AIに聞けるのは、6つのうち2つだけ
2つ目のテーマは「何が分からないのか分からない」である。寄せられた悩みは2種類あった。「他職種からの質問内容が理解できない」という、自分が理解していないパターン。そして「後輩の話が要領を得ず困っている」という、相手が理解していないパターンだ。山口氏の答えは、両者を1つにまとめるものだった。「職種の壁も若手指導も根本原因は同じです」「分からない部分の解像度をあげましょう」。
とはいえ、分からないものを前にした瞬間は誰でも焦る。「私はサウンド職ですが、エンジニアやデザイナーからの話が分からないなんてことは日常茶飯事です。もちろん今でもあります」と山口氏は明かす。だからまずは、いったん落ち着く。Slackなどのチャットであれば、「確認して折り返します」と一言送れば済む。
落ち着いたうえで、何が理解できないのかを考える。山口氏はここで「分からない」を6つに細分化した。
| 分からない事は? | どのような状態か |
|---|---|
| 言葉 | 専門用語や略語の意味が分からない |
| ツールの使い方 | やりたいことは分かるが、ツールの操作方法が分からない |
| データの仕組み | データの仕組みや、裏側でどう動いているかが分からない |
| 答えの場所 | ルールのありかや、誰が決定権を持っているかが分からない |
| 前提(文脈) | なぜ今その作業が必要なのか、背景や意図が分からない |
| 役割(期待値) | 話は理解できるが、自分に何を求めているのか分からない |
分類そのものより重要なのは、その先である。分からないことが何かを特定すると、取るべき手段が自動的に絞り込まれる。山口氏は6つの分類と6つの手段を掛け合わせた表を示した。
この表の左端に「AIに聞く」という列があることに注目したい。印が付くのは「言葉」「ツールの使い方」の2行だけで、残る4行は空欄である。一般的な言葉やツールであれば調べれば出てくるが、プロジェクト独自の言葉は調べても出てこない。データの仕組みや答えの場所も同様で、ここはドキュメントか有識者に当たるしかない。そして「前提(文脈)」と「役割(期待値)」に至っては、有効な手段が相手に質問の1列しか残らない。
冒頭の問い「AIがあるのに、わざわざ文章構成を考える必要はあるのか」に対する答えは、この表の空欄そのものである。なぜ今その作業が必要なのか、自分に何が期待されているのか。それは検索にも生成AIにも載っていない情報であり、その場にいる相手の頭の中にしかない。AIが埋められるのは情報格差の一部でしかなく、残りは依然として人に聞くしかない。
「分かりません」ではなく「○○という理解でよろしいでしょうか」
もっとも、聞けばいいというものでもない。山口氏は質問時の注意点として、「調べず(考えず)に質問しない」「仮説を立ててから質問する」の2点を挙げた。
具体的には、「分かりません、教えてください!」と丸投げするのではなく、自分で考えたうえで「○○という理解でよろしいでしょうか」「○○という解釈で合っていますか」と確認の形を取る。こうすれば自分の理解も深まるし、認識にずれがあった場合には、そのぶん詳細な説明をもらうことができる。
これは前年の講演で扱った、クローズドクエスチョンの応用でもある。答えに制約のないオープンクエスチョンは、聞く側は楽だが答える側の負担が大きい。対して答えが明確に決まるクローズドクエスチョンは、答える側の負担が小さい。認識のずれを埋めたいときは、後者のほうが速い。
先回りして「つまり○○だよね」と言わない
立場が逆になり、後輩の話が要領を得ないときはどうするか。基本は同じで、一緒に課題を整理していく。
有効なのは、話に見出しを付けてもらうことだ。「○○について××です」という形で、これから話すことにタイトルを付けてもらう。「仕様について、質問です」「実装について、相談です」といった具合である。これを考えてもらうだけでも、話はかなり整理される。合わせて、話のゴールも設定してもらう。承認してほしいのか、アドバイスがほしいのか、工数を伸ばしてほしいのか。大抵の場合、話を持ちかけるからには理由があるはずだからだ。
それでも整理がつかないときの問いかけとして、山口氏は「何の話をしたいのかな?」「何かしてあげられることある?」といった例を示した。ここで1つ、明確な禁じ手がある。先回りして「つまり○○だよね」と要約してしまうことだ。
「そうではなくて、本人に考えてもらいます。対話を通じて課題整理を学んでもらうのが重要です」と山口氏は言う。同じ内容を伝えるにも、「つまり○○ということかな?」と問いの形にすれば、考える主体は相手のままでいられる。
ここまでは、質問する側と、質問を受ける側の技術の話である。だが山口氏自身は、新人の頃、まったく質問できない人間だったという。
