であり、技術的に解決が可能」と語る。当然ながら流出時の検知や遮断、データの分散配置による流出時の被害の局所化などに配慮することも必要だろう。
また、ソーシャル化を阻む問題は開発側でも顕在化している。社内外のソーシャル開発はシームレスであるべきだが、これまで社内向けシステムとソーシャルアプリケーションの開発&ベンダーは、それぞれ異なっていた。職能を分けて依頼することも可能かもしれないが発注者の負担が大きい。また、エンジニア個人についても専門性や領域の壁は大きな問題だ。しかし、林田氏は「今後、ソーシャル化時代のシステム開発は、求められる要件に合わせて柔軟な開発が必要となり、技術者自身に求められるスキルは増える。そのためにはトレンドに乗り遅れず、複眼的な見地を持つことが重要」と技術者に向けて警鐘を鳴らす。つまり、領域の壁を持たずに全体を俯瞰した上で提案ができる力とともに、自分の専門領域を改めて再認識すべきというわけだ。
裏を返せば、そうした「しばり」をなくすことによって、システムの目的を明確に捉え、目的に合ったソリューションを実現するべく、フレームワークや実行環境をゼロベースで策定し、選定することができる。林田氏は「業務システム向けに標準化されたフレームワークや環境はWebには向いていないことが多い。ぜひともWebに向いた『Heroku』を活用し、Webに合ったフレームワークをフラットな視点から採用することが望ましい」と力説した。
ソーシャルアプリケーションを力強く支援する『Heroku』
続いて登壇した株式会社セールスフォース・ドットコム相澤歩氏は、『Heroku』について「ソーシャルアプリケーションを支え、デベロッパーの力を最大化するプラットフォームのリーダー的存在」と紹介。すでに200万以上のアプリケーションが『Heroku』の上で稼働しており、そのうちの多くがFacebook、そしてそれ以外のソーシャルとの連携を行っているという。『Heroku』のブレークスルーは2011年9月、Facebookとの内部的な統合が図られたことだろう。今ではFacebookアプリケーションのデフォルトのプラットフォームとして認識され、スターバックスやディズニー、アシックスなどの大手企業でも活用されているという。
それではいったい『Heroku』とは、どのような技術なのだろうか。相澤氏は「『Heroku』を利用するために新しく身に着ける必要のあるスキルはほとんどない」とし、既存で取得した技術が大いに活かせると語る。例えば、サーバを用意することなく、あらゆる開発言語やフレームワークを実行でき、スケールイン&アウトも自由に行える。つまり、開発者の生産性をアプリケーションに集中させ、構築までの時間を大幅に削減することができるというわけだ。
「あくまで関係者全員が必死に取り組んだものではあるが、『Heroku』によってここまでできた実績と考えていただければ」と前置きしながら、相澤氏は、ある組織での事例を紹介した。リアルイベントとWeb上でのソーシャルとを連動させた企画を、ビジネス起案からサイト公開までたった1週間で実現することができたという。
それを受けて、相澤氏は「Herokuの活用は、ベンチャーや中小企業だけでなく、大手企業や官公庁なども関心を示している。そうした厳しい水準の非機能要件を求められる組織の仕組みでも十分に『Heroku』は活用できる」と『Heroku』の有用性を強調。『Heroku』についての技術的情報提供は、現在は、英語によるものが主流だが、ユーザーコミュニティを主体とした日本語での勉強会や情報提供も活発に行われているという。興味のある方は早めにフォローされることをおすすめする。
株式会社セールスフォース・ドットコム