AIに任せて崩れるのは「安全」と「解像度」
山口氏はDeNAのゲームサービス事業本部 開発運営統括部 サウンド室で、サウンドディレクターを務めている。モバイルゲーム開発に従事しながら、新人研修など社内勉強会の講師も担当する。CEDECへの登壇は3回目で、今回のセッションは前年のCEDEC2025で行った「今日から使える!ゲーム開発に必須のコミュニケーションスキル」の続編にあたる。
前年に扱ったのは、コミュニケーションの「(文章構成の)型」だった。伝えることと伝わることは違う。「伝える」「伝わる」「行動してもらう」という3つのステップがあり、真ん中の「伝わる」を飛ばすと、ただ言いたいことを言っただけで終わる。だから事前準備が要る、という話である。
講演後、山口氏のもとには多くの質問と悩みが寄せられた。「その多くが私も経験している悩みでした」と山口氏は振り返る。寄せられた声は3つに集約された。「AIを使えば良いのでは?」「何が分からないのか分からない」「質問していいのか分からない(怖くてできない)」。今回のセッションは、この3つへのアンサーとして組まれている。
1つ目のAIについて、山口氏の答えは明快だった。「AIを活用するのは賛成です」。そのうえで、注意すべき点を2つ挙げる。安全面と解像度である。
安全面のリスクは2つ。情報漏洩・機密保持と、著作権・権利侵害だ。前者は、開発中の未公開情報を入力することで、将来的にAIの学習に使われたり、他者への回答として流出したりするリスク。後者は、AIが生成した文章やアイデアが、他者の知的財産を意図せず模倣してしまうリスクである。対策を打たないまま使えば、他社のAIユーザーに対して自社の開発機密が出力されたり、他社ゲームの既存のキャラ名やスキル名を提案されたりする事態が起こりうる。
対策として山口氏が挙げたのは、自社のAI利用ガイドラインを必ず確認すること、学習オフの設定を徹底すること、固有名詞や数値は伏せ字(マスク)にすること。著作権については、AIの出力にファクトチェック(事実確認)をセットにすること、アイデア出しまでにとどめて最終出力は人間の手で書くこと、そして権利関係の最終責任は自分にあると意識することである。
「それは他の業界の普通ですよね」
もう一つのリスクである解像度は、より見えにくい。山口氏はこれを、ハルシネーションと「文脈のズレ(一般論の罠)」の2つに分けた。前者は、存在しない仕様や間違った技術情報を「正しい」と言い切ってしまうこと。後者は、他業種の正論をゲーム業界の「普通」として語ってしまうことだ。
後者について、山口氏は自身の経験を挙げた。他社からサウンドの納品物について質問を受けたときのことである。「それは他の業界の普通ですよね」と思った、と山口氏は言う。メールで届いたその文面は、「AIが書いたようなとても丁寧な文章」だった。丁寧であることと、こちらの現場の前提を踏まえていることは、まったく別の話である。
対策も具体的だ。「知らないことは知らないと言って」とあらかじめ指示すること。「誰向け」「どんな前提か」という文脈を必ず入力すること。重要な事実は一次情報を自力で確認すること。そして、AIの出力をそのまま使わず、下書きの効率化や壁打ちとして割り切って使うことである。
「AIが出したからこれでいいや、と鵜呑みにするのではなくて、主体性を持って賢いパートナーとして使っていきましょう」と山口氏はこの章を締めくくった。
では、その「賢いパートナー」に任せられるのはどこまでで、どこからが人間にしか埋められない領域なのか。山口氏は次の章で、その境界を1枚の表として引いてみせる。
