「何ができるか」より先に「何が存在するか」──その「顧客」は企業ですか、担当者ですか
プロダクトの地図の描き方──OOUXではじめる構造設計 第2回
前回は、「被害報告」という一つの言葉の下に別々の「対象」が混在したまま開発が進み、誰の期待にも沿わないシステムができあがった例を紹介しました。では、その「対象」は誰がどうやって見つけ、どこで線を引けばよいのでしょうか。OOUX(オブジェクト指向UX)が「何ができるか」より先に問うのは、「何が存在するか」です。第2回では、プロダクトの中に存在するものをどう洗い出し、粒度と呼び名をどう揃えるかを解説します。画面のデザインに入る前に、そして要件定義に入る前に、チーム全員で確認しておくべき構造の話です。(編集部)
対象を「見つける」ために
前回は、プロダクト開発において「対象」を先に定義することの重要性を、実際のプロジェクトで経験した失敗例とともに紹介しました。「被害報告」という一つの言葉の下に、本来は別々に定義すべき対象が混在していた、あの話です。
では、その対象の境界は、誰がどのように決めるのでしょうか。例えば「顧客」は、契約先の企業なのか、そこに所属する担当者なのか。この認識がチームでズレたまま設計が進むと、さまざまな場面で矛盾が生じます。何を一つの対象として扱うかは、デザイナーやエンジニアだけの判断ではありません。プロダクトの目的や将来像に関わる、プロダクトオーナー(プロダクトの意思決定を担う人)の意思決定でもあります。
本連載で扱うOOUX(Object-Oriented UX:オブジェクト指向UX)は、プロダクトが扱う対象(オブジェクト)を起点に、情報の関係性や構造を整理していく設計思想です。今回は、そのOOUXにおける「オブジェクト」の考え方を通して、対象の見つけ方と、その境界の捉え方を解説します。
「何ができるか」より先に「何が存在するか」
「注文する」「選ぶ」「座る」「置く」。できることを動詞で並べても、それが何に対する行為なのかが分からなければ、具体的な状況は思い浮かびません。
ところが「コーヒー」「ソファー」「テーブル」「レジ」という名詞が出た瞬間、具体的な場面を思い浮かべやすくなります。人は対象を認識すると、その対象が何であり、それに対して何ができるかを考えます。
複雑なシステムを解読するにあたっても大きく二通りのアプローチがあります。一つはタスクフローやプロセス、そのシステムが持つ機能から整理する方法。そしてもう一つが、そのシステムを構成している名詞、ものやコンセプトを確認する考え方です。OOUXでは後者の考え方で進めます。これはオブジェクトの方が機能やシナリオより大事というわけではなく、単純にこの順番の方が理解がしやすいからです。
この順番は、実際の設計作業でも効いてきます。編集、承認といった操作でも、その対象が明確であって初めて、一貫して設計できます。これが、OOUXがタスクや機能より先にオブジェクトから考える理由です。
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伊藤 環(株式会社PIVOT)(イトウ タマキ)
国内外の企業を経て株式会社PIVOTに参画。業務システムからコンシューマー向けアプリまで、幅広いプロダクトの情報設計・UXデザインに従事。複雑な業務要件を整理し、ユーザーとビジネスの双方にとって分かりやすい情報構造・体験設計を得意とする。2025年、Sophia V. Prater氏が提唱する「OO...
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