オブジェクトとは何か
ここからは、OOUXにおける「オブジェクト」とは何かを、もう少し具体的に見ていきたいと思います。前回から「対象」という言葉を使ってきましたが、OOUXでは、この対象を「オブジェクト」と呼びます。
オブジェクトとは、現実世界で人が認識している、名詞で表される概念です。人、場所、もの、出来事などが該当し、それらがプロダクトに存在することで、ユーザーとビジネスに価値を提供します。
それは単にシステムで管理されるデータの単位ではなく、ユーザーがプロダクトの中に何が存在し、それらがどのように関係しているのかを理解するための単位でもあります。つまりオブジェクトは、ユーザーがそのプロダクトに対して頭の中に持つ期待や理解のイメージ、メンタルモデルを構成する要素です。
例えば案件管理システムであれば、「案件」「顧客」「契約」などがオブジェクトです。そしてそれぞれのオブジェクトには複数の具体的な実体(「案件」であれば「ABCサイト改善」など具体的な案件)がインスタンス(※1)として存在します。
よく間違えがちなのは、ボタンやナビゲーションのようなUIコンポーネントをオブジェクトとして捉えることです。これらはオブジェクトそのものではなく、オブジェクトを表示したり操作したりするためのUI上の手段です。人は「カレンダー表示」そのものを見たいのではなく、「予定」を確認したいのです。カレンダー表示は、予定を見せるためのUI上の入れ物にすぎません。
(※1) 記事ではオブジェクトに焦点を当てているため、インスタンスの詳細については割愛しています。
オブジェクトを見つけ、絞り込む
概念は理解できても、実際どこから手をつければいいのでしょう。ここではその具体的な進め方を紹介します。
オブジェクトの候補は、ユーザーインタビューや既存のドキュメントなどから、その領域で使われている名詞を幅広く抽出することで見つけます。ただし、名詞で表されるものすべてがオブジェクトになるわけではありません。重要なのは、候補として挙がったものについて、次の3点を確認できることです。
オブジェクトを見つける
- 前回の被害報告の例と同様に粒度について確認します。例えば案件管理システムで「顧客」という名詞が抽出されたとしたら、それが個人または企業単位で管理するものなのかをビジネスとプロダクトの目的に沿って確認し、定義する必要があります。
- 同じものを違う名前で呼んでいたり、違うものを同じ名前で呼んでいたりしていないか、呼び名の揺れの確認も重要です。これは単なる表記のゆれではなく、そもそもチーム内での認識のズレのサインである可能性があるからです。言葉の認識と意味を揃えることは手戻りの回避だけではなく、システム全体の使いやすさに直結します。
- その対象がユーザーやビジネスにどのような価値をもたらすのかを確認し、オブジェクトとして存在させる目的を明確にします。具体的には、その対象がユーザーの目的達成に必要か、ビジネスにとってほかの対象と分けて扱う必要があるかを確認し、そのうえで、今回のプロダクトのスコープに含めるかを判断します。
すべてのオブジェクトを初期スコープに含める必要はなく、優先度に応じて範囲を絞ることも重要な意思決定です。
こうした判断は、設計者だけに任せることはできません。現場のメンバーは業務の実態を伝え、デザイナーはユーザーにとって理解しやすい構造を考え、エンジニアは実装上の整合性を確認します。そのうえでプロダクトオーナーには、その判断がプロダクトの目的や優先順位、将来像に合っているかを確かめる役割があります。
