3週間、聞けなかった
3つ目のテーマは「質問できない」だ。ここでも、寄せられた声は立場によって食い違っていた。若手からは「分からないのは分かるが、何を聞けば良いか分からない」「質問したいが、していいのか分からない」。先輩からは「若手が理解していないのに進めていく。なぜ質問してこないのか」。山口氏はこれを「双方の言い分がすれ違っていますね」と整理し、それぞれの立場を掘り下げていった。
質問したいができない理由は、2つに分けられる。1つは自分のメンタル問題。こんなことも知らないのかと思われるかもしれない、という恥ずかしさである。もう一つは先輩への遠慮問題。忙しい先輩の時間をもらうのは申し訳ない、という気持ちだ。
前者について、山口氏は自身の過去を持ち出した。新人の頃、先輩に質問できず、分からないことを3週間も放置してしまったことがあるという。結果、先輩からこう言われた。
「あのさ、あの件だけど、いつまで考えてんの。考えて答えが出る問題と、考えても分からない問題があるでしょう。分からないなら聞いて。山口さんが止まっていると、こっちの作業が進まないから。自分だけじゃなくて、他の人のことも考えて」
「はい、先輩は大変ご立腹でした」と山口氏は振り返る。「言い方もきつかったんですが、正しいことを言ってくれたんですよね」。考えて、調べて、それでも分からなければ聞くしかない。聞くという行為は恥ずかしいことではなく、情報格差を埋めるだけのことだ。講演資料では、この一節が「恥ずかしい」に打ち消し線を引く形で示されている。
さらに、考えることに時間をかけすぎて作業を止めれば、後続で作業する誰かの迷惑になる。不明点があるまま進めるのが一番まずく、その次にまずいのは、不明なまま止まることである。「自分のメンタルが問題の場合は、正しく理解したいだけです、と視点を切り替えて質問しましょう」と山口氏は促した。
質問して成長することは、むしろ貢献
もう一つの遠慮問題に対して、山口氏は「遠慮は不要です」と言い切る。その根拠として示されたのが1枚のグラフだった。
横軸に時間の経過を取り、先輩の指導時間と後輩の作業量を並べる。後輩が成長するにつれ、先輩の指導時間は右下がりに減り、後輩の作業量は右上がりに増えて、2本は途中で交差する。そこにチーム全体の作業量を重ねると、右に行くほど急な上昇を描く。つまり、質問して早期に成長することはチームにとって迷惑ではなく、むしろ貢献である。
遠慮という感情の問題を、時間軸の投資回収として説明し直したところに、この図の効きめがある。「こう思うと質問しやすくなりませんか」と山口氏は会場に問いかけた。
あなたは質問しやすい先輩か
では、先輩側が抱く「なぜ質問してこないのか」という疑問はどうか。山口氏はここで矛先を反転させる。「質問がない」のではなく、「できない」状況を作ってはいないだろうか、と。
山口氏は、先輩や上司に聞けないと悩んでいた若手たちへのヒアリングから、「質問しにくい先輩」の王道パターンを5つ挙げた。話しかけても体はパソコンに向いたまま。作業をしながら話を聞く。話し終わったら「聞いてなかった、もう一回言って」と言われる。話しかけると機嫌が悪くなる。話を途中で遮って結論を言われる。
対処は単純で、逆をやればいい。話しかけられたら体を相手に向ける。作業を止めて聞く。真摯に聴く。笑顔で聞く。最後まで聞く。「コミュ力がないので」「人と話すのが苦手で」という声に対して、山口氏はこう返した。「これ、よく見てください。やればできることなんですよね」。チームをうまく回すため、みんなの心理的安全を守るための心がけであり、平たく言えばこれも仕事である、と。
「話しやすい上司」を分解する
もっとも、「逆をやればいい」だけでは抽象的だ。山口氏は続けて、自身の今の上司がなぜ話しやすいのかを、本人の了承を得たうえで分析した表を示した。
注目したいのは、右側にある「受け手の感じ方」である。同じ「もう一度説明してほしい」という依頼でも、どこが分からなかったのかを添えるだけで、受け手には「聞いていなかった」ではなく「聞いたうえでもっと知りたい」と伝わる。話しやすさという主観は、こうして場面ごとの具体的な言動に分解できる。
質問を待つのではなく、確認しにいく
最後に山口氏が挙げたのが、仕組みの話である。質問がないのは、本人が「理解しているつもり」なだけかもしれない。ならば質問を待つのではなく、こちらから確認しにいけばよい。
確認の方法として示されたのは、作業をどのように進めるかを、本人の言葉で説明してもらうことだ。複雑な作業であれば、工程表を作ってもらうとなお良い。加えて、決まった時間に業務報告を受ける場を日次や週次で設け、作業計画のどこまで進んでいるかを報告してもらう。
このとき有効なのが、前章にも出てきたクローズドクエスチョンである。「○○の進捗はどこまで進みましたか」「○○さんに資料は渡しましたか」のように、答えがはっきりしている聞き方をする。逆に避けたいのは「最近どお?」「○○の件、どんな感じ?」といったオープンな問いかけだ。聞く側は楽だが、答える側には難しい。コミュニケーションに慣れていない相手ほど、前者のほうが機能する。
セッションの最後に、山口氏はこう述べた。「ツール(AI)は進化しても、最後に伝えるのは人です」。コミュニケーションで悩みを抱えていた自分がどう解決してきたかを、手法とマインドをセットで話した。「もちろん、これが正解でもすべてでもありません」と断ったうえで、前年と今回の講演を合わせて「コミュニケーションのお悩み解決辞典」として使ってほしい、と結んだ。
なお、本セッションの資料作成にあたって参照された書籍として、『コンサル時代に教わった 仕事ができる人の当たり前』『コンサル時代に教わった 仕事ができる上司の当たり前』(ともに西原亮著、ダイヤモンド社)、『世界で一番やさしい資料づくりの教科書』(榊巻亮著、日経BP)の3冊が紹介されている。
