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人生を『変化するシステム』として捉える

人生を『変化するシステム』として捉える
#1 なぜ努力が報われないのか


構造を見るための道具、「システム思考」という視点

 五つの不一致は、互いにつながっています。冒頭の現場では、記事本数という物差しのズレが目標を歪め、現場の観察、判断基準の形成、情報経路の整備を評価対象から外していました。ただし、どの事例でも同じつながりが強く働くとは限りません。どのつながりが結果を繰り返させているかは、観察して初めてわかります。

 このつながりを見るための道具が、システム思考です。見る対象の側には名前があり、それをシステムと呼びます。道具と対象を分けておくと、「システムを作る」話と「システムとして見る」話が混ざりません。万能の道具ではありません。何を説明できないかは、この記事の末尾で扱います。

システムとして見ると、感情も手がかりになる

 連載の題名から、感情を抑えて手順どおりに生きる話を想像するかもしれません。ここでいうシステムは感情、身体、他者、環境、時間がつながり、時間を通じてある働きを生むまとまりです。不安や怒りも、何が起き、何を守ろうとしたかを知る手がかりになります。

 つながりは直接的には見えないので、記号で書いて確かめます。プログラムの代入は、右側が現在の値、左側が書き戻す場所です。

 x := x + 1

 次の状態 = 現在の状態 + 流入 - 流出

 下の式は、出入りで増減する蓄積を扱う形です。冒頭の現場なら、依頼した記事が流入し、公開した記事が流出します。書き手が見つからず自分で埋めた分は、翌週の余力から引かれます。確認漏れがあれば、問い合わせが遅れて流入へ戻ります。一本公開したという出来事から観察の範囲を広げ、何が蓄積し、どれだけ遅れ、結果が次の原因をどう変えたかを見ます。

 自分について作った説明も書き戻されます。担当者が「自分の力が足りない」と結論づければ、次に試すのは本数を増やすことだけになり、その説明に合う経験だけが増えます。だから、その言葉を生んだ経験と、次の選択をどう狭めたかを見ます。

 システムとは、要素・つながり・目的が作る働きのまとまりです。冒頭の場面へ当ててみます。線形的に考えると、こうなります。「本数が足りない → だから記事を増やそう」。増やせば、その月の数字は動きます。しかし、半年後に何が変わっていれば成功なのかは、増やしても決まりません。なぜか。

 システムとして見ると、こんな構造が浮かび上がります。

 矢印の(+)は前が増えると後ろも増える関係、(−)は前が増えると後ろが減る関係です。図には輪が二つあります。

 外側の輪は増幅します。本数で測るほど依頼と催促が増え、本数が伸び、また本数で測ります。増えるほど増える、この輪を強化ループと呼びます。

 もう一つは押し戻す側です。催促が増えるほど書き手の余力は減り、余力が減れば本数も伸びません。本数は、余力が許す水準へ引き戻されます。この、ある水準との差を縮めようとする働きを調整ループと呼びます。抑え込む力ではありません。どの水準へ近づけるのかが決まっている働きです。名前だけ先に置いておきます。二つがどう組み合わさるかは第2回で扱います。ここで確かめたいのは、増幅する輪だけを描いた図は、たいてい押し戻す側を見落としているということです。

 図に入れなかった経路もあります。催促に時間を使うほど、何のために出すのかを確かめる時間が減ります。確かめないので望ましい状態は共有されず、本数以外に報告できるものが残りません。調整ループが本数を余力の水準へ近づける一方で、この経路は本数で測る状態そのものを保ちます。

 この図から固有の事情を外すと、同じ形が残ります。技術広報を、測れる指標で成果を測る仕事に置き換えます。

 二つの図は同じ構造で、異なるのは箱の名前だけです。抽象化の値打ちは、別の場面でも同じ矢印を探せるようになることです。ただし置き換えられるのは形までで、どの矢印が強いか、誰が指標を決めたか、変える権限が誰にあるかは場面ごとに調べ直します。一般の図は探す場所を教えますが、答えは持っていません。

 出発点は観察にあります。因果ループの名前を知っていても、起きた出来事を時間の中へ置かなければ、どの矢印が実際に働いているかはわかりません。依頼から原稿が返り、公開されるまでの経過と、会議で聞かれた内容をしばらく並べます。そこで初めて、繰り返しと時間差が見え、ループは説明の候補になります。

 観察は、見たものをそのまま書くことでもありません。「今月の公開は先月より一本少なかった」は観察できます。「担当者の力が足りない」は解釈です。「本数での評価と、確かめる会話の後回しが互いを強めている」は構造の仮説になります。この三つを分けると、担当者を責める前に別の説明を試せます。観察は構造を証明しませんが、構造を外れ得る仮説へ変えます。

システムの3要素を日常で見る

 先ほどの図で言えば、「公開できた本数」「依頼と催促の量」「書き手が引き受けられる余力」といった一つひとつの箱が要素です。自分の生活に置き換えれば、仕事、健康、人間関係、お金、時間、注意力、体力もそうです。そして、箱と箱を結ぶ矢印がつながりにあたります。

 冒頭の現場に、欠けている要素はありませんでした。担当者も、書き手も、記事も、報告する会議もそろっています。振る舞いを決めていたのは矢印の側です。公開できた本数は評価へ戻るのに、読者の反応が次のテーマへ戻る矢印はありませんでした。要素がそろっているのに同じ結果が続くときは、要素を足す前に、どの矢印が欠けているかを見ます。

 そして、最も見落とされやすいのが目的です。システムの目的は言葉で表明しているものと、実際の行動が示しているものがしばしば違います。

 冒頭の現場が、そのまま例になります。「技術広報は大事だ」と全員が言い、反対もありません。しかし書く時間は誰の予定にも入らず、会議で報告され、質問され、評価されたのは本数だけでした。このとき、この仕事のシステムが実際に保っていたのは、更新が途切れていないという状態です。届いた読者は、評価へ戻る経路に入っていませんでした。

 重要だと表明することと、時間の優先順位を上げることは、別の行為です。前者は会議で一言で済み、後者は誰かの締切を動かします。だから、表明された重要性だけが増え、配分は動かないという状態が安定します。担当者はその差の上に立たされていました。

 自分の生活でも同じ読み方ができます。「健康が大切」と言いながら、時間配分を見ると運動の枠がなく、睡眠も短いことがあります。表明した目的と、時間が実際に流れた先は、別々に観察できます。

 もちろん、時間配分は自由に選べるものばかりではありません。担当者に公開頻度を決める権限がなかったように、契約や生活費が決める部分もあります。それでも、選べる余地が残っている部分がどちらへ流れているかは観察できます。これは善悪の話ではありません。そのシステムが実際に何を保つよう組まれているかを先に確かめることが、変化の第一歩だという話です。

線形思考の限界

 目の前の出来事を考えるとき、私たちは「A → B」という短い因果で捉えやすいです。「勉強すれば → 成績が上がる」「努力すれば → 報われる」「転職すれば → 問題が解決する」。

 線形思考が悪いわけではありません。計算ドリルを解く、説明書どおりに家具を組み立てる、決まった額のローンを毎月返す。こうした場面では、正しいうえに速いです。円環や構造を持ち出すのは考えすぎです。

 見分ける順番はこうです。まず、結果が原因に戻ってくる矢印が1本でもないかを探します。次に、原因から結果までの時間差を見積もります。跳ね返りの矢印がなく、時間差も短ければ、線形に考えられます。

 繰り返す問題は違います。AがBに影響し、BがCに影響し、CがまたAに戻ってきます。円環です。

 同じ形が仕事の外にも出るかを確かめます。体重管理なら、食事を変える → 体重が変わります。ここまでは線形に見えます。しかし実際には、食欲、活動量、睡眠、継続しやすさなどが互いに影響します。強い制限が続けにくさを生み、中断後に以前の行動へ戻ることもあります。どの経路が強いかは人によって違いますが、結果が次の行動へ戻る矢印は存在します。ここでの目的は、戻り道を探すことです。どの経路が強いかを確かめるまで、原因は絞れません。

 もう一つ、仕事の例。生成AIで効率化したのに楽になりません。この「想定外」を線形思考で考えると「AIの使い方が悪い」で終わります。システム思考で見ると別の構造が浮かびます。

 効率化すると、同じ時間でより多くのアウトプットが出ます。量を評価する職場では期待値が上がり、より多くの仕事が振られます。回らなくなればAIへ渡す範囲が広がり、自分で予測・検証する時間が減ります。するとミスや手戻りを見つけにくくなり、もっと忙しくなります。この流れは一例であり、効率化で生まれた余裕を学習や休息へ戻せる職場なら、別のループになります。

 効率化の部分だけを見れば「もっとAIを活用しよう」と判断します。結果が戻るところまで見れば、「期待値の上昇が効率化を相殺していないか? 自分の判断力は追いついているか?」と問えます。問いの違いを生んだのは、結果が戻ってくる矢印まで観察の範囲を延ばしたかどうかです。

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生成AI時代、なぜこの話が今、重要なのか

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この記事の著者

nwiizo(ヌウィゾウ)

インフラエンジニアとしてホスティングサービスの開発・運用に携わり、深夜のオンコール対応をきっかけに、運用のあり方を本気で考えるように。現在は株式会社スリーシェイクにソフトウェアエンジニアとして在籍。技術書の翻訳や書籍の執筆をいくつか手がける。本を作ると、わかることが1つ増えるのと引き換えに、わからな...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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