「現状維持マインドへの危機感」から始まった、経営戦略レベルのリブランディング
──ユポ(旧社名:ユポ・コーポレーション)が、約3年間におよぶリブランディングプロジェクトに踏み切った背景からお聞かせください。
宮口卓也(株式会社ユポ 執行役員 戦略企画本部長/以下、宮口):私たちは2030年までの中期経営計画において、自らのありたい姿を「価値を創造する企業」と定めていました。その背景には、デジタル化の進展に伴う印刷・出力市場の縮小といった激しい環境変化だけでなく、安定した成長の裏で社内に蔓延しつつあった「現状維持マインド」に対する強い危機感があったのです。このまま既存の「合成紙」という市場に安住していては、これからの時代を生き抜くことはできません。
実は、エイトブランディングデザインに合流していただく1年前から、社内の戦略企画部でリブランディングに向けた準備を進め、ある程度の青写真は描いていました。しかし、そこからさらに具体性を上げ、単なるデザインの刷新ではなく、経営戦略の根幹を、そして社内外の意識を根本から変革するために、経営に伴走していただけるパートナーが必要でした。
西澤明洋(株式会社エイトブランディングデザイン 代表 ブランディングデザイナー/以下、西澤):最初にお話をいただいたときは、外から見ると売上も好調な優良企業で、何に困って我々が呼ばれたのかと驚きました。蓋を開けてみると、経営戦略の抜本的な練り直しや組織体制の変更という非常に上流のスコープからのご相談でした。
僕は自身の理論「ブランディングデザインの3階層」に沿って、ブランディングはロゴや見た目を整える下流の作業だけではなく、経営そのものをデザインすることだとお伝えしています。ユポはすでに1年間ほど準備を進められていた土台があり、この考え方を深く理解されていたため、僕たちはゼロからではなく、足かけ2年間のワークショップを通じてその解像度を上げることに集中できました。
模倣できない強みは、機能ではなく組織と歴史にあった
──製品やサービスの機能面だけでの差別化が難しい時代にあって、B2B企業におけるブランディング施策はどのような意義を持つのでしょうか。
西澤:B2B企業におけるブランディングの最大の目的は、「選ばれる存在になるために違いを作ること」です。技術や機能はいずれ競合にキャッチアップされ、コモディティ化の波に飲み込まれてしまいます。
そこで、ユポの「真の強み」についてワークショップで徹底的に深掘りしました。最初は耐水性や耐久性といった機能的な強みが挙がっていましたが、議論を重ねるうちに、オイルショックの苦境を乗り越えて新しい市場を開拓してきた「フロンティア精神」や、開発から製造、アフターサポートまでを担う「ワンストップソリューション」という組織や人の力にこそ、模倣できない強みがあると気づいたのです。
宮口:この強みを再定義したことで、これまでの延長線上ではない新しいポジショニングが見えてきました。それが、「合成紙」から「クリエイティブ素材」への転換です。創業当時の国策でもあった合成紙という枠を超え、お客さまと共に新しい価値を設計する素材事業へと進化する。そして、自らを「Value Co-Creator(共に創る)」と宣言し、1社で完結するのではなく、社会課題を解決するために外を巻き込んでいく姿勢を明確にしました。
西澤:このポジション変更は、社内でも意見が割れた大きな決断でした。「合成紙」というキーワードでインターネット検索すれば圧倒的トップになれるこれまでの蓄積や恩恵を捨ててでも、「クリエイティブ素材」という新しいカテゴリーを創り出し、育てていく道を選んだのです。これは、合成紙のリーディングカンパニーにとどまるのではなく、未知の市場を開拓するという明確な意思表示です。
秘匿してきた多層構造を、あえて公開した理由
──「クリエイティブ素材」への転換にあたり、これまで秘匿してきた技術ノウハウをあえて「見える化」したことも話題になりました。
西澤:ブランディングで新しい価値を生み出すには、「業界の『当たり前』をどれだけ忘れられるか」が鍵になります。素材メーカーにとって、多層構造などの技術ノウハウは競合からの模倣を防ぐために秘匿するのが常識でした。しかし、「一緒に新しい価値を創りましょう」と宣言しているのに、中身がブラックボックスでは、共創のしようがありません。そこで、専門家でなくても分かるレベルで製品の構造をオープンにしてはどうかというアイデアが、ワークショップの中から出てきました。
宮口:社内からは戸惑いの声もありましたが、最終的には「見える化したところで、我々の製造設備や長年培ってきたワンストップの体制はそう簡単に真似できない」という自信が背中を押しました。
さらに、一見すると同じように見える白いシートを「スタンダード」「テクスチャー」「サクションタック」といった機能別に再構成し、お客さまが直感的に選びやすい情報設計へと大きく舵を切りました。製造現場からも「自分たちが苦労して作っている複雑な多層構造を分かってもらえて嬉しい」と好評で、インナーブランディングの面でも大きな効果がありました。
