SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

CodeZine(コードジン) ProductZine

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

人生を『変化するシステム』として捉える

人生を『変化するシステム』として捉える
#1 なぜ努力が報われないのか

「努力すれば報われる」 この言葉に支えられてきた経験があるからこそ、簡単には努力を疑えません。本連載は、どれだけ努力しても同じ結果になる構造をシステム思考で読み解きます。第1回は、記事本数だけが増える技術ブログの現場から、目標・時間・物差し・リソース・変え方の五つの不一致から、生成AI時代に成果物と判断基準が切り離される構造を考えます。

記事は増えたのに、成功を説明できない

 「この技術ブログは、半年後に何が変わっていれば成功ですか?」

 新しく自社の技術ブログを任された担当者は、その仕事を軽く扱っていたわけではありません。記事を書ける社内のエンジニアを探し、本業の工数を調整してもらいながら、原稿を待ちました。誤りが書き手の名前に残らないよう、公開前の事実確認は自分で引き受けていました。週の更新本数を落とさないことを、自分の仕事だと考えていました。

 この仕事の重要性は、誰も否定しませんでした。会議では「技術広報は大事だ」と言われ、反対する人もいません。ただ、書く時間は誰の予定にも入っていませんでした。エンジニアにとってブログの執筆は、自分の判断を検索できる形で社外へ置く作業です。書き慣れていないうえ、公開後に誤りが見つかれば、名前と一緒に残ります。心理的なハードルが高く、本業の締切と並べれば優先順位は下がります。

 だから担当者の仕事は、頼みごとの形になります。会社として大事だと合意された仕事の締切を、その仕事を後回しにするしかない忙しい相手へ、持っていくことになります。締切前に連絡すると、「今週は無理です」と返ってきます。次の書き手を探すたびに、別の断り文句が増えていきます。会議で公開本数を報告しても、質問は返りません。減った月だけ、理由を聞かれます。

 担当者は、返す言葉を持っていませんでした。手を抜いた自覚がないからこそ、答えられませんでした。画面には、公開済みの記事と、伸びた更新本数のグラフが残っていました。「がんばりましたね」とは言われます。労いの言葉はもらえますが、その記事が何を変えたのかは誰も話題にしません。本数は増えたのに、自分で選んで作った手応えだけが薄いです。それでも、半年後に何が変わっていれば成功なのかを、自分の言葉で言えませんでした。

 生成AIは、構成案、聞き取った内容の下書き、見出しの候補を短時間で作りました。書き手に白紙を渡さずに済み、仕事の速度はたしかに上がっていました。

 しかし、記事を出す作業だけが先行していました。誰のどの状態を良くしたいのか、どこまでを扱うのか、どんな反応が返れば次のテーマを変えるのかは、関係者と言葉にできていません。速くなったのは、記事が出る工程だけでした。

 丁寧にやろうとするほど、一記事ごとの作業に時間を使いました。書き手を探し、原稿を待ち、公開前に確かめます。相手の負担を増やしたくないので、「そもそも何のために出すのか」を持ち出す場は、いつも来週へ回りました。それを持ち出せば、忙しい相手の時間をさらに取ります。しかも、この仕事に意味があるのかという話にもなります。誰も答えを持っていないと分かっている問いを、煙たがられている側から差し出すのは難しいことです。約束を守る人で、他人の時間を尊重する人だからこそ、確かめる工程が後ろへ下がっていきます。

 一段だけ一般の言葉へ上げます。増えたのは公開済みの記事という蓄積です。増えなかったのは、次の判断に使える根拠と、現場から話が入ってくる関係でした。後者への流入は、望ましい状態を決める会話、材料を受け取る時間、反応を次のテーマへ返す経路です。担当者には、その止まった流入に手をつける権限がありませんでした。

 そして、報告に出てくるのは、増えた記事の側だけでした。測っているものと、保ちたいものが別です。しかも記事が誰に届いたかは遅れて分かり、その月の報告には間に合いません。測れるものが早く返り、保ちたいものが遅れて返るとき、評価は早い方へ寄ります。

 こう言い直すと、同じ形が別の領域にも出ることが見えます。毎日ジムに通っているのに目標とした体重の変化が出ない人。毎朝30分の英語学習を半年続けたのにスコアが横ばいの人。転職を繰り返すのに、どの職場でも同じ不満を抱える人。どれも、数えられるもの(通った日数、学習時間、転職回数)は積み上がり、保ちたいもの(体組成、使える語彙、関係の結び方)は別の流入を待っています。

 もちろん、単に量が足りないだけの場合もあります。ここで見たいのは、量を足しても変わらなかった側です。

 これは能力や怠惰だけで説明できる問題ではありません。ここには、成果物の量だけでは見えない構造があります。

次のページ
「努力が報われない」の正体

この記事は参考になりましたか?

この記事の著者

nwiizo(ヌウィゾウ)

インフラエンジニアとしてホスティングサービスの開発・運用に携わり、深夜のオンコール対応をきっかけに、運用のあり方を本気で考えるように。現在は株式会社スリーシェイクにソフトウェアエンジニアとして在籍。技術書の翻訳や書籍の執筆をいくつか手がける。本を作ると、わかることが1つ増えるのと引き換えに、わからな...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

CodeZine(コードジン)
https://codezine.jp/article/detail/29296 2026/09/02 09:00

イベント

CodeZine編集部では、現場で活躍するデベロッパーをスターにするためのカンファレンス「Developers Summit」や、エンジニアの生きざまをブーストするためのイベント「Developers Boost」など、さまざまなカンファレンスを企画・運営しています。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー