「人間がチェックしてOK」という基準を、誰が変えるのか
講演の終盤、福島氏は最近よく聞く主張に違和感を示した。AI時代には誰でも機能を作れる、だからプロダクトの差別化はなくなる、というものだ。
「プロダクトは平準化しているのか、差別化されていっているのか。私は、過去最高に差別化される時代が今来ていると思います」
鍵は、業務のエンドツーエンド(最初から最後まで)の自動化にある。同氏が「ゼロタッチオートメーション」と呼ぶ状態だ。経費精算で言えば、理想はこうなる。
「カード決済した瞬間に経費精算が終わっています。マネージャーも承認していません。あなたは稟議を書いていません」
その裏側では、カードの与信、その場で決済してよいか、価格は適正かといった判断を、すべてエージェントが担っている。スライドには「人間からは、業務が完了したことしか見えない」とある。toBサービスのゴールは業務の完全自動化であり、業務を最初から最後まで終わらせたとき、それが強固なMoat(競争優位)になるというのが同社の見立てだ。
では、技術がそろえばこの世界は来るのか。福島氏はここで、もう一つの壁を挙げた。
「経費精算をすべて自動で承認します、というと、『いいね』という人と『むむ』という人がいます。『むむ』という人が悪いわけではなく、妥当な判断です。監査や内部統制の観点では、人間がチェックしてOK、というのが業務のすべての基準になっているからです」
エージェントがチェックしたものは、何を根拠にしていて、どう記録をさかのぼって確かめられ、どう修正し、どう監査できるのか。それを説明できなければ、会社の業務には乗らない。
福島氏が冒頭で「ループを閉じる」ための第一の関門に挙げたのは、エージェントを企業の内側に持ち込み、セキュリティや権限、組織のルールのなかで動かすことだった。ループを最後に閉じるのは、AIモデルの性能ではなく、人間が積み上げてきた業務のルールだということになる。
その役割を担う人材を、LayerXは「AI Builder」と呼ぶ。求められる力は5つある。
LLMやエージェントの技術的な性質と限界を理解する「技術・AI理解」。対象となる事業や領域について学び続け、事実を集める「事業・ドメイン理解」。1年後にはエージェントが10倍賢くなっている前提から逆算して、新しいデジタル化の在り方を描く「構想力」。既存の課題や組織文化を理解・尊重したうえで変化を実現する「変革力」。そして、変革を実際に前へ進める段取りを担う「推進・PM力」である。
福島氏は、個人のAI活用を否定しているわけではない。組織AIへ進むための第一歩として、欠かせないものだと位置づけている。そのうえで、講演をこう締めくくった。
「個人の生産性は、どんどん上げていってほしいと思います。ただ、それと組織の生産性が上がることは、必ずしもイコールではありません。エンジニアとしてとどまるだけではなく、越境してルールを変える、ルールを説得する、業務を理解する。そこまで踏み込んでほしいのです」
