書く速度は爆速になった。それでも顧客に届くまでの速度は変わらない
柳川氏がスクリーンに映したのは、一本の詰まった通路だった。左端に「書く」があり、AIによって爆速になったと注記されている。右端には「出す」がある。その間を埋めているのは、ハンコが3つ並んだ「確認と承認の列」だ。手元で書き上がる量がどれだけ増えても、この列が短くならなれば、それが世に出るまでの速度は変わらない。
「列を速く捌く工夫では解けません。列に並ばずに、自分で引き受けて出す。ここができる人、つまり当事者意識のある人を増やすしかないんです」
氏はBASE(ベイス)の執行役員で、金融事業の責任者を務める。同社のECプラットフォームの加盟店向け金融プロダクト「YELL BANK」を、エンジニアとして立ち上げた人物だ。立ち上げ期は実装する側にいて、そこからプロダクトマネージャーになり、いまは事業の数字に責任を負っている。
そのキャリアを、氏は「拡大解釈」と呼ぶ。出発点は、プロダクトエンジニアという言葉そのものへの引っかかりだった。
「コードを書く人だったはずのエンジニアを、プロダクトに責任を持つ人まで広げて呼び直している。プロダクトエンジニアという言葉が流行り始めたときは、やられたと思いました。これは自分がやりたかったことだし、やってきたことだなと」
では、その解釈はどこまで広げられるのか。氏の答えは事業責任者までで、そのうえで「すべての人にお勧めはしません」と付け加えている。
広げているのは、スキルではなく責任の範囲だ
拡大解釈で広がるのはスキルではなく、引き受ける範囲だ。スライドでは、それが4段の階段として示された。
「最初は、書いたコードが動くかどうかだけを見ていました。次に、その機能が使われるかを見るようになった。いまは、事業として続くかを見ています。でも、やっていることは自分の中では地続きで、変わらないと思っています」
地続きだと言い切れる理由として、氏はエンジニアという職種の性質を挙げた。
「エンジニアは、もともとラストマンです。インシデントが起きたとき、最後に直せるのは自分しかいない。普通はテンパりますし、エンジニアもテンパるんですが、すぐに『どうにかするしかない』に切り替わる。責任を持つことに、とても敏感な職種だと思っています」
であれば、あとはその範囲をコードから事業の数字まで広げるだけだ。実際、事業の数字はエンジニアの言葉に翻訳できる、と氏は言う。
「事業計画は、予言書ではなくテストコードです。『こう動くはず』を先に書いておくもの。実行して数字で確かめて、通っていれば続行、落ちていたら直す。最初は赤字でもいい。RedをGreenにしていくのは、いつもの開発と同じです」
この比喩の先に、氏は自分の職務の定義を置いた。事業責任者の仕事とは、落ちているテストを通しにいく仕事である。
